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堪らないわね、この異世界  作者: 佐藤釉璃
冬海 雪音
8/32

7.緑の瞳

※15話から、本格的にユキネが覚醒します。

 夢を見ている。

 人を殺す夢を見ている。

 なぜ夢だって分かったのかですって?

 さっき、頬をつねったら痛くなかったからよ。


 私を私じゃない誰かの視点で見ている。


 私が盗賊に右手を向けて何かを叫ぶ。

 途端に馬車を含めた盗賊たちの足元にどこかのゲームで出てきそうな、

 大きな魔法陣のようなものが現れる。


 その魔法陣が現れてすぐに、盗賊たちが炎に包まれた。

 盗賊たちの悲鳴と馬車の馬の悲鳴が聞こえる。


「ぎゃあああぁ!!」

「やめてくれえぇっ!!」

「あづいっ熱いぃっ!!」


 そして魔法陣がはじけて消えると共に大きな爆発が起きた。

 大きな爆煙があがり、

 がて晴れるとそこにはもう大きな焦げ跡しか残っていなかった。

 辺りには人のコゲる、嫌な匂いが漂う。夢なのに。


 人を殺した。


 その事実が夢に出てきたことで改めて実感してしまう。

 自分が人を殺めたということを。

 決して気分がいいものではない。


 まさか異世界に来て人を殺めるなんてね…。

 それも微塵も残さないほどに…。


 そこで私の夢が終わった。


「う、うぅ…。」

 まだぼやけてよく見えないが、

 どこかの部屋のベッドで仰向けに寝ているらしい。

「知らない天井…。」

 まさか、このセリフを言う時が来るなんて‥。

 そういえば街に来る前は見えていたHPやMPが見えなくなっている。

 なぜかしら…。


「ユキネさんっっ!!」


 ドアが開く音がしたと思ったら、ミーアの声が聞こえた。


「ユキネさんっっ!!!ぅう…ぐすっ、ユキ、ネ‥さん…ぐすっ」

 ミーアは寝ている私の側まで駆けて来て泣きながら私の顔を覗き込む。

 私は泣きじゃくるミーアの頭を撫でる。

 ふわふわで綺麗な銀髪。かわいい猫耳。

 そうして猫耳を撫でようとしたところで違和感を覚える。



「ミーア、左目…どうしたの…?」



 いや、あの時に盗賊に斬られたのは見ている。

 だからこの聞き方では間違っているのだろう。


「ミーア…左目…どうして、赤いの…?」



 そう、私の知っているミーアの目は綺麗な緑色をしていた。

 吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な、宝石のように輝いていた。

 だが、今のミーアの左目は輝いていない。いや輝いている…赤色に。


「えっと、私の左目はもう…。えへへ、ドジっちゃいました…です…」


「傷はもう治ったんですけど、

 回復魔法でもこれだけは…無理でした……です…」


 悲しげに呟くミーア


 私は罪悪感で押しつぶされそうだった。

 私をかばって盗賊に斬られた、

 ミーアは『私のせいで』左目の『視力』を失ってしまったのだ。


「でも、大丈夫ですよっ?猫族は目がいいんです!

 片目でもユキネさんよりみえてま…‥……ユキネ…さん…?」


 なんて謝ればいいのだろう。なにで償えばいいのだろう。

 どんな顔をして、

 私に心配をかけないように明るく笑うミーアを見ればいいのだろう。


「な、泣かないでで下さいユキネさんっ!!ですっ!!」

 ミーアにそう言われてはじめて自分が泣いていることに気づく。


「うぅ、グスッ…‥ミ、ミーア…ごめんねぇ…ごめん…ぐすっ、なさい…。

 ほんと、に、、ごめんねぇ…うぅ…ごめん…」

 眼の奥が熱い。涙で視界がゆがむ。嗚咽でうまくしゃべれない。


「だいじょうぶ、です。ユキネさん、大丈夫っ!ですっ!」

 そう言ってミーアは

 ベッドの上で体を起こして土下座しようとする私を

 小さな身体で精一杯抱きしめてくれる。

「私はだいじょうぶ、です。

 ユキネさんが助けてくれたから、こうやって生きてるんです。」


 涙の止まらない私をミーアは泣き止むまでずっと抱きしめてくれた。


 左目と失った馬車だけで被害が収まったのは奇跡で、

 私は助けてもらってお礼を言うべきだと、

 ミーアは私が謝罪の言葉を口にするのを禁止した。


 そのことでまた泣いてしまったことは内緒よ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで、ここは一体どこなのかしら?」

 そう言う私の目は真っ赤に腫れている。しかたないでしょ。


「はいっ!ここはアクアリスのなかの治癒院、です!」

 そういうミーアの左目は赤い。わたしのせいね…。


「あとから来た冒険者の方たちにここまで運んでもらったみたいです。

 幸い、入港証は燃えていなかったので…。です!」


「そう、それならその冒険者の方にお礼を言わないといけないわね。」

 ボロボロになった私達をここまで運んでくれたのだ。


 どうやらこの世界の冒険者は優しい方々らしい。



 そう思っていた時期が私にもありました。




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