70. I missed you.
────……ワタシは一人だ。
いつだってそれは変わらない。
昔も今も変わらない。
だから今、ワタシが孤独なのも当然のことだ。
悲しむ理由がどこにある?
嘆く理由がどこにある?
そう、理由なんてない。だからワタシは一人なんだ。
あるべき姿、あるべき場所。それがないから私はただそこにいた。だけど、それだけではあまりに暇だった。
だから、人を造った。……それが間違い。
あれらはワタシの望んだものではない。
常にワタシと共にある。それだけがワタシの望んだことだった。
だが……人はいつしかワタシを恐れ、ワタシと同等の存在になろうとし、あまつさえワタシが一生手にすることのできないものを手にした。
それが許せなかった。
だから罰した、遠ざけた。
……だけど残ったのは奇妙な渇きと静かな世界。
しばらくすればそれに耐え切れず、ワタシは何度も間違いを繰り返した。
人を造り、信じて、裏切られ、遠ざける。
何度も何度も繰り返し、結果、人はワタシが人を遠ざけるために造った世界に深く根ざし、繁栄していた。
あぁ……渇きが増す。
だから私はやり方を変えることにした。
人を造り、信じて、裏切られればその心を奪い、その姿を魔のものへと変えてやった。
そうすることで「人」が増えるのを抑制した。
…だが、人は人を産む。ワタシが干渉せずとも人は自らの力でその数を増やすばかりだった。
ワタシの造った世界で…ワタシの知らないところで…勝手に増えて、勝手に笑っていた。
あんな世界に入れてしまったのが間違いだったのだ。そうだ…そうに違いない。あの世界から人を出してあげれば人は増えることをやめるはずだ。
幸い、ワタシの元には私の手足となる者、蛇の魂を持つドラゴンがいる。人の世界にワタシが手は出せないとはいえ、彼ならばそれもどうとでもなる。
ワタシはドラゴンに魂さえあれば何度でも元の姿に蘇ることができるように、細工をしてやった。これは人の世界に行くためには魂の状態でなければならなかったからだ。加えて、人の世界で自由に動けるように人の体を一つ与え、そして人の世へドラゴンを送り出した。
ドラゴンに与えた使命は単純明快。人を殺し魂を回収しろ、ということ。
その点ではドラゴンはよくやってくれた。
ある時は交通事故や放火魔を装い、ある時は特定の人物と接触し、唆すことで詩を招き寄せた。そうやって無作為に人を殺し、その魂を自らの魂と共にワタシの元へ運んできた。そしてその魂を輪廻の渦から外し、ワタシの管理下にある世界へと移した。だが、それだけではつまらない。だからワタシは人の作ったゲームと呼ばれるものをすることにした。
「ワタシを見つけられたら元の世界へ戻す」
そう言って、人間たちが自身の闘争本能により争う醜い姿を眺める。そうすることで、少なくともなにも制限がないよりはまだ楽しめた。
……だが、渇きはまだ癒えない。
理由の分からない渇きは日に日に増して、ワタシはそれから逃げることしかできなくなっていった。どうしようもなくて、私は逃げることを選んだんだ。
……だからだろうか…ワタシがワタシから逃げたせいでついにはドラゴンまでもがワタシから逃げていった。しかも、彼自身が提案した「新人類」となる二人の魂を連れて。
信じられなかった。だから私は理由を考えた。
なにが悪かったのか?一体なにを考えて逃げたのか?
……だが、結局なにもわからなかった。
それがワタシにはとてつもなく恐ろしかった。
神というワタシの存在が……全てを知るはずの神というワタシの居場所が、消えてしまいそうな気がして、ひどく怖かった。
「……あなたは間違ってなどいませんよ」
だから、目の前に答えを与えられたワタシはそれに飛びついた。
だが、それは悪魔の囁き。いつの間にか私の目の前には悪魔の一人が立っていたのだ。
「あなたは正しい」
正しい?
「ドラゴンは裏切り者です」
裏切り者……
「あなたはドラゴンを裁く資格がある」
ワタシが…裁く……?
「そうです。ですが、今のあなたはまだ迷いがある。だから…僕があなたを支えましょう」
……何が言いたいの…?
「……つまり、この時をもってあなたは僕の主人になるのです」
主人?……神のワタシが、悪魔の主人?
何が言いたい?何がしたい?
わからない……わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない
…………こわい……。
「だから…僕とともに殺しましょう。ドラゴンを、憎む者全てを」
あぁ……渇く。
どうすればこの渇きは癒える?
……ドラゴンを殺せば、癒えるのか?
わからない。
そして、ワタシは手を取った。
……ワタシは知らなかった。
彼は悪魔ギュリィア。自らの欲のためならなんでもする。…元主人を殺すことですら、自らの「殺戮」という欲を満たすための養分としか成り得ない。
そんな彼の駒にワタシはされてしまったのだ。
……神なんてくだらない存在だよ。
結局は人と同じ。魔物と同じ。
そう……ワタシは気づけば堕ちていた。
救いもない闇の底辺に…。
多くの人間を殺したのだ。
ドラゴンも一度はワタシの為にと与えたその面倒な力を奪って殺した。
殺した。
あとは二人…あの子たちを殺せば……
…………どうなるというんだろう…?
あぁ、黒く染まった心が囁くことをやめない。
あの子たちを殺せば今度こそワタシは一人になる。それだけは…それだけは嫌だ。
だけど、それももう今となってはもう遅い…
ワタシはもう「ワタシ」ではなくなった。
私の心に住みついた闇がワタシを化け物と姿を変えてしまった。
こんなワタシは…ワタシじゃない。
いやだ……ワタシを見ないで……私を嫌わないで…っ!
愛するがゆえに恐ろしい。
嫌われるくらいなら殺してしまった方がまだいい……
そう。
…だからワタシは一人だ。
「…………じゃ、ない」
いつだってそれは変わらない。
「あの時から……」
昔も今も変わらない。
「今だって」
だから今、ワタシが孤独なのも当然のことだ。
「まだ僕らがいる」
悲しむ理由がどこにある?
「悲しいなら泣いていい」
嘆く理由がどこにある?
「叫びたいなら叫んでいい」
そう、理由なんてない。
「理由なんていらないから」
だからワタシは…
「だからあなたは…」
……一人なんだ。
「「…一人じゃないっ!」」
唐突に金色の光が闇を貫き、私を照らした。それは暖かくて、気づけば心に染み付いた渇きが消えていた。
「久しぶりです、神様。ずっと…あなたに会いたかった」
ワタシはただ…一緒にいたかっただけなんだ。
悩みは誰だってあるもの。




