17.役割
「あなたは…だれなの?」
「さっきまで一緒にいたのに…ひどいですね。私はミーアですよ?」
そうミーアの姿をした誰かが言う。
「そんなわけないでしょう、ミーアになにをしたのっ?」
「ふふっ。私はミーア。私が本当のミーアですよ、雪音さん。
兄を探して商人をしてる獣人のミーアはこの世界での私にすぎません。」
「ミーア…?あなた、なにを言って…」
『帰りたいですか?香澄さんのいる世界に。』
「えっ…?」
「元の世界に、帰れますよ?
この世界を放棄して元の世界に帰りたい。そう思っているのでしょう?」
「わ、私は…」
分からない。いえ、確かに帰りたいかと聞かれれば帰りたい。
しかし、そんなことが出来ていいのだろうか?
もしも元の世界で死んでしまったのなら、この世界で過ごしていくのが正しいのではないか?
「たったひとつ、私のお願いを聞いてくれればすぐにでも帰してあげますよ?」
「…お願い、?」
「冬海雪音さん、この世界を壊しなさい。」
「…世界を、壊す?」
「ええ。貴方にしかできないことです。」
「貴方はさっきから何を…。」
「私はかつて貴方のいた世界の死者が集まるべき
黄泉の国の管理者、あなた達はこう呼ぶわね。
『伊邪那美』と。」
日本神話の女神でいざなぎの妻であり妹。
神世七代の最後の代であり、後に黄泉の国の主宰神となる神様。
ミーアの姿をした誰かはそう言った。
「いざなみ…?」
「ええ、
天使たちに管理されている世界、神の暇つぶしで作られた世界
死後、本来黄泉の国へ導かれるはずだった者が、
輪廻転生の輪から引きぬかれ転生させられる世界、
はっきり言って邪魔なのよ、この世界。
そこで、あなたを見つけた。冬海雪音さん。」
「私…?」
「貴方の神威にはこの世界を壊す力がある。
この世界を壊し、輪廻転生の輪を本来あるべき姿に戻す力。」
「この世界をこわしたら…
この世界を壊したら、ミーア達は、どうなるの…?」
「本来あるべき姿に帰るだけよ。
転生者は輪廻転生の輪に戻り、この世界の輪廻転生は消える。
あなたの周りだと私含めリン、サーシャ、リアって言う子は消えるわね。」
「消える…?」
「ええ、消える。
文字の通り、消えてなくなる。無になる。存在がなくなる。」
一体なにを言っているのか、理解出来なかった。
正確には理解したくなかった、認めたくなかった。
私がミーアやサーシャさん、リン君リアさんを消してしまう力を持っていることを。
私が元の世界に帰りたいと思えば、この世界の人達が消えて無くなる。
自分の願いで自分以外の命が消える……怖い。
「大丈夫よ、殺すわけじゃない、存在が無くなる…元の姿に戻るだけ。」
私の心を読んだのだろう神様がそう言う。
「それでも…それでも!
私はわたしの願いでほかの人の命を奪うようなことはしないわ。」
「あら、意外。あなたは情に流されずに
合理的な判断が出来ると思ってたんだけど」
「合理的に考えたうえよ。
あなたの願いと私の願いでこの世界を消して言い訳がないわ。
例え、神の暇つぶしで作られた世界でも、生きてる。
あなたが願うような事はしないわ。」
「ふーん、そっか。あなたはそういう選択をするのね。
いずれ必ず、この世界を消したい。そう思う時が来るわ。
どれまでは…
力を持つ者の苦悩、役割をもった者の苦しみを味わうといいわ。」
「何を言って…「じゃあ、また今度会いましょうね。冬海雪音さん。」」
いざなみ、がそう言った瞬間私の胸のペンダントが目を覆うほどの光を放つ。
「ユキネさんっ!大丈夫…ですか…!?
心配しましたっっ!…です。」
目を開けると
サーシャさんとリン君がいる、そして目の前で会話していたミーアが抱きついてくる。
「えっ…ええ。大丈夫よ。
ありがとう、ミーア。」
そういって頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める、ミーア。
私の…役割?
この時はまだ自分に与えられた力、役割なんて
全く理解していなかった。