15.私の力
二回戦、相手は前回の優勝者らしい。
「皆さんお待ちかね!準決勝は今回のダークホースッ!
謎の神威使い…ユキネだぁぁぁぁ!!
強烈な爆裂魔法でこんがり焼いてくれぇ!!」
謎の神威使い…いいわね、かっこいいじゃない。
「対するは前回の優勝者でターランスの対抗2番人気!
大盾は爆裂魔法も通じないっ!?
鉄壁のトレクだぁぁぁぁあ!!」
2mほどの大盾をもった竜人。
身長は普通の人間と変わらないが、頭からは竜の角のようなものが生えている。
褐色の肌に筋肉で覆われた手足。
きっと、ターランスの神威を見た後だからだろうか
相手が前回の優勝者で屈強な戦士で竜人あってもそれほど恐怖を感じない。
「さあ、はじめよう!!今日もしっかり金をつぎ込んできたかっ!?
アクアリスコロシアム準決勝、開始だぁぁっ!」
……………。
………。
…。
トレクは盾を構えたまま動かない‥。
爆裂魔法しか使えない私にとっては好都合だ。
「消し飛べっっっっっ!!!」
足元に魔法陣が広がり、私のネックレスが光る。
空気を巻き込み爆音とともに炎がトレクを包む。
「おおっと!ユキネの爆裂魔法がいきなり炸裂っ!!
トレクは一歩も動けないぃっっ!!これは勝負あったかぁっ!?」
決まった、私もそう思った。
しかし彼はまだそこに立っていた盾を構え、未だにそこに立っていた。
「な、なんとっ!!神威の爆裂魔法が直撃したものの、
トレクは微動だにしていなかったぁぁぁあっ!!
まさに鉄壁の戦士トレクッ!!」
「くくっ。貴様の爆裂魔法はこんなものか?」
「嘘でしょ…」
避けられたのならまだわかる。
しかし、地面をえぐるほどの爆裂魔法は直撃した。
それなのに平気で立っていられるなんて、
ターランスと戦うまでに一苦労しそうね…。
「さあ、次は俺の番だ。」
大盾を突き出し、私に向かって走ってくる。
「でたぁっ!!トレクの突進っ!
当たればひとたまりもないぞぉっ!!」
「くっ…!」
トレクの突進をギリギリの横飛びで躱す。
スピードはそこまで早くない、が
人間の私が当たったらきっと骨折どころではすまないわね。
冷汗が背中を流れる…まさか、神威の力が効かないなんて予想外だった。
「っく、…はぁ、はぁ。」
その後は私の防戦一方だった。
爆裂魔法を打ち込んでもまるで効いていない。
「どうしたよ、神威使い様ぁ?さっきから避けてばかりじゃねえか。」
「う、うるさい、わね…。まだまだ、ここからよっ…。」
「なるほどぉ?なら、これならどうかなっ!!」
再びトレクが突進してくる。
私は同じように横飛びで躱そうと…
「はははっっ!!同じ手ばかりだと思ったかっ!? おらぁっっ!!」
グサッッ
「あぁっっ!……あ、あしが…、うぅっ…。」
「おっとぉ。
その綺麗な顔に刺そうとしたんだけどなぁ!?手が滑っちまったぜ。」
トレクは盾で突進してきた時、
横飛びした私の足を盾を持っていない方の手で
隠し持っていたナイフで私の足を斬りつけた。
左足のふとももが熱くなり、目には涙が滲み視界が歪む。
白く細いふととももに赤い血がしたたる。
立とうにも痛みで立ち上がることができない。痛い。
「うぅぅっ……。」
「なんだぁ?痛みで泣いちまったか!
可愛いなぁ!もっと傷めつけてやりたくなるなぁ!!」
どうすれば、こいつを、倒せる?死なずにすむっ!?
分からない…。
「ユキネちゃんっっ!!ターランスを思い出してっっ!!」
綺麗な声が私の耳に響く。ヒトの声じゃないような綺麗な声。
もちろん、人の声ではなかった。
「サーシャさんっっ!?」
客席の一番フィールドに近いところにサーシャさんとリン君、リアさんがいた。
「ユキネちゃんの神威なら出来るはずよっ!!イメージするのっ!!」
「えっ!?ターランス?神威?なにを…?」
サーシャさんが何を言っているのか分からない。
「だからっ!
ターラントみたいな神威の使い方をイメージしろっていってんだよっっ!!
お前の神威は思想型だっ!ターラントみたいに風を操れる!イメージだっ!」
リン君が大声で叫ぶ。
イメージ?ターラントみたいな使い方…?
「なるほど…そういうことね。」
頭のなかで風使いのイメージを作る。
風、かぜ、かぜつかい………スティ◯マっっ!!
頭のなかに某ラノベの主人公のイメージが広がる。
その瞬間、
「風が、見える…」
「おおっとぉ!?な、なんだこれはっっ!?
ユキネを中心に風の流れができているぞっっ!
こ、これは、まるで……ターラントのようだっっ!
一体、なにがどうなっているんだぁぁぁぁぁぁあ!!」
「あぁ?こいつの神威は爆裂魔法だろっ?
そんなの、ただの風の気まぐれにきまってらぁ!!」
私を見てニヤけていたトレクが再び盾を構えて向かってくる。
「おい、ユキネッ!風を使え!!」
リン君が叫ぶ。
「風、爆裂魔法…よしっ」
私は避けずにトレクを迎え撃つ姿勢を取る。
右手を向け叫ぶ。
「消し飛べっっっ!!!」
トレクの足元に魔法陣が広がり、ネックレスが光る。
「はははっ!!悪あがきか!?そんなもの、効かないとまだわからぬかっ!」
トレクは嘲笑いながら盾を構えて止まる。
魔法陣が周りの空気を巻き込みながら…
「風の精霊っ!!私に力を与えたまえっっっ!!」
私の右手から強烈な風が出て行っているのがわかる。
「これでっ、消し飛べっっ!!」
空気を巻き込んでいた魔法陣に
強烈な風が今まで以上に酸素を供給する。
つまり、
今までの爆裂魔法とはケタ違いの爆発が起こるっ!
「な、なんだぁぁあ!?ぐあぁぁぁっ!!」
コロシアムに張ってある障壁がキリキリと悲鳴を上げる。
観客席からは悲鳴が上がり、私も衝撃で後ろへ飛ばされる。
「おぉぉぉおっ!?ユキネの爆裂魔法で障壁が削れているっ!!
なんてことだっ!!信じられないっ!なんて力だぁぁぁあ!!
応急班っ!今すぐにトレクの処置の準備をっ!」
実況者が今までにない大声を上げる。
煙の中、誰かがあるいてくる。
トレクは生きていた。
服はすべて焼け、大盾も溶けて原型をとどめていない。
「くっそが、こんな化物…最高じゃねえか…。」
そう呟いたトレクは大盾だったものを落とし、その場に倒れた。
「な、なんと!今回のダークホース、ユキネが決勝進出だぁぁあっ!!
こんな強烈な爆裂魔法、とんでもない化物だぞぉぉおっ!!」
「勝った…?ふふっ、ほら、私を…褒め称え…なさい…。」
安心感からか、左足の痛みからか、私の意識もそこまでだった。