18.お酒
「おいっ!ターランスが棄権したぞ!!」
ドアを勢いよく開けて飛び込んできたのはニアさん。
「おい、ユキネ! お前優勝したら少しは酒奢れよっ!?」
「え、えぇっと…?ターランスが棄権したというのは…?」
ターランス。
風の神威使い。
アクアリスではないが、正都市サジウスのコロシアムで130連勝していて、
その試合を実際に見たけれど、到底勝てそうにない。そう思っていた。
そんな最強の彼が、棄権…?願ったり叶ったりだけれど…どうして?
「魔族か…。」
そう呟いたのは隣りにいたリン君だった。
「ああ。サジウスに魔族の襲撃があった。
ターランスはサジウスの魔道士とも仲がいいからな、
頼まれたから棄権してでも向かったんだろ…。」
ニアさんの表情はいつものような悪戯に満ちた笑みではなく、
どこか、深く考えているようなそんな暗い顔をしていた。
「それにしても、サジウスの魔道士様が要請を出すなんて…
今回の魔族は相当に強いのでしょうね…。」
笑顔の似合う女神、サーシャさんでさえ表情が硬くなる。
「まあ、俺達の関わることじゃないさ。
それよりユキノ、さっさと勝ってパーッと飲みに行こうぜ!!」
ーーーーーーーーーー「私…未成年です…。」
「あぁ!?未成年だから、なんだぁ…!?ひっく、
お前の金なんだから、飲めよぉ!あーっ!しらけるぜぇ!…ひっく。」
面倒くさい。ニアさんが酔うと面倒くさいわ。
あの後、決勝では準決勝の時に戦った、
トレクの足元にも及ばないような相手と戦った。
風の力を使わない爆裂魔法で、
相手が倒れた時はなんとももどかしい気持ちになった私は
戦い慣れしてきているのかもしれない。良くない傾向ね。
戦いに慣れて、油断して、殺されるなんてテンプレにはならないわよ。
相手に不足があったと言っても、優勝した私には多くの歓声が送られた。
そして、今に至る。
優勝賞金として白金貨3枚、日本円で300万手に入れた。
が
案の定というか約束通り、
マタドールの3人とミーアと私で街の食事処に来ていた。
サーシャさんとニアさん、リン君は着くと同時にお酒を飲み始めて
いまではこの通り…。
「あぁー、ユキネちゃん可愛いわねぇ。もう堪らないわ…。」
「ひゃっ!?な、なにするんですかサーシャさんっっ!!」
酔ったサーシャさんが私のお尻を軽くなでた。
「えぇ?いいじゃないのぉ…。もう、可愛くて…もっと触れたい…わ…。」
今度は私の頭を、自身のその豊かなお胸に押し付ける。
「うっ、サーシャさん…苦しい、です…。」
(世の中は異世界でも不条理よ、私のは…ステータスよ…ぐすっ。)
「ユキネさぁん、わたしぃ…ふわふわして、心地いいのですぅ…えへへぇ」
サーシャさんの凶器から逃れた私の隣にいたミーアの様子がおかしい。
頬を赤く染めて、呂律も上手く回っておらず…可愛らしい。
「ミーア、それ…飲んだの…?」
ミーアが手にしているのはニアさんが飲んでいた、ウイスキーの瓶。
「ふぇぇ?これぇ、美味しいですねぇ…ユキネさぁん、美味しいですぅ…。」
「ミーア…可愛いわ。大好き。」
しまった。あまりの可愛さに、つい本音がでてしまったわ。
「えへぇ、わたしもぉ…ユキネさん、好きですぅ…えへへぇ。」
この後無茶苦茶ミーアを堪能した。
堪らないわね、このミーア。
今回は癒やし回でした。
次回から、伊邪那美によって与えられた「役割」
そして力を持つ者の苦悩がユキネを襲います。
戦闘シーン多めでユキネが無双しますが、
戦う意味を見いだせなくなっていき…?