2.にやけ顔が止まらない
※15話から、本格的にユキネが覚醒します。
そう、私は全身全霊で自転車を漕いだ。
信号が赤であるのに青に見え、そのまま車道に飛び出してしまうくらいに。
「こらぁーーー!!あっぶねーじゃねーか!!」
轢かれかけた。
「っす、すみません!!」
生まれて17年、初めて死ぬかと思った。
いくらラノベの新刊が楽しみだからといって少し、浮かれすぎていたわね。
交通量の多い国道で信号無視して、生きてるだけ奇跡よね…。
片側3車線の国道は信号が少ないためか、どの車も50キロ前後で走っている。
「でも、今のトラックに轢かれていたら異世界に転生できたのかしら」
なんて、独り言が言えるくらいには冷静さを取り戻し、
今度は自転車を押して書店を目指す。
安全に、冷静に。
書店が見えてくるとさっきの恐怖と反省はどこへやら、
新刊への期待で胸が高鳴ってきた。
もう少し、次の国道の信号を渡れば到着……あっ!?
私と反対側の歩道にいた一人の女の子、
赤であるはずの信号に気づかないのか、そのままこちらへ歩いてくる。
咄嗟に叫ぼうとしたが、それより早く私の身体は無意識のうちに反応していた。
押していた自転車を放り出し、女の子の元へ走る。
走ってきた車から女の子を守るために抱きしめる。
左半身に衝撃が走り私は意識を失った。否、命を失った。
この時、もっと早くうごけていたら
この時、うまく車を避けていたら
きっと私は…
こんなに心が踊らなかっただろう!!!
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「冬海様、おめでとうございます!」
車に惹かれる瞬間に目を瞑って、次に目を開けたら…
「天使?マイエンジェル?」
天使がいた。
香澄の奴でさえ比べ物にならないほどの爆乳、
それを覆うのはまさしく天使!な、きわどい白い服。
許されざる乳ね‥。
そして大きく広がる白い羽。「美しい」とはこのことを指すのねきっと。
「まいえんじぇる‥? 私は天使ですよ。
冬海雪音さん、あなたをお迎えに参りました。」
「え、えっと。あなたは天使で間違いないのよね…?どうして私を迎えに?」
「あら、意外と驚かないのですね。
まず、あなたが現世で助けられた方。
あの方は本来、あの場所で命を終えるはずでした。
それをあなたが自らを犠牲にしてあの方の命をつなぎ留めた。
ここまでは大丈夫ですね?」
「あ……あの子、助かったのね…よかったわ。」
「はい。あなたのおかげで、擦り傷だけですんだようです。
そして冬海さん、あなたは本来生きるべき時間を失ってしまった。
その勇姿が私達の主様の目に留まり、
あなたには別の世界で残りの命を生きる権利と
特典が与えられることになりました。」
キタコレ!!!
私の頭のなかで盛大にパレードが始まった。
まさかのまさか、私が異世界に…?ふふふっ。異世界転生か…ふふっ。
いけない、にやけ顔が治らなくなりそうだわ。
マイエンジェルが気持ち悪そうに私を見てる…やめて、私は痛い子ではないわ。
「というわけで、冬海様には異世界へ転生していただきます。
その際にあなたの希望する事、モノ、能力を一つだけ異世界へ持ち込めます。
なにか、ご希望はありませんか?」
「なるほど、すこし考えさせてくれるかしら?」
胸が踊って仕方ない。ラノベの新刊なんてどうでもいいわ。
魔法チートはどうかしら………テンプレ過ぎて面白く無いわね。
異世界のお金をたくさん………そこまで現金な女ではないわよ、私。
魔族に生まれ変わるのは………やっぱり人でいたいわね。
全能力値をカンスト??………そもそも能力値なんてあるのかしら。
……………………
「やっと決まりましたか。現世の時間で6時間は経ちましたよ。
それで、何を異世界に持ち込まれますか?」
「私の思想を具現化させる力をもっていくことにするわ。」
そう、何か一つを指定せずにあえてどんなものにでもなりうる。
そんな物を考えていたら、この解にたどり着いた。
「思想の具現化ですか…なんとも合理的…わかりました。
では、転生を始めさせていただきますね。〜〜〜。ーーーー。???!!!」
天使の周りに光が集まって私まで光りに包まれる。
「では、いってらっしゃいませ。
申し遅れましたが具現化には多少の制限が……。」
「ちょっと!!あなた今なんていったnーー!!」
かくして、私の異世界生活ははじまった。