53. Once upon a time...
遅くなりました!!
短いですが神様の昔話をどうぞ!
──…「何もわからない」
それが神の実体である。
生まれた時も場所も意味もわからず、気づけばそこにいてものを生み出す力を持っていた。…ただそれだけだ。
毎日を無為に生き、長い時を何もない世界で過ごし、たまにものを生み出しては遊ぶ。
そんな日々をずっと、気が遠くなるほどずっと続けた。
しかし、いつしか飽きも来る。
暇と奇妙な心に開く穴しかその時の神にはなかったのだ。
神は考えた挙句無である暗闇に「世界」を作ることにした。
光と闇を分け、天と海を生み出し、地に草木を芽生えさせ、天に輝く二つの光に昼と夜を治めさせ、あらゆる生き物を造った。
一気に明るくなった世界に神は満足するが、何故だか心の穴は未だに埋まらなかった。
解決策も見当たらずどうしたものかと頭を悩ませていると、ふとある考えが浮かんだ。
「ワタシをもう一人生み出せば答えがわかるのでは」と…。
神はさっそく自らの現し身として「ヒト」を大地の上に造りあげると声をかけた。
「ワタシの現し身、ワタシの問いに答えなさい」
神が言うとヒトは顔を上げ、空を仰ぎ見た。
「はい。なんでしょう」
「ワタシの心に開く穴は如何すれば埋まるのか?」
ヒトはしばし黙ると口を開いた。
「私はあなたのように強くもなく、賢くもなく、慈悲深くもありません。私にはあなたの苦しみがわからないのです」
人の言葉に神は落胆した。しかし、こうやって会話の相手が生まれたことはとても喜ばしいことであった。
神は感謝の証にと彼を助ける者を生み出し、それぞれを分けるため一人を男、一人を女として二人には全ての生き物を支配させた。
神はこの二人に多くの愛を注ぎ、彼らを生み出した世界…エデンの園に住まわせ言葉を重ねていった。
不思議なことにその頃には神の心に開く穴はすっかり消えていた。
それはそれは幸せな日々だった。
……しかし、事は起きた。
神の愛する二人が神の言いつけを守らず、善悪の知識の木になる果実を口にしてしまったのだ。
神はそれを知った瞬間目の前が真っ暗になる思いだった。
信じていた、だから彼らにあらゆるものを分け与えた。なのに裏切られて…そしてなにより神が悲しかったのは、果実を口にしたが故に彼らが神を恐れるようになってしまったことだった。
神は何も言わず、ただ彼らに与える罰を告げていった。
神の加護が与えられるエデンの園を追放し、あらゆる苦しみが与えられる世界で生きること。それが罰の内容だった。
神は二人に告げるとすぐにエデンとは別に世界を生み出した。園の外の世界に出すだけでもよかったのだが、できるだけ彼らを引き離したくて神はそうした。
そうして人たちが降り立った世界には神の存在を示すものは一切なかった。
…完全なる決別であった。
神の心には再びぽっかりと心に穴が現れたが、神はそれに気づくことはなかった。
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そこは蒼く輝く美しい場所だった。
一切の淀みもない半透明の氷で造り上げられ、溢れる日の光がなんとも幻想的な輝きを見せている巨大な神殿。
人知れず存在するこの場所にはもちろんのこと、人の気配など感じられない。それ故にこの美しさは保たれている。
しかし、それは刹那。
突如、その場に二人の人ならざるものが現れた。
一人は燕尾服に身を包んだ者、そして一人は…
「主人ヨ…」
「黙れ、悪魔」
悪魔の言葉を一蹴して白き髪を持つ者…神は備えられた座についた。
「人の創造物の分際で勝手に口を開くな」
いつもとは明らかに違い刺々しい口調に悪魔は目を丸くし、そのあまりの冷たさに恐れた。
今の神はあの一人の少年によって、怒りと憎しみに囚われている。
「やはり人はダメだ…期待などかける余地もなかったんだ…」
ブツブツとこぼす言葉に不穏なものを感じ取ったが、あくまでも神の言葉を守り口は閉ざしたままだった。今まで通りなので大した苦労ではない。
…触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。
それに、なにより集中力が散漫している今は悪魔にとって願ってもいない絶好のチャンスなのだ。
「すぐに奴らを消そう…そうしなければ増える一方だ……」
「……………」
神の様子を伺いながらも、腕に仕込んだナイフを取り出す。それはいつも自分を見下してくる悪魔が最も忌み嫌う者から渡された唯一の武器…。
神のそばにつくにあたって武器の所持は認められず、潔白な身でようやく認められるのだ。故にもしこれが失敗すれば、ただでは済まない。
悪魔の身も人類全ての身も…。
これでようやく解放されるのだと、ようやく本当の主人の元へ戻れるとだと…そう自分に言い聞かせ、悪魔はそのすべてを背負う覚悟を決める。
…しかしそれはもし成功したならば、の話。
悪魔がナイフを投擲する寸前に神は音もなく立ち上がると、気付いた時にはいつの間にか悪魔の手にあったナイフをその手にしていた。
「…なんの真似だ?と聞く必要もないね」
「………っ!!?」
瞬間。
閃光。
鮮血。
…それは実に呆気なかった。
「………やっぱり、人の創造物だね。裏切りしか知らない。もうダメだね。全部ゴミ箱へ捨てなきゃね…」
ナイフを弄びながら神は呟いた。
その目は暗く、光すら飲み込んでしまいそうなほど深い闇を湛えていた。
「……あ…が……っ…」
「殺しはしないよ、というか君らは殺そうとしても死なないしね。君らには生贄になってもらわないといけないしね」
悪魔の光の熱で爛れきったその顔ににこりと笑ってやり神は高らかに声を上げた。
「まずはワタシの大好きだった唯一無二の親友から…ゴミ箱へ入れてあげるとしよう!」
いらないものはゴミ箱へ……神にとって親友も愛すべき人類ももはやすべて「いらないもの」なのだ。
「楽しみだね、どんな風に足掻くのかな…それにあの子達もどうするのかな?やっぱり来るのかな?…考えれば考えるほど楽しみだよ!」
弾んだ声を上げる。
満面の笑みを浮かべる。
うっとりと遠くを見つめる。
────しかし、その心には依然として穴が開いたままだった。




