54. Commitment to the future.
恋が少し垣間見えるかもです(*^^*)
「ほらよ、終わりだ」
未だ航海中、僕らは着々と神と対峙するため準備を整えていた。
無論神との決戦になる可能性も考慮し、武器はもちろん神の行動をある程度予測し戦術を組み立てたりと実に大げさだが皆本気で考えていた。
…全ては僕のたった一言から。
皆、僕が神と話がしたいというたった一言のためにここまで本気になってくれているのだ。
そのことに嬉しさと少しの罪悪感を感じてしまうのはもうどうしようもない。
「…っ……これが本当に役に立つの?」
「ああ、大いに役に立つ。まぁ俺を信じろ」
ヘラヘラと実に気の抜ける笑みを浮かべながら船長は道具を片付け始めた。そんな船長の様子にため息を禁じ得ないミユキはめくり上げた袖を戻し始めた。
「それで…ソラ、もし神が私たちの話に耳を貸さなかったらどうするの?」
「えっ?…って、うわっ!!」
不意に話を振られて僕は危うく椅子から転げ落ちそうになり、すかさずミユキが駆け寄ってくる。
…我ながら情けない……。
「大丈夫?!」
「あ、うん。大丈夫…」
「そう、よかった」
ほっとしたように息を吐くその距離がやたら近いのは気のせいだろうか…?
まぁ、お人好しでお節介なミユキならこのぐらいの距離が普通なのかもしれないが…なぜだか少しほおが熱くなる。何分僕は元ぼっち…当然の反応。だがなんだか負けた気がするのでミユキの前では決して表には出さない!
照れるな僕ぅっ!こいつのペースに乗せられるなぁ!
「ソラ?」
「あ、いや……そういえばミユキこそ大丈夫なのか?なんて言うか…魔物化しかけたこともあるんだし……」
ついさっき見たばかりのミユキの過去の映像が鮮明に蘇る。一応、皆の記憶を一部ではあるが垣間見てしまったことは伝えておいたからこそ訊けることだ。
あからさまに話を逸らしたがミユキは真剣な顔で対応してくれた。
「大丈夫だよ。多分あれはドラゴンが私を急かすために意図的にしたものだと思うから」
「急かすって…何を?」
「……それが…渡したいものがある、としか聞いてないからなんとも…」
「渡したいもの……?」
ドラゴンといったら…七つのボールとか伝説の剣とかしか思い浮かばないが…と、途中で思考が変な方向に向かい始めたので頭を振って切り替える。
「ともかく、大丈夫ならいいんだけど」
「そうだね!ふふっ」
ふわりと柔らかく笑うミユキ。
久しぶりに笑顔を見た気がする。
ミユキはずっとそばにいてくれていたのに、なんだか奇妙な感覚…。
ふとするとミユキが僕の目を実に真剣にまっすぐと見つめていた。
「私ね、ソラ。魔物になっちゃいそうだったことはもちろん不安だったけど、それよりも何よりソラが神に奪われそうになることが怖かった。辛いことも悲しいこともあなたがいるから乗り越えられる。だから、申し訳ないとか思っちゃダメだよ?」
…見抜かれていた。
僕が心の奥で考えていたことをあっさりとズバリと言い当てられてしまった。
やっぱりミユキには敵わない。
「……うん」
やっぱり僕は情けないなぁ…。
でも、きっと…僕はミユキを守るから。
それが、僕が唯一できる恩返しだから…。
「おーい、俺の存在をを忘れるなよー」
すっかり道具を片付け終え、苦笑いを浮かべる船長の声にようやく目がさめる。
か、顔が近いっ!
さっきより近くなってやがる!
「ミユキ!は・な・れ・ろっ!」
「え?なんで?」
「いいから!」
ぐいぐいとミユキの肩を押して引き離す。
無自覚とは…恐ろしい奴め…。
「む…まぁ、いいけど」
不満げながらなんとか離れてもらい、ほっと息を吐く。
「お前ら仲良しだな。…というよりはラブラブってとこか?」
ニヤニヤとからかってくる。
「バカなこと言うなよ。こんな時に」
「冗談の通じないやつだなぁ…ま、約一名本気にしてる奴もいるけどな」
「え?」
船長の視線をたどってみると髪の色にも負けないくらい赤面するミユキが目に入った。
なぜ赤くなる?!
「み、ミユキ?」
「ハッ!い、いや…これは……なんと言うか、勝手な妄想をしてただけ……じゃなくって!その、うっかり……えっと………じ、じゃあ私はもう行くねっ!」
ドタバタと珍しく慌てながらミユキが逃げるようにして部屋を出て行った。その勢いに僕はその背中を見つめる他なかった。
「くくくっ!からかいがいのある奴め」
「……船長…」
「そう睨むなよ。リラックスさせようとしてやったんだろうが」
「………はぁ」
「なんだよ、そのため息は」
面倒くさいことこの上ない。
こんなので本当に神と話ができるのだろうか?…不安しかない。
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「疲れた…」
船長の相手をして数時間、ついに僕は逃げだした。座り続けたせいもあって尻が痛いし、船長のからかいに対応するのにもさすがに疲れた。
甲板から海をぼんやりと見つめ脱力。
やはりこういう静かな時間は貴重だ。心から安らぐことができる。
「こんなところでどうしたんだよ、ソラ」
いつかのように安らぎの時をぶち壊すように背中に聞きなれた声がかかり、ふりむくと…やはりそこにはトウヤとセイナがいた。
一瞬脳裏に二人の過去の記憶がちらつく。
「お前らも僕の安らぎを奪うのか…」
「なんの話だよ」
「ミユキといいあんたといい、何を言ってんのかさっぱりわかんないんだけど」
呆れたように笑うトウヤとムッとしたセイナは言いながら隣に来た。
「何やってんだこんなところで。瞑想中か?」
「違う。ただのんびりしてただけだ」
「こんな時にのんびりできるとは随分と強い心をお持ちよねー」
「こんな時だからこそのんびりしてんだろ」
「ほぉ」
トウヤはさも感心したように顎に手を当てニヤけた。なんだその笑みは。
「なんだよ、バカになんかしてねーよ。本気で感心してんの」
「お前がするとなんでも胡散臭い」
「それにはあたしも同意するわ」
「二人ともなんで俺には冷たいんだ…」
僕たちは顔を見合わせると、噴き出すように笑いがこみ上げてきた。
通りかかる海賊たちは皆変なものを見るように通り過ぎていくが構うものか。
そうやって笑いあう途中、ふとトウヤは無意識ながら自らの首のマフラーに手をかけるのに目が向いた。
この下には自殺の時の紐跡があるのだろう…。
そう思うと少し表情が暗くなった。
「ん?どうした?」
わずかな表情の変化に気がついたのかトウヤは訊いてきた。もちろんそれに簡単に応えることなどできない。
「……ああ、そういや見たって言ってたな」
「……」
すぐに察してくれたトウヤはしばし考えるように黙ると、何を考えたのか「セイナもいるし、ちょうどいいか」と突然マフラーを掴むとそれを首からはずし始めた。
僕はともかく何も知らないセイナの目の前で外せば必然的にあの凄惨な過去を話さねばならなくなるというのに…
「ちょ…トウヤ?!」
「まぁ見てろって」
トウヤになだめられ、すぐにその首元は露わになった。
何重にも巻きつけられたような細い紐の跡が赤黒くその首に刻まれていてとても痛々しかった。
隣のセイナの息をのむ音が聞こえる。
「なに…それ……」
「…これが俺だ」
その一言で変わる僕らの表情を見てトウヤは困ったように頭を掻いた。
「とはいえこれは「昔」の俺だ。今はこんなことするようなバカはしねぇよ」
それは僕に対する答えだった。
「昔の俺にはちゃんとけりをつけた」
その真っ直ぐさがトウヤらしくて不覚にも笑ってしまった。
「どういう…というかそれ大丈夫なの?!」
事情を知らないセイナは困惑しているのか僕とトウヤの顔を見比べては目を瞬かせていた。
「心配症だな、セイナちゃんは。まったく……そういうところが似てんだよ…」
「え?」
ぼそりつぶやいた言葉はセイナには届かぬまま、トウヤは視線を僕に向けた。
その目にはどこか決意のようなものがうかがえた。
「……なぁ、ソラ。ちょっと外してくれるか?」
「え…」
「頼む」
正直言って…意外だった。
トウヤはおそらくセイナに自分の過去を話すつもりだ。
自分の負の一面を話すなんてよほどの思いがなければできない。だが、トウヤはわかっているのだ。
逃げるということに意味がないと。
「いいのか?」
「ああ、隠すようなことでもねぇしな」
「そうか…わかった」
「何?なんの話??」
僕は頷くとしずかにその場を去った。
「あのな…俺は俺が嫌いだったんだ」
背後から聞こえる話し声もいつしか波の音に飲まれ聞こえなくなる。
決意を固めたその道に、一つの種が芽吹くのはそう遠くない未来の話…。
ならばその未来を生み出すためにもやるべきことは決まっている。
「僕が…僕らがやらなきゃいけないんだ…」
最後の舞台となる大地はすでにその影を僕の瞳に映していた。




