55. My treasure.
長い間お待たせしてすみません(-_-)
水平線の彼方、皆が言う「カダイ大陸」と思わしき大きな影がついに現れた。
ミユキ曰く、この世界で最も巨大と言われているらしいのだが…それにしては目の前のそれは奇妙に見える。そして海の向こうの大きな影…それはみるみるうちにその姿を明瞭にさせ、僕はようやく過ちに気付かされた。
いくつもの島々が連なっただけであって、それは大陸ではなかったのだ。
進路を間違えたのか、はたまたこの奥に大陸があるのかもしくは本当にあれが…いずれにせよ目の前のものは明らかに大陸と呼べるものではない。
これがアニメや漫画の中なら僕の頭上には疑問符が浮かんでいることだろう。
全くもってわけがわからん…。
「おーい、ソラー!」
そんな時、まるで狙ったかのようなタイミングでミユキが僕を呼んでやって来た。
「ミユキ…」
「そろそろ着くから準備しろって船長が。一緒に準備しよっ!」
ずいぶんとはりきった様子のミユキだが、あいにく僕は目の前のことを考えるのに必死でそれどころではない。
…僕は思い切って聞いてみることにした。
「なぁミユキ、そのことなんだけど…」
「? どうしたの?なにかあった…の……」
自然と向いていた僕の視線を追うようにしてミユキもようやく眼前の海上に広がる光景を目にした。そして…
「なによ…これ…」
呆然とした。さっきまでの柔らかな表情も色をなくし、ただただその光景に言葉を失っていた。
ミユキの反応からしてやはりあれが…
「やっぱりあれがカダイ大陸だったのか…?」
「そうだよ…そうだった…」
「…船長たちに伝えた方がいいな」
「うん」
「あと、準備は一人でもできるから」
「うん……って、ちょっと!ソラー?!」
なんとなく暗くなりつつあった空気を誤魔化して僕らは船内の船長の元へ向かった。
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「……なるほどなぁ〜。あの野郎、面倒なことしやがって」
大陸から少し離れた小島に一時停泊し、改めて甲板から間近で見た船長は呟いた。あの野郎とはもしかしなくとも神のことだろうが、兎にも角にも大陸は酷い有様だった。
大地は散り散りになって断層が露わになり、付近の海は濁ってしまっていた。そして、近くに来て新たにわかったが、大陸周辺を囲むようにして海が裂け、谷になっていた。
少なくともその谷は僕らのいる海からあちら側に船で行くには遠すぎる上、流れが急なため近くに寄るのは危険だった。
「船長…どうしよう…」
「どうしたもんかねぇ…船で行こうにも流れのせいであの谷に落ちちまうのは確実だしなぁ…」
さすがの船長も頭を悩ませていた。
せっかく練り上げてきた神への対策も島に上陸できなければ意味がない。
「こればっかりは俺も予想外だな…」
「まさか神がここまでするなんてね」
トウヤもミユキも眉をしかめるばかりだ。
「空でも飛べればいいんだけど…」
打開策が浮かぶでもなく、なんとなく思いつき…というにはどうにも安直すぎる気がする意見を口にする。
……これが、意外な役目を発揮するとはつゆ知らず。
「空を………あっ!!そうだよ!」
途端に思いついたようにミユキが顔を輝かせたのだ。
なんのことかさっぱりなその他大勢は目を丸くするばかりだ。もちろん僕も。
「空を飛べばいいんだよ、ソラ!」
「すまん、僕の名前とでややこしくなってるし、言葉の意味がわからないんだが…」
「だぁかぁらっ!空を飛ぼう!!」
「いや、言い方変えたところでなにも変わってねーよ!?」
ふっふっふとなにやら企んでいるように笑うミユキはなかなかに怪しい…。
というか、空を飛ぶって…どこぞの鳥人間企画じゃあるまいし無理ゲーにもほどがある。
「どうやって空を飛ぶつもりなんだ?」
しかしミユキのことばを本気で受け取ったトウヤたちがぐいぐい顔を突っ込んでいった。
ミユキはそんなトウヤたちにドヤ顔のまま何かをカバンの中から取り出して見せつけた。
小さな角笛のような形をした懐かしい笛。
「そ、それって……」
「いでよサーモンッ!なんてね」
「え、サーモンって…」
皆のツッコミに答えることなく笛を吹く動作にはいったのを見て僕はとっさに耳を塞いだが、他のみんなは……御愁傷様ということで…。
すぐにあの聞くに耐えない笛の音が響き、予想通り僕とミユキ以外の全員の顔が歪むのが見て取れた。可哀想に…。
「よしっ!これでオッケー!」
「ちょ、ちょっと!なによ今の!?」
「み、ミユキちゃん…さすがに吹く前に言っててくれないと心の準備が……」
「し、死ぬかと思ったぁ…」
昔の僕みたいな反応に思わず笑みが漏れてしまう。…もちろんこれは同情の笑みだがね。
「え…なんでみんな怒ってるの?」
「怒るも何も…うるさいじゃん!?」
「うるさい?なにが?」
「ミユキ…耳大丈夫…?」
「へ?」
どうやらあのひどい音はミユキには効かないようだ。終いには本気で耳鼻科を紹介されそうな勢いである。正直、正しい判断だと思う。
「つーか、ソラよぉー。お前も何で教えなかったんだよ。一人で助かりやがって」
突然トウヤに肩を掴まれ、僕は身構えた。
…トウヤよ……目が笑ってないぞ。
「いや、あれはだな…」
「内容によっちゃ1発殴らせてもらうぞ?」
「え……えっとぉ…」
「あ、来た来た!」
「グッドタイミングだ、サーモン!」
思わず声に出すが、誰も聞いてなかったようだ。それもこれも上空に突如現れた怪鳥のおかげだ。
「久しぶりっ!サーモン!」
小島に降り立ったサーモンにミユキが大きく手を振ると実に嬉しそうな声で鳴いた。
久々の再会でサーモンも嬉しいのだろう。
「え…あれがサーモン…?」
「魚…じゃなかったんだな…」
「そういう名前なのか…?」
背後から困惑の声が多々聞こえるが、それは今のところは無視の方向で進めるとしよう。
サーモンとの感動の再会のため、僕たちも小島に降り立つと真っ先にミユキがサーモンに抱きついた。ついでに船長は船番のため残るとのこと。
「会いたかったよぉー、サーモンッ!」
抱きつくミユキにサーモンもスリスリと顔をよらせる。
実に微笑ましい情景である。
「信じられないな…本当に魔物が人に懐くなんて…」
そんな中ではやはり大人というのは悲しく見えるものだな。
一応、小島に降りる途中にサーモンについては語っておいたが…そうそう簡単に信じられるものではないのだろう。実際以前の僕もそうだったし。
「ま、ミユキは特別ってことで」
「…それで納得できてしまうのが恐ろしいな」
「まったくね」
適当に言うとトウヤとセイナはどうやら納得してくれたようだ。さすがミユキ、万能だな。
「みんな!サーモンが乗せてくれるって!」
サーモンとの話をしたのかミユキが満面の笑みでそう言ってやってきた。
「え、あれに乗るの…?」
「もちろんっ!」
「乗れるのか…?」
露骨に狼狽するセイナに当然のようにミユキがうなずく。やはり抵抗があるようだ。トウヤでさえ眉を寄せている。
「い、いやだよ!あんな魔物に乗るなんてっ!そんな怖いことできない!」
わかるぞ、その気持ち…僕もそうだった。
しかし、残念ながら今はそんなの関係ないんだな、これが。
「ほら、早く乗らないとサーモンに襲われるぞ」
「襲うのっ!?」
さっさと話を進めるため昔のミユキのように冗談で少し怖がらせてみると思った以上に効果があり、気づけば僕らより早くサーモンの背へと駆け出していた。
「ソラ、からかいすぎだよ」
「どの口が言うのか」
「どっちもどっちだ。…とりあえず俺は船長にこの事伝えておくから、二人は先に行っててくれ」
「はーい」
ああ…いいな、この空気。
和やかな雰囲気がとても落ち着く。
僕の唯一の居場所だというのもあるのだろうが、それ以上にみんなのことを心から信頼していた。
昔の僕だったら信じられない幸せがここにあるのだ。
「……………」
「ソラ、行こ?」
「ああ」
それもこれもお前のおかげだよ…。
「………ありがとな…」
「え?何か言った?」
「幻聴だろ」
「私が年だとでも言うのっ?!」
「確かにこの世界での経歴の長さならお前が一番だな」
「セイナちゃーん!ソラがひどいよーっ!!」
僕の宝物。
だから、僕が守る。
今まで守られてたぶんの精一杯のお返しを、恩返しをしよう。
だから、それまではこの気持ちは胸の奥に…。
そうして、僕らは懐かしの空へと飛び立つ。
───…始まりと終わりを繋いだのは透き通る空だった。
とりあえず完結までは頑張ります!!




