52. One o'clock closing.
お久です。
あまりにも久しぶりすぎて短くなってしまいました…
深い眠りの底…僕はまだもがいていた。
僕はまだ死んでなんかいない。というより神が僕を殺そうとはしなかった。
体の感覚はないのに意識だけがやけにクリアで、逃げたいのに逃げだせない。
現実での僕はたぶん神の操り人形のようになっているのだろう。
武器を振るって暴れまわって醜い人形…。
それを思うと今の自分がとても歯がゆかった。
いったいなんの意味があってこんなことを…
わからない。
神の考えが全くもって理解できない。
だが、確かなのは僕がここから早く出ないとみんなが危ないということ。
先ほど暗闇の中からミユキたちの声が聞こえてきたので助けに来てくれているのは確実だが、神が何をするかは検討もつかない。
今はここから脱出する術を考えなければ…
そんな時、頭に鈍い痛みが走った。
「………っ!?」
それと共に脳裏に三つの映像が流れ込む。
家族である父親に痛めつけられる記憶…
仲間や彼女が自らのせいで傷ついてしまった記憶…
意味もなく人を殺してきた記憶…
それはミユキたちの過去の記憶だった。
僕の過去なんて比じゃない…暗く陰惨で狂いそうなほど苦しみばかりのつらい現実たち。
そんな過去を背負いながらミユキたちはいつも僕に笑顔を見せてくれた。皆の心の強さが伺える。
……僕だったらきっと耐えられない。
苦しんできたのは僕だけじゃないんだ。
やっと…やっと僕はみんなを、セイナをトウヤをミユキを少し知れた気がした。
そして刹那…
「いや……いや、いやあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
「やめろおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」
「ごめんなさい…ごめんな、さい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
…みんなの悲痛の叫びが脳に響く。
身を切られる思いだった。
僕が苦しむのならまだいい…が、みんなが苦しむのは耐えられない。
「やめろ!やめてくれっ!!」
聞こえなくなるわけでもないのに耳を抑えてうずくまる。逃避する。
聞きたくなくて叫び続けたが、神は何の反応も示さず僕の喉はすっかりかれてしまった。喉が痛い、頭が痛い、胸が痛い。
もういやだ…
「………助けて…」
答えなんてもう返ってこない。
そんなことを知っていても気づけば救いの手が差し伸べられるコトを祈っていた。
「……トウヤ、セイナ…」
浮かぶのは僕の初めての仲間たちの顔。
こんなところまで来て僕を助けようとしてくれた人たち。
「ミユキ…」
大事な大事な仲間。
いつもそばにいてくれて守ってくれる…
だけどもうそれにしがみつこうとしても無駄だとわかった。
もう…いいんだ、みんな。
これ以上神の操り人形になるのは嫌だ……だから…っ!
…叫べたということは、舌が動くということ。
ならばすることは決まっている。
───つまりは僕さえいなければよかった話なのだ。
口を開け、舌を出し、そして…
『………何故…ワタシを見てくれない…』
「ソラっ!」
声が
聞こえた。
思わず僕は動きを止めた。
「ソラ!私たちはここにいるから!」
「ミユキ…?」
優しいミユキの声。
「俺たちなら心配ねーから、お前は早く戻ってこい」
力強いトウヤの声。
「あたしは急がなきゃならないの!早く出てきなさいよ!!」
意地っ張りなセイナの声。
僕は…僕が諦めちゃダメなんだ。
僕が諦めたら…みんなの思いの全てが無駄になる。
「……行かなきゃ…」
そうだ、僕は戻らなければならないんだ。
『なんで』
神の声が頭に響くが、僕は恐れず上を向いた。
「みんなが待ってるから」
『ワタシはどうなる』
「…あんたはまず自分の間違いに気づくべきだ」
『間違い?ワタシに間違いなどあるわけがない。ワタシは…』
「誰だって間違えることはある」
『……それは侮辱と受け取っていいのかな?』
「ご自由に」
『所詮は人間ということか…』
「…そうだ、僕らは人間。あんたが生み出した人間だよ」
『……もういいよ』
声は…そこで途切れた。
途端に暗闇にヒビが入ると激しい音を立てて崩れた。溢れる光に目を覆いながら僕は足を進める。
先が見えなくてもその足取りは確かだった。
そしてついに…
「……久しぶり、みんな」
三人の顔には笑顔があふれていた。
…世界は光であふれた。
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目を開くと元の船内の風景がそこにあった。
「ソラっ!やっと会えた!!」
肉体に戻ってきた途端待ち兼ねようにミユキが抱きついてきた。
…いきなり過剰なスキンシップありがとよ、ミユキ。
「み、ミユキ…!ちょ……」
慣れてないせいで声が上ずってしまい、顔に熱が集まるのを感じる。
ただでさえぼっち人生を歩んできた僕に女子からの柔らかなハグはハードルが高い。高すぎる。
「よかったぁ…本当によかった!」
しかも加えて涙目に上目づかいときては、もはや硬直するほかない。改めて末恐ろしい奴め。
これじゃ僕の心臓がもたないぞ…。
「いやぁー、一時はどうなるかと思ったがなんとかなったなぁ」
「全く世話のかかるやつよね」
背後に立つ二人は変わらぬ笑顔を浮かべ口々に言う。なんだか長い時間が経ってしまったかのような奇妙な感覚だ。
…戻ってこれた。
そんな実感が今更になって波のようにやってきた。
「…みんな…本当にありがとう」
感謝の言葉を述べると安心したせいか一気に眠気が襲ってきて、気づけば僕はまた気を失っていた。どんだけ虚弱体質なんだ僕は、と呆れるほどだった。
その後…目を覚ました後にミユキから聞いた話では、僕が神に操られて暴れた時に壊したものなどの修復を船長を筆頭に行ったらしい。と言っても大した損害もなく、むしろ途中に現れたという悪魔による船の損傷がひどかったとのことだ。
…安心して良いのやら微妙なところである。
ついでにその悪魔は僕が元に戻った瞬間に突然身を翻し帰っていったという。
船長は「自分で壊したもんくらい自分で直せよ!」とひどく憤っていたらしい…。
想像するだけで恐ろしい。
ともあれ、一先ず戦いが終わった。
まだ解決しきれていない部分もあるものの、一旦の終幕である。その証拠にあれから一度も神が接触してくることはなかった。
喜ばしいことなのだろうが、結局のところなんの解決にもなっていない。
しかし神はどこか僕と似ているところがある気がしていた。神の一連の行動により僕は少しだけ理解を深め始めているのだ。
…だから、僕は決めていた。
神にもう一度だけ会い、話をつけようと。
それが今の僕にできる唯一のことだと確信している。
ミユキに話すと「危険だ」と言われたが、それでも僕は心揺らぐことはなかった。
そんな僕の様子を見てミユキはしぶしぶだったが賛同してくれた。
新しい大陸に着けばすぐに神探しを再開すると言ってくれた。
ありがたい限りだ。
船が大陸に着くまではまだしばらく時間がかかる。
だから、その時まで僕らはゆっくりと休息をとることにした。
……わずかな時の中で起きた長い戦いがようやく終わったのだった。
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