3.私の大誤算
目を閉じていても光が眩しい。
ゆっくりと目をあける。
見渡すかぎりの大草原、私はそこに仰向けに倒れていた。
見上げた空には太陽と月が隣同士並んでいる。
まさしく異世界。
「ほんとうに、来てしまったのね。」
あんなにわくわくしていたのに、
実際に我が身となると案外不安しか生まれないものね…。
本当にこの世界で生きていけるのかしら…。
そもそも、特典でもらった力ってどうやって使えばいいのかしら…。
他にも転生者がいたりしてくれないものかしら…。
どうも、私の地盤は不安で固まっていたらしい。
「しっかりしなさい冬海雪音。きっとこの世界でもうまくやれるはずよ。」
なんて自己暗示でもしていないと、ここから動くこともできそうにない。
異世界に来た私はとりあえずこの世界の住人を探すことにした。
太陽(&月)を背にまっすぐ歩く。
私は方向音痴なのだ。
現世でも初めての場所に行くときは、
念入りに下調べをしてからでなければ不安で仕方なかった。
転生したのだから方向音痴のひとつくらい治っててほしいわね。
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どれくらい歩いたのだろう。歩いても走っても、風景が何一つ変わらない。
異世界というから途中で盗賊に襲われている王子様御一行がいて、
それを転生の力で倒す。
その後は王子様と恋に落ちて…
そんなイベントでも起こると思っていたのだけれど、
そうそうテンプレのようにはいかないものね。
まあ、今の私には盗賊を撃退する術も度胸もない。
なにせ妄想を具現化する力なんて、
ラノベでも使っている主人公を見たことがない。
「 我ながら、曖昧な力をもらってしまったものね。」
数時間前の自分を少しだけ恨みつつ、なんとか力を使おうと試みる。
「ふぁ、ふぁいあー…………。なにも起きないわね。
そもそも妄想を具現化するのだから声に出す必要がないのでは…? 」
そう考え、今度は目を瞑って胸に手を当てて頭のなかで念じてみる。
(ファイヤー fire 火 燃えろ 燃えてください 萌えて‥)
数分念じてみても悲しいことに何も燃えて(萌えて)はくれなかった。
「大誤算ね、
妄想を具現化する力があれば私でも、
空を飛んだり火を吹いたり分身できたりするものだと思っていたのに。」
力を使えなかった私は、再び草原をまっすぐに歩き始めた。
きっと街に付けば何かしら手がかりがあると信じて。
ーーーーーーーーーーーー困った。
歩いても歩いても街どころか、道らしい道すら見当たらない。
なにより、
太陽を背に歩いてきたはずが気づけば太陽は目の前にあって、
地平線に沈もうとしている。
ぐすっ…
「もう嫌!なんで具現化できないのよっ!うぅっっ…
なんで、なんでこんなに歩いてるのに草原しかないのよっ!うっ…ぐすっ…。
お腹すいた‥ぐすっ…。 」
とうとう泣き出してしまった私。
学園で私の泣き顔を見たことがあるのは香澄しかいない。
小さい頃は私はよく泣く、いわゆる泣き虫だった。
転んでは泣いて、男子にいじめられては泣いて。
そんな私を香澄はいつも慰めてくれた。良い奴だ香澄。大好き。
学園に入ってからは他校の男子の告白を断って泣かせる立場になったけれど。
この世界で一日が何時間かは定かではないが、
現世の時間でゆうに10時間くらいは歩いている。
力も使えない、歩いても草原しか見えない。
私の心はもう完膚なきまでに打ち砕かれた。
「成績優秀スポーツ万能でクールな美少女の私を泣かせるなんて…
あの爆乳天使…許さないわ…‥ぐすっ。」
ーーーーーーガタガタッ
「えっっ??」
どこか遠くの方から何かの音が聞こえる。
ーーーガタガタガタッ
音が近づいてくる。
「馬車だっ!!」
現代日本ではだいぶ昔に見られなくなった馬車。
ただの馬車、されど馬車。
小さな灯りを灯して大きな音を立てながら
こちらに向かってくる馬車が私の目には希望の光に見えた。
こうして私はこの世界での第一村人、否第一ネコ娘と出会うこととなった。
午後にもう一話、投稿予定です。
※15話から、本格的にユキネが覚醒します。