16.変化
「うぅ…知らない天井…」
この世界にきてから二度目のこの台詞。
「お、起きたか。」
「えっ?」
「リン…君?」
私が寝ているベッドの隣にはリン君が座っていた。
「なんだよ、俺が居たらわるいのかよ。」
「いえ、そうじゃなくて…ふふっ。」
きっと私が眠っている間もこうやって側にいてくれたのだろう。
私の事、すきなのかしら…? なんてね。
不安そうになった綺麗な整った顔。
「な、なににやけてんだよっ!」
そういって怒ったリン君は頬を赤く染めてそっぽを向いてしまう。
異世界の貴族のお坊ちゃまなんて、
悪い方に性格が曲がっていてお金に物を言わせて好き勝手やってると思っていたが、
そんな固定概念はリン君には当てはまらないようだ。
あ、少しだけ曲がってるわ…可愛いツンデレ君だもの。本当に可愛いわ。
「リン君、ありがとう」
そっぽを向いている可愛いツンデレ君の頭をそっと撫でてみる。
「ま、まあ元気なら、よかった…って、撫でるのはやめろっっ」
ますます赤くなった。可愛い。
「あら、ユキネちゃん目が覚めたのね!二回戦、本当に驚いたわ!」
ドアが開いたと思うと、サーシャさんの美声が飛び込んできた。
「えっと、サーシャさんとリン君のアドバイスがなければ負けていました…
ありがとうございましたっ。」
「私は何もしてないわよー?あえて言うならリン君のおかげかなぁ?…ねっ?」
「はっ!?…俺は、思ったことをいっただけで…別に、ユキネのためとか…」
「あらあら、いつの間にか呼び捨てだなんて…リン君もやるわねぇ。」
「なっ…そんなんじゃねーし!」
「うふふっ、リン君ったら…照れちゃって可愛いわねぇ。」
「サ、サーシャっ!その可愛いって言うのやめろって言ってるだろ!!」
「うふふ、だって…可愛いんだもの。仕方ないでしょう?」
「俺は…か、かわいくなんてないっ!」
「そうやって赤くなって怒るところが可愛いのよ?リン君っ」
「う…も、もうこの話はいいだろっ!
ったく、いつもいつもサーシャは…それで…
「ふふっ、試合ならニアが見ているから大丈夫よ?」
「ま、まだなにも言ってないだろ!」
「リン君の考えてることなんて、すぐわかるわよ?」
「はっ!?」
「ユキネちゃんの左足も大丈夫よ?さっきから気になってたものねっ?」
「ぐっ、…大丈夫…なのか?」
「ええ、もちろん。心配ないわよ?ふふっ」
「そ、そうか…。って、ニヤけるなっっ!!」
……。
とても仲良く話す2人。
お互いに信頼しあって、何も言わなくてもお互いを理解ってる。
悪態をついてもお互い離れることはない、
寄り添うのではなくただ、近くにいてくれる…ずっと。
照れて不機嫌そうにしてるリン君はサーシャさんの事を大切に思って、
もちろんサーシャさんもリン君を大切に思ってる…。
私と香澄もこんな感じだったわね…。
香澄……元気にしてるのかな。私が、いなくなってどうしてるかしら。
私のお葬式には…きてくれたのかしら…
きっと、泣いてしまったわよね、かすみ…。
もう、話したりできないのよね……。卒業、一緒にしたかった…。
そういえば私、香澄に何もお礼言えてない…。
孤高の美女を気取っていた、私を、いつも見ていてくれた。
いつも、香澄だけは私をわかっていてくれた。何も言わずに…ごめんね…香澄…。
「……帰りたい?」
「…え…?」
俯いていた顔をあげるとそこにはリン君も、サーシャさんもいなかった。
目に浮かんだ涙を袖で拭って部屋を見渡す。
「香澄ちゃんのいるところに帰りたい?」
緑の綺麗な右目と赤くなってしまった左目。
綺麗なサラサラの銀髪に白い大きな猫耳。
小柄な彼女は私の命の恩人でこの世界で初めて出会った…。
「あ、あなたは…?」