14.風の神威使い
※15話から、本格的にユキネが覚醒します。
「ユキネさん、すごいです!!」
一回戦を終えた私は、控室前に来ていたミーアと合流した。
「客席についたらもうユキネさんの姿が見えなくて、
もしかしたらって思って
受付をみたら出場者の欄にユキネさんがいて…驚きました!です!
私、ユキネさんにたくさん賭けちゃいましたっ!です。」
ヒゲおやじを見た後の
ミーアの無邪気な笑顔は私のこころを癒やしてくれる。
守りたいっ、この笑顔。
「本当は私もお客さんとして入りたかったのだけど…
ミーアが私に賭けているのなら頑張らないといけないわね。」
「ユキネさんならきっと大丈夫ですっ!
次の相手は多分前回の優勝者になりそうです。
神威使いの対抗として、2番人気の出場者です。」
「そう、でも大丈夫よ!
私は神威使いよ?きっと優勝してみせるわ。」
過去に3回も優勝したヒゲおやじに
手も足も出させずに圧勝したのだから、きっと大丈夫よ。
油断じゃないわよ?これは余裕よ。
「ユキネさんっ!
もう一人の神威使いの試合が始まりますよ!見に行きましょう、です!」
もうひとりの神威使い…。
この世界で戦っている神威使いを初めて見る。
「さあ、みなさんお待ちかねの3試合目は
風を操る魔道士…ターランスの登場だぁぁぁあ!
圧倒的一番人気!
正都市サジウスのコロシアムでは130連勝中の神威使いが
アクアリスにやってきたぁぁぁあ!!」
『ウオォォォォォォオ!!』
まさしく魔法使いの様な格好で、帽子を深くかぶり顔を隠している。
130連勝っ?なんでわざわざアクアリスのやってくるのよ。
自分の縄張りに居座っときなさいよ…。
いい迷惑だわ…。
「さあ、対するのは魔族殺しの剣豪、キリトンだぁ!
神威使いではないものの、アクアリスのギルドでは随一の双剣の使い手!
みなさんお馴染みの剣豪がターランスに挑むっ!」
キリトン?双剣使い?
それに、あの黒いマント、
どこかで聞いたような…まさか、気のせいね。
「さあ、はじめよう!!!今日もしっかり金をつぎ込んで来たかっ!?
アクアリスコロシアム3試合目、開始だぁぁっ!」
試合が始まると同時にキリトンが黒いマントを翻し、
双剣を手にターランスに詰め寄る。
「は、はやい…」
人間の動きを遥かに超越している。
かろうじて目で追うことができた。それくらいに早い、キリトン。
「神威使いがなんだっ、これで終わらせるっ!」
その速さに追いつけなかったのか未だに動けないでいるターランス。
そこへキリトンはためらわずに斬りつけた…はずだった。
「な、に…?」
キリトンが驚き、呟く。
振り下ろされた双剣は確かにターランスにあたっているように見えるが、
正確にはあと1ミリでターランスにあたる、だった。
「いい踏み込みだ。
だが、惜しいな…この風の障壁がある限り私は傷つかない、私の勝ちだ。」
ターランスがそう呟いた刹那、キリトンがその場から飛び退く。
「ぐっ…」
双剣を持つキリトンの腕から血が吹き出す。
そして、数秒前までキリトンが立っていた地面は
かまいたちの様に大きくえぐれていた。
「私の風を避けるとは…さすがは魔族殺しというだけあるな。」
どうやらこの傷はターランスの力らしい。
「へへっ、さすがは神威使い様だぜ。
早めに決めさせてもらわないと、死んじまいそうだぜ…。」
キリトンがボロボロの腕で双剣を再び構える。
「スーパーバーストストリームッ!!」
キリトンが叫んだ瞬間、姿が消える。
それに合わせてターランスの姿も消える。
ーーーーーーーーーーーーーそこから後、
私は何が起きているのか殆どわからなかった。
唯一わかったのはキリトンが負けた、ということ。
2人の姿が消えて数秒、再び現れたターランスの隣で
キリトンが全身切り傷だらけの血まみれでフィールドに倒れた。
ミーアに聞いてもやはり見えなかったという。
つまり、
私達の目には映らないほどの速さで決着がついたのだ。
「同じ神威使いなのに、こんなにも違うというの…。」
二回戦を控えた私は早くも凹んでしまう。