71. Unexpectedly interrupted consciousness.
金の弾丸は化け物と化した神の体を貫き、これで僕の役目は終わった。あとはあの二人をただ待つだけだ。
「………止まった…」
弾丸を受け、神は途端にその動きを止めた。アダムたちが干渉している証拠だ。とりあえずはうまくいったようだが…あとは二人の声が神に届くかどうか……
しかし、その応えはすぐに出た。
「!! ソラ!!」
ミユキの声で僕ははっとする。神の体から薄く煙が出始めていた。それはあっと言う間に濃さを増し、その中に映る影は徐々に小さくなっていった。
煙が晴れる頃には何十もの腕は消え去り、髪はもとの長さに、赤や灰に染まっていた体はもとの美しい白さを取り戻していた。
「……………っ」
もとの姿に戻ったのもつかの間、神は糸が切れたかのようにふっと地に伏してしまった。
「あ……!」
「どうにかなった……みたいだね」
ミユキの一言でセイナはへなへなと地面に崩れ落ちた。緊張の糸が切れ、すっかり脱力してしまったようだ。無理もない。
「やっとか」
言って船長は羽ばたきながら降りてきた。
「さすがに疲れたぜ……」
「お疲れ様です」
「船長、ありがとう。神様を抑えててくれて」
僕とミユキが労いの言葉をかけると船長はなんでもないようにいつも通りの笑顔を見せてくれた。
「いいってことよ。……っと、それより俺は席を外した方がいいな。これ以上神に悪影響与えたら元も子もねぇ」
「あ、そうか……本当にありがとう。世話になった」
「いいっていいって。…あ、そうだ」
ふと、何か思い出したように船長は腰の辺りから何かを取り出すと、僕に差し出してきた。それはセイナの短剣の鞘だった。
「それは……」
「セイナにはもう必要ねぇかもしれねぇ…だけど、約束は約束だ。これをそこに転がってる剣と一緒に返しといてくれるか?」
言われて見ると、神の側にセイナの短剣が転がっているのが見えた。
「いいけど……あんたはいいのか?」
「なにが?」
「セイナに一言くらい言ってやったらいいだろ」
当のセイナはこちらに気がつくことなく、ようやく足に力が入るようになったのかトウヤの手を借りて立ち上がっていた。
「わかってねぇなぁソラは。……偽物の親はもうお役御免なんだよ…」
「え?それって……」
再び船長に視線を戻す頃にはもうそこには誰もいなくなっていた。
「あれ……?」
辺りを見回すが、その姿はどこにも見当たらなかった。意味深なこと言っていなくなるとは……まったく身勝手なやつだ。
「ソラ!」
「ん?げっ、セイナ……」
なんともタイムリーなことにようやく立ち上がることができたセイナが話しかけてきた。
「なによその反応」
「いやべつに」
「………それより、船長はどこ?話があるんだけど…」
目敏いやつめ。
「船長は……仲間のところに帰ったよ」
「……あー………そっか」
どこか寂しそうに呟くセイナを見かね、僕は仕方なく短剣を拾い、鞘に収めて差し出した。
「え?」
「これ、船長が返すってさ」
「! 船長が!?」
セイナは短剣を受け取ると、暫く見つめた後、それをぎゅっと抱きしめた。
「……ありがと」
「いいっていいって」
あ、いけね、船長のがうつった。
「んで、これからどうする?」
セイナの後ろでどっかりと地面に腰を下ろし、トウヤが聞いてきた。
「神様はなんとかなった。が、まだ他にも問題は山積みだぞ?」
そういえばそうだ。
神様をなんとか救ったはいいが、大陸一つ崩壊したこの世界のことはもちろん、髪を見つけたという事実もあるわけで……
『それなら心配ないよ』
声に僕らは一斉に同じ方向を見た。彼は神の傍に立っていた。
『後のことは僕ら……というか、ほとんど神様がなんとかしてくれるから』
薄く、まるで幽霊のような姿でそこにいたのは僕の前世、アダム。そして……
『あなたたちは心配しなくても大丈夫よ』
ミユキの前世、イヴだった。
僕らは先ほどあったばかりなので刺して驚きはないが、その他はそうではない。セイナたちの息を飲む声と視線を感じる…。
そりゃあ驚くよなぁ…瓜二つなんだもん、僕ら。まぁ、前世なんだし当然なんだけど…
「あんたたち…一体……」
戸惑う二人にアダムたちはにこやかに答える。
『僕らはただの友だちだよ。そうですよね、神様?』
「……それをワタシに言わせるのか?アダム」
アダムの呼びかけについに神がむくりと体を起こした。すっかり元の小さな体に戻り、その表情は今まで見た中でも最も晴れ晴れとしていた。
『冗談ですよ、本気にしないでください』
「勝手なやつめ」
アダムの手を借りて立ち上がると、神は僕らを見据え、そして突然頭を下げてきた。
「ちょ…神様っ!?」
「…君たちに感謝する。そして、申し訳ないことをした」
「…………」
あまりの驚きに誰も口を開くことができなかった。二人のおかげですっかり神は姿は愚か、心まで綺麗になってしまったようだ。
「負の感情に囚われ、君たちに……嫉妬した。友や仲間を持つ君たちが羨ましかったんだ」
「神様……」
「…だけど、そんなことする必要はなかった。ワタシは一人ではなく…この子達がいた」
ようやく頭を上げた神の顔には幸せそうな笑顔が浮かんでいた。
「だから……ありがとう」
不思議な気分だった。まさか神様に感謝される日が来るとは…。
「いや、えっと……別にいいよ。そんなの…」
「あー…そんなことより、これからの姿勢ってのを示しちゃくれないか?」
返答に困っているとトウヤが話を切り出してくれた。
神は視線を落とし、目を閉じた。
「これからの姿勢…か。…そうだね、ワタシは多くの罪を犯した。人もドラゴンさえもその命を奪ってしまった。身勝手に多くの者を巻き込んだ。……ならその償いをしなければいけない」
「……そうだな」
「……ゲームに巻き込んだものたちはちゃんと現実へ返そう。この世界は修復し、元の正常な…ワタシが造ってしまった魔物たちの世界としよう。あとは…」
「悪魔は?」
セイナが問うた。
悪魔は人の負の感情から生まれる。だとすると、この世界から人がいなくなり、魔物の世界となれば、同時に悪魔は消えることとなってしまう。つまり、船長も消える…。
「悪魔か……まず前提に、彼らは形がない概念のような存在でね、それがこの特殊な世界にいることで目視可能な形を保つことができるわけだ。しかし、元をたどれば悪魔は現世に存在している。それは人の存在が現世にしかいないため確かなことだ。……わかるかい?つまり、君たちが現世に戻れば彼ら、悪魔も現世に戻る。以前のように話すことはできないだろうが、消えるわけではないよ」
「……そっか…それならいいの」
セイナは安堵するも、少し複雑そうな表情だった。心中を察する。
セイナに何か言葉をかけるべきか悩む。すると、
『神様、そろそろ初仕事、しましょうか』
と、突然イヴが切り出した。
初仕事って……なんのことだ?
「そうか……そうだね。名残惜しいけど、君たちに恩を返さなければならない」
神は右手を上げた。
……一体なにを…?
ミユキはなにやら気づいた様子で、口を開こうとする。が、それより早く神のことばが紡がれる。
「君たちに未来を…運命を与えよう」
手が振り下ろされる。
「……またいつか…集う。運命を信じて生きなさい」
そこで僕の意識は途切れた。
それが僕の……僕らの旅の終焉だった。
打切り感漂う……(._.)




