繰り返し
また、気が付いたら会社にいる。
ざわざわとした雑踏の中で、一人立ち尽くしている。
「繰り返し」
上司の小言、女の子たちのひそひそ声、タイピングの音音音。
最近は毎日がぼんやりとして、はっきりとしない。
いつ目が覚めて、いつ出社したのか。
俺は毎日何をしているのか。
マンネリ化した会議。
だれも発言しない。
嫌な空気だけを肌で感じながら、意味のない根気比べ。
俺は誰の目にもつかないようにと、細心の注意をはらう。
毎日が同じ。変わらない日常。
もはや気分に浮き沈みなどない。
淡々と、毎日をやり過ごす。
上司の顔、妻の顔、そして娘の顔。
すべてがぼんやりとしてきている。
ついに俺にもガタが来たのか。
そんなことを考える。
今日は娘の誕生日。
いや、昨日だったか、その前だったか。
はっきりしない。
アルツハイマーってやつか?
ああ、あの子は苺が好きだった。
ケーキを買って帰ろう。
いつの間にか、夜になる。
ケーキ屋に向かうのはなんだか気恥ずかしい。
それでも、今日は。
今日くらいは父親でいたい。
ケースの中で輝くケーキ。
目移りするほど種類があった。
その中でも、一等輝いている、苺の乗ったショートケーキ。
店を出ようと背を向ける。
ああ、ここから出たくない。
ここから出たら、また明日が始まってしまう。
このケーキはあの子のもとへは行かない。
そのことを僕は、知っている。
そうか、僕は死んだのか。




