65. Then and now.
よし…あと少しだぁ…(°▽°)
真っ暗な世界…
どこか懐かしさを感じる。
そうか…僕はとうとう死を迎えたのか…
あれから…罪を背負ったあの日から長い時が過ぎた。昔ならそれでも僕はまだ生きることができていたのだろう。だが、これこそが僕らの罪。あの人は僕らに有限という罰を与えたのだ。そうすることで僕らを罰したのだ。それは正しいことだ。あの人が為すことはすべて正しいのだ。だってあの人は…
「やぁ、久しぶりだね…アダム」
不意にした懐かしい声に咄嗟に顔を上げた。が、目に映るのは闇ばかりでその姿を見つけることはできなかった。
「………神様?」
そう、あの人は僕らを造り、愛してくれた神様。だからこの人が為すことは全て正しい。
「どこにいるのですか?何も見えないのです…どうか、その姿を見せてはくれませんか?」
「何を言っている?私はお前の目の前にいるだろうが」
「え……では何故…」
「それはお前の目が汚れているからじゃないのか?」
「そんな……」
昔のように語ることはできてもその顔を…笑顔を見ることができないのは辛く悲しい。
「そもそもお前はもう死んだ身。ワタシの姿を見たところで何にもならないだろ」
「それは…そうですが……僕はできるならもう一度だけ、あなたと語り合い、笑いあったあの日々へ戻りたい。だから…」
「だからなんだ?罪を許せとでも言うつもりか?お前らの子たちが今もお前らの後を継ぎその罪を背負っているというのにお前は自らの罪を許せと言うのか?自分勝手も甚だしい」
「違う!そうじゃない…そうじゃなくて…」
ただ一目その姿が見られればいい、ただそれだけなのに…それも叶わないのだろうか…。
言葉で伝えたくもその言葉が出てこない。
どうすれば伝わるのだろうか。言葉以外に伝える方法など知らない…
昔なら心と心で通じ合えていた…そんな気がしていたのに、いつの間にかお互いの気持ちが全くわからなくなった。
どうしてだろう…
「ふふっ…なら、チャンスをあげよう」
言葉が見つからず押し黙っていると唐突に神様は言った。
「チャンス…とは?」
「ふふふっ…簡単なことさ」
「…生まれ変わるんだよ。罪のない体に、魂に。そうすればお前は潔白の身。再びワタシと語り合うこともできるだろう」
一筋の光明。
その神様の言葉はまさに光だった。
だから僕は気づかなかったんだ。目先の光に目を奪われ、目がくらみ…その先の未来も闇に潜む蛇の思惑にも気づくことができなかったんだ……
──あなたの笑顔を見られるのなら、それだけでよかったんだ…
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『そう、僕はアダム』
僕とよく似た容姿の男が目の前に立っていた。
聞かずとも彼が何なのかはわかった。前にも似た光景を見たことがあるのだから。
『神様に造られた始まりの人間だよ』
それでも頭の中で渦巻く記憶たちがそれを肯定していく。
………僕が…?
『…ただ、正確に言うと、僕はアダム。君は…アダムだった人間』
言葉の意味を理解しかねる。
つまり…どういうことだ?
『記憶を見ただろう?あれはね、本当は君が見るべきものではなかったんだ。あれは過去の話、君が生まれる前のこと。神の手によって作られた君には関係のない話なんだよ』
確かに僕には身に覚えがない話だ。だが、不思議と馴染むのだ。僕の心にも体にも。まるでそれが自分のものであるかのように。
彼の言うことが正しいならば、この感覚に説明がつけられる。
『…だけど、そうも言ってられない状況になってしまったみたいだね。それは君の方が良く知ってるだろう?』
……神のことか。
『……やっぱりそうか…。あの人は僕らのせいで苦しんでいる。だから蛇は君をここへ連れてきたんだ。僕という記憶を君に渡すためにね』
それがあの鏡ってことか…
『そう。神様が僕を作り変えるために記憶を消す時、蛇が僕をこっそり回収してこの鏡の中に入れてくれたんだ』
鏡の中に記憶を入れるって…いったいどういうシステム?!
…い、いや、そうじゃなくて…。
やっぱりドラゴンはこうなることを予測していた…と言うよりはこうなるように仕向けていた…のか。
恐ろしいほど侮れないな…ドラゴン…
…それで、僕は何をすればいいんだ?記憶を取り戻したとはいえ、これだけじゃ何の対策にもならないだろ。
『いや、方法はあるんだ。そのためには…僕を、僕らをあの人の元へ連れて行って欲しいんだ』
不意に右手に熱を感じた。
見ると、淡い光が僕の手の中から溢れていた。
これは…
『その弾丸はドラゴンから受け取ったんだろ?』
手を広げると、そこには先ほどドラゴンから受け取った金の弾丸があった。
『その弾丸に乗せて僕らをあの人の元へ……頼めるか?』
つまりは運び屋ってことか。
なんか…ここまで大掛かりなことしておいて、結局頼んできたのは運のお仕事って……釣り合わないというか何というか………まぁ、いいけど。
それより、僕らって言葉が気になる。
他にも誰かいるのか?
『ああ、彼女も共に』
まばたきの一瞬。彼の隣に一人の女性が現れた。
白く長い髪に黄金の瞳…どこか、ミユキを思わせる容姿に僕は息を飲んだ。
その人は…
「イブ。私の前世…みたいな人だね」
いつの間に現れたのか、僕の隣にいたミユキが問いに答えた。
そうか、ミユキも僕と同じ…
「ソラ、2人はただ神のことが大好きなんだ。だから…」
「わかってるよ。一応僕も元アダム…だったみたいだし。……自覚はないけど…」
「ならわかるよね。これはソラにしかできないことなんだ。世界がかかってる。彼らの長い年月をかけた努力がかかってる」
「わかってる。大丈夫。…僕にしかできないなら僕がやるしかないだろ」
僕は弾丸を強く握りしめ、眼前の2人を見据えた。
「これが最後だ。全部ひっくるめて終わりにしよう」
『ありがとう…』
とても嬉しそうな笑顔を2人は浮かべていた。
この笑顔をあの神にも取り戻させる。それが僕の使命だ。
正直、神だとか世界だとか、そういうのはよくわからないし僕には荷が重くて押しつぶされそうだ。
…だけど……僕にできることがあるならば、僕はそれを成し遂げたい。誰のためでもなく、僕のため。そして、みんなのため。僕は逃げずに前を向いて歩いていきたい。
だから、僕は今、神に一矢報いてやる。
…だが、一つ気にかかることがまだ残っていた。
「あー…最後に、一ついいか?」
『なんだ?』
「運び屋程度の頼み事なら、別にわざわざ記憶を取り戻させるようなことしなくてよかったんじゃないのか?」
彼は静かに笑った。
『あぁ、それは無理だろ。だって、造り変えられたとはいえ、僕は知りたがりだから』
僕は何も言えず、ただ、つられて笑っていた。




