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堪らないわね、この異世界  作者: 佐藤釉璃
冬海 雪音
7/32

6.現実

※15話から、本格的にユキネが覚醒します。

「有り金全部出してもらおうか、獣人のガキとお嬢ちゃんよ。」


 馬車が進めないように道の真中に木でできた柵をおいて、

 私達が止まったところを横の草むらで待機していたのだろう

 5,6人の盗賊に一斉に囲まれた。


「変な抵抗はしないほうがいいぜ?」

 そういった盗賊は錆びついた剣を私に向けた。


「さあ、馬車から降りてきてもらおうか」

 そう言われ、私とミーアちゃんは大人しく馬車から降りた。


「ここでおとなしくしていてもらおうか。」


 剣を向けている盗賊は私とミーアちゃんを道の端まで歩かせ、そう言った。


 私は盗賊に聞こえないよう、

 小声で剣を向けている盗賊に「鑑定」を使ってみた。


 Lv.76


 嘘でしょっ?

 なんで盗賊がこんなにレベルが高いのよ。

 普通、盗賊って簡単に倒せるものじゃないの?


 私は盗賊に囲まれた時、少しだけ喜んでいた。

 これこそ異世界のテンプレね!!

 なんて、馬鹿だった。愚かだった。


 どこかで、

 私は転生者なのだから

 盗賊なんて最初に倒す雑魚だから、と考えていた。


 だが実際はどうだろう。

 私を見る盗賊の男の目は欲望でまみれ、

 欲求を満たすためならどんなことでもしてしまう、そんな目をしている。

 生まれて初めてこんな目を向けられた。

 考えてみれば、こんな屈強な男を相手にして戦えるわけがない。

 まして、盗賊を退治なんてできっこない。


 怖い


 そう思った途端に腰が抜け、その場に座り込んでしまった。


「おいおいどうした。ビビっちまったか?」

 そう言って盗賊は私をつかもうとする。


 動けない。


 恐怖で動くことができなかった。


 ザシュッ!!


「さわるなっっ!!ですっ!!」

 盗賊の手を拒んだのは私ではなく、ミーアの短剣だった。

 どこからか出した短剣で、ミーアは盗賊の右手を切りつけた。


「ぐああああっーーー!!!」

 盗賊が悲鳴を上げ、他の盗賊もこちらに注目する。


「ユキネにさわるなっ!です!」

 ミーアは私の前に立ち、盗賊に向けて短剣を向ける。


「こっの、ガキがあぁ!!!なめたことしてんじゃねぇっ!!!」

 ミーアに向かって手を切られた盗賊は吠えた、ミーアに斬りかかった。


 私は動けない。

 ミーアも避けきれない。


 目の前でミーアが宙を舞い私の目の前まで飛ばされてくる。

「にゃぁぁ…。」

 ミーアは苦しそうに声を上げ、手で抑えている左目からは血が流れている。

 目を切られたのだ。


「ガキが、なめたことしやがって。優しくしてやってりゃ…」


「おい、そこの黒髪の娘。獣人のガキを生かして欲しかったら服、脱げよ。」

 ミーアを傷つけた盗賊は私に向かってそう言い、ニヤける。


「クズね…。」


 地面でうずくまるミーアを見ると、

 切られた痛みからかうずくまって立ち上がることができないでいる。


 心のなかで願った。


 『殺したい』


 この盗賊の男を、殺したい。

 ミーアを、傷つけた、こいつを、殺したい。殺したい。


 そして再び自分を憎んだ。

 盗賊に囲まれた時にすぐに逃げるべきだった。

 恐怖で震えるミーアを連れて、逃げるべきだった。

 異世界のテンプレなんて言って

 どうにかなる、なんて根拠もなく安心して。


 力がほしい。こいつらを殺せるくらいの力が。

 他には何もいらない。

 こいつを殺す力がほしい。

 撃ち殺す、刺し殺す、殴り殺す。

 なんでもいい、こいつを殺したい。


 瞑って強く願った。強く恨んだ。


 バシュッ!!


 私の胸にあるネックレスが目を開けていられないほどの眩い光を放った。

 それと同時に、右手に熱いなにかが触れるのを感じた。


 無意識に右手を広げ、目の前の盗賊に向ける。

 そして叫ぶ。





「焼け死ねっっっっ!!!!!」





 爆音とともに熱風が私を襲った。



 目の前の盗賊は燃えた。否、消し飛んだ。

 さらに、

 目の前の盗賊だけでなく道の真中で馬車を物色していた盗賊も消し飛ぶ。

 馬車とともに。

 ミーアが左目を抑えながらも立ち上がり、

 私になにか言おうとしたところで

 視界が暗くなり、私は意識が遠くなるのを感じた。




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