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Endless.wonder  作者: 桜月
3/16

有沢主任の執着と独占欲

茜、蓮、律人、真尋、柚希は同じ会社です。

ああ、それでいいや。オムニバスだし(笑)て感じで


 うちの第一営業課の有沢主任28才独身は、仕事も見た目も女性関係もトップクラスの出来る男。

 彼に群がる女は数知れず、社内外問わず女が絶えることはない。

 どんなに冷たくあしらわれようと、彼女達の熱は冷めない。

 だから彼に近づきたい女子社員は、まず第一営業課配属を目指す。そして主任の補佐になるために、ありとあらゆる手を駆使する。

 コネや色仕掛け、他を蹴落としながらのそれは、外野から見ていても恐ろしい女の闘いで。

 あたしが配属されてから2年、主任が配属されて1年。闘いは熾烈を極め、ギスギスした空気が第一の女子に漂う。てか、1年もこんな騒ぎをスルーする主任のあの性格は見習いたいくらい。

 けど、まわりはそうではない。仕方なく、ほんとに仕方なく課長が騒ぎに終止符を打つべく立ち上がったのが、ついこないだのことで。

 恨みっこなしの禍根も残さずそれに従う、という書類に一筆サインをした上で、決戦は始まった。

 いや、ただ主任が補佐の女子を選ぶというだけなんだけど。

 サインしていざ! と挑む女子にはそのおバカさ加減がわからないらしい。

 くっだらないよねぇ。と騒ぎに参加すらしていないあたしは思う。

 あたしと同じくらい冷めてる主任は、課長に懇願されて渋々女子の前に立った。

「吉岡さんはいいの?」

「遠慮します結構です」

 隣の幸せボケ真鍋さんが余計なことを言うけど、パソコンの画面から目を離さずにあたしは答えた。

 勘弁してほしい。あんなメンドーなこと他所でやってよ。

「では、吉岡さんで」

 低すぎないけれどうるさくはない低音ボイスがあたしの名前を呼んだ気がする。

 胸の前で手を組んでキラキラもといギラギラしてた女子達の視線が一気に突き刺さる。

「吉岡さんにお願いします」

「……イヤです」

 めまいを起こす人泣き崩れる人課長に詰め寄る人さまざまな反応がピタリと止む。

「そもそも私サインしてないんで。サインした人達だけでやって頂けますか」

 言外に人巻き込むなやぁ! という意思をもたせる。

「俺が選べば恨みっこなしなんですよね? なら撤回はしません。吉岡さんなら仕事に支障をきたすことはないでしょうし」

 ……そうきたか。メガネにひとつに結んだだけの黒髪。地味子であるあたしを選ぶことで、彼はどの言葉よりも確実に言いたいことを知らしめたわけで。

 つまり。『俺目当てで補佐になる奴に仕事ができるとは思えないし、チャラチャラ着飾って足手まといになるなら美人だろうがいらない』てとこか。

 ここまで深読みできるならあんな騒ぎになってないとは考えないのかね。

「吉岡さん頼むよ。この場を収めてくれないか」

 課長が下手に窺う。こんにゃろう。

「イヤですよ。後が恐ろしいしそもそも私はサインしてないんです。巻き込まれる意図がわかりません」

「そうかな」

 大分深読みできるみたいだけど?

 耳元で囁くその低い声に、一瞬記憶が過去に飛びそうになったけど気力で立て直す。

「わかってるなら、あきらめてあの中から選んでください。迷惑です」

「だから、君を選んだんだよ。撤回はしないから」

 最後通告ですかごり押しですね職権濫用です!!


 こうして一年に及ぶ『有沢主任の乱』は終結した。

 彼に熱い視線を送る女子に見せしめと牽制の矢を同時に放った主任は、彼を見ることすらしなかったあたしを選ぶことで、女子を奈落の底の火炎地獄へと叩き落とし涙さえ蒸発させ、なおかつひがみやっかみ嫌味からあたしを守るという、男前なパフォーマンスまで披露した。

 自分の株をそこまで上げてどうしたいのこの男。

 底がみえない彼との仕事はこうして幕をあげた。



 金曜日。いつものように主任の補佐で取り引き先へ。

 直帰予定なので控えめな私服だ。白いシャツに紺のフレアスカート、カーディガン。

 先方の補佐には全然仕事をしない、ただ座って主任を見ているだけの女子社員。

 いつもの主任狙いのご令嬢だろう。ご苦労様です。

 打ち合わせが終わり、あたしは書類を片づけると主任を待たずに席を立った。早いけど直帰だし帰ってしまおう。

 こんな女子社員がいる日は、たいていお誘いがあるからだ。そして主任は断らない。

 ただし、2度目はない。

「吉岡」

「はい」

 なのに、呼び止められた。初めてかもしれない。

「なにか?」

「帰りに松坂商事に行くことになった」

 珍し、ハシゴなんて。

「承知しました」

 睨んでくる女子社員は空気を読まずに主任に食いついた。

「有沢さん、どうして連絡くれないんですかぁ?」

 なんだこの子2度目か。しつこそうだなぁ。

「婚約されたとお聞きしましたが?」

 うわ、主任のオーラからブリザードが吹き出てる。この時期それは寒いわ。

 秋なのに今日は暖かいのに早く帰りたいのに。

「あれはっ、有沢さんが電話にでないからっ」

 ……あてつけってか。頭足りてないなこの人。

「相手は選ぶべきでは?」

 小声の苦言はきちんと受理されたらしい。

「そうだね。そうするよ」

 あたしにニッコリと笑いかけた主任は、あたしの肩を抱き寄せて囁く。

「吉岡この後つきあってもらおうか」

「は?」

「では、失礼します。……ああ、ご婚約おめでとうございます」

 ノータリンな女子社員になにも言わせず、あたしに有無を言わさず、主任は笑顔で犯罪者もどきになった。

 だからって、拉致はどうなの。



「で? いつまで俺のこと知らないフリするわけ?」

 有名ホテルのレストランで食事の後、最上階のバーラウンジに問答無用で連れ込まれたあたしは、なんとかというカクテルをちびちび飲んでて。

 松坂商事はどうしたんだなんで食事だなぜに二人でお酒飲まねばならんのじゃぁ!?

 という内心の動揺を必死に隠してたわけで。

 正直、なにいってるかわからなかったんだけど。

「で? いつまで俺のこと知らないフリするわけ?」

 ご丁寧にもう一度繰り返す主任は楽しげで。

「………………ーーーー!!」

 あれかあれのことかあれ以外ないだろうてかいまさらあれか!?

 脳内が絶賛大パニックになった。


 あたしは、昔主任と会ってる。

 高校三年の夏休み。受験勉強の息抜きに海にきてたあたしは、ナンパ男と消えた友達の裏切りで一人になった。

 もう帰ろうとしたあたしはナンパ男達に囲まれてしまった。逃げられない叫べないあたしをそこから救いだしてくれたのが、彼だった。

 一人でいたら危ないのになにやってんだ! と怒って、だけどちゃんと話を聞いてくれて。

 ナンパ男は怖かったのに、彼は違くて。

 面白おかしい話と、ちょっとのアルコール。隣には年上のイケメン。

 シチュエーションに酔ったのか、ただ単にアルコールのせいか。

 気がついたら彼に抱かれてた。なんでどうしていつの間に!?

 初めてなのに初めてだったのに、何回も奪われた。どうなってるのかさえわからなくなる程貪られた挙げ句、何度意識を飛ばしかけても飛ばしても許してはもらえず、彼が満足するまでされ続けて。

 身体が痛くて動けなくなるまで酷使され、声が出なくなるまで啼かされた。

 逃げ出せたのはもうほんとに一瞬の隙ってやつで。

 震える足を無理矢理引きずって、つかまえたタクシーでホテルを離れて。

 運転手さんから聞かされた日付で3日もたってたことを知った…………ケダモノに丸かじりされた夏休み。


 彼に開かれた身体は、彼以外に反応できなくて。だからあたしは彼氏いない歴=年齢だ。

 その彼を会社で見たときは驚いた。転職してうちの課に配属された彼は、あの頃よりもさらに色気が増していて。

 あたしは見なかったことにした。

 仕事に集中して彼を視界から消し、顔を会わせなくてすむように部署移動願を上司に出した。

 しかし悲しいかな。あたしを有能扱いしやがる課長によってそれは闇に葬り去られて。

 そうして一年間の間、『移動願の乱』は『有沢主任の乱』の影に隠れつつ攻防を続けている。

 メガネをかけ前髪を伸ばし顔を隠して地味子に徹底し続けたおかげで、彼にはバレなかった。

 もっとも一夏、それもたった3日一緒にいた相手のことなど、彼は覚えてもいないだろうけど。

 黒とまではいかなくても、消したい歴史には違いないし。

 そうやって、彼からも自分からも消した過去のはずだった。

 向こうから指名されるまで……さっき言った主任の一言を理解するまでは。

「……なん、のはな」

「とぼけなくてもいいよ? お互い覚えがあるよね」

 覚えてるよね?

「あの時は逃げられる予定じゃなかったんだけど」

 予定……いや、逃げるでしょうよあれは。

 ……確かに、その声もその瞳もその指も覚えてる、忘れてない、忘れられなかった、けど。でもっ、もう4年も前のことなのに!!

「忘れちゃった? ……なら、思い出してもらわないとね。そしてもう2度と忘れないように、その身体にもわからせてあげないといけないね?」

 ……なん、かヤバそうな方向にいってないか? てか、主任のこんな独占欲の塊みたいな発言初めて聞いたけど。

「……いや、主任彼女たくさんいるでしょう」

「ちょっとはヤキモチとか妬いてくれるかな、とか思って?」

 そんな理由で女子とっかえひっかえですか。てか大の大人がかわいらしく首かしげたって……なんでキモくないんだろう。なにこの人ムカツク。

「まあ、外堀完璧に埋めてからでもよかったんだけどね。そろそろ俺が限界」

 いえ、あたしは全然大丈夫ですが。

 むしろ絶賛ご遠慮申し上げたいですがっ。

 しかし、主任はバーラウンジからあたしをエレベーターに押し込むと、女子憧れの壁どんを繰り出しあたしに見えないようにボタンを押した。

「ちょっ! あたし帰りま、すっ!?」

 うわあぁぁぁぁぁ!?

 キスされた。ヤバい容赦ないぞコレ!! ちょっともたないってば!

 力が抜けたあたしの身体を片腕で簡単に支えた主任は、エレベーターから降りると迷わずあたしを部屋に連れ込んだ。

「金曜の夜だから。月曜の朝まで離さなくていいよね?」

 いや、それまずいでしょある意味拉致監禁ですよ犯罪です。

「主に」

「柚希」

 びく、と肩が跳ねた。

「諦めて俺の名前呼んで?」

 …………なんであたしこの人にしか反応しないのできないの。

「……真尋」

 この先の全てを諦めたあたしが見たのは、ものすごく嬉しそうに笑う彼だった。



 真尋はあたしをずっと探してたらしい。転職もあたしを追いかけてのことみたいだ。


 金土日と抱き潰されたあたしは、月曜真尋と一緒に出社し、会社の話題をかっさらい女子社員を阿鼻叫喚の世界に突き落とし、そして真尋のマンションにお持ち帰りされた。


 多分あたしがアパートに戻る日はこないだろう。


 それを真尋が許すとは思えないし、しょうがないと諦めたあたしにはどこでも同じだし。


 真尋は外堀を完璧に埋めた。

 あたしとの婚約を公表するなり、婚姻届にサインさせ結婚まで突き進む彼は、かなり楽しそうだ。


 あたしは独占欲の塊の策略により専業主婦になることになった。


 幸せ? どうなのか。


「俺は幸せだから、柚希も幸せになって?」


 他力本願なの!?



まだまだ続く(笑)

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