50. Voice sounds.
連続更新!
みんなのトラウマ編!
───「お前らなんか生まれて来なけりゃよかったんだ」
懐かしい低い声が響く。
まるでゴミでも見るかのような目でこの人はいつも私たちを見る。あたしたちのことなんてなんとも思っていない…愛情なんて物はそこにはなかった。
……お父さんのくせに。
いや、この人はお父さんじゃないんだ。
お父さんは他にいる、本当のお父さんは他にいるんだ。
家に帰れば暴力、暴言の嵐。
そんな中であたしたちはいつしかそう思うようになっていた。
「だいじょうぶだからね、おねぇちゃんがカイトをちゃんと守ってあげるからね」
ボロボロになって、傷に絆創膏を貼ってあげながらあたしは強がってそう言った。
あの人間が眠りにつくといつもいつもこうやって弟のカイトを励ましていた。
あたしの方がカイトをかばってたせいでもっと痛かったけど、そんなこと構わなかった。
カイトは目に涙を溜めながら頷く。
その度に私も頑張らなきゃと思っていた。
…でも、それも最悪の形で終わりを迎えた。
「てめぇも黙ってないで何か言えよ!!」
いつもは私ばかりに怒りの矛先を向けるのに、この日に限ってはなぜかカイトに向けられた。
あたしは必死な思いでその人に縋った。
「やめて!カイトはやめて!」
「うるせぇ!ガキ!さわんな!!」
そして、その人は咄嗟に近くにあったマグカップを手にして…迷いもなく私に振り下ろした。
「おねぇちゃんっ!!!」
カイトのかすれた叫び声が聞こえたけど、あっという間にそれも聞こえなくなった。世界が真っ黒になった。
…死んだんだ。
そう認識するのにさほど時間はかからなかった。
図らずもあの人から逃げられたのだから喜ぶべきなのだろうが、どうしてもカイトのことが気になってしまい、素直に喜ぶことができなかった。
そして、そんな時に神が現れた。
生き返りたいかと問うてきた。
あたしは迷わず生き返りたいと答えた。
そうして弟のためならどんな手を使ってでも生き返ってやると、海賊にまで入って生きてきた。
でもそんな時にソラたちと出会った。仲間を知ってしまった。
気づけばそれは弟のことを忘れてしまうほどに楽しく、ボロボロな容姿のせいで友だちなど一人もいなかった私にとってそれはとても輝いて見えた。
「ぼくは…わすれられちゃったの?」
闇しかなかったのに、不意に顔を上げるとそこには海斗がいた。
「海斗…ちがうよ。あたしは今も海斗が心配で…」
「おねぇちゃんはいいね、あのひとからはなれられて。ぼくはあれからもまいにちまいにちひどいめにあってるのに」
「海斗……?」
「おねちゃん……クるしいヨォ…くるしいくるしいくるしい…おねぇぢゃん…!」
闇が徐々に紅に染まり出し、目の前の海斗はみるみるうちに血を流し、見ていられないような姿になっていった。
顔を反らすと「ぼくからにげるの?」と声がした。
再び前を向けばいつの間に距離を詰めたのか海斗がすぐ目の前にいた。
後ずさろうとしたが足が動かない。
「おねぇ…ちゃん。ぼくをスクってくれるよねぇ…?」
「いや……いや、いやあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
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───「大学にも行けないような子…うちにはいらないわ」
そんな母親の一言で俺の人生は大きく変わった。
親が医者なだけあってそれなりの成績を求められ、できなければ切り捨てられる。そんなことわかっていたのに、俺は大学受験を失敗した。……理由はわかっていた。
「トウヤさん!どうもっす!」
俺がつるんでいた仲間はいわゆる不良で、昔柔道とかしてたこともあって強かった俺は気づけばみんなのリーダーのような存在になっていた。
俺はそれを嫌とは思わなかったし、これでいいと現状を満足していた。
…そんな中での親からの縁切り宣言。
当然のごとく、俺はそれからどんどん堕ちていった。
……そして、その時は来た。
家出をしてから一ヶ月のある日、その日泊めてもらった後輩とともにいつもの集合場所である路地に行くと、そこには人だかりができていた。
何事かと人垣をかき分けて出ると、救急車が止まっていた。
「え……」
運ばれているのは仲間たち。遠目からでもわかるほどボロボロになっており顔は皆一様に血で濡れていた。
俺は我も忘れて駆け寄り、まだ意識のある仲間の一人に問いただした。
すると返ってきたのは
「…前に懲らしめた奴…前崎って奴が仲間引き連れて、来たん…です。報復だっ…て…」
「なんだよそれ……」
目の前が真っ赤に染まっていく。
怒りでどうにかなってしまいそうだった。
すぐに俺は後ろに続いていた後輩の声など聞かず走り出した。
「俺の仲間にあんなことしといてタダで済むと思うなよ…」
そこは町外れの寂れた倉庫。奴らのアジトだ。
俺は迷いもなく扉をけやぶり乗り込むと怒鳴った。
「前崎ぃ!出てこい!」
「ようやくお出ましか、待ちくたびれたぜぇ」
「………!!な、なんでお前…」
倉庫の中には前崎と何十もの前崎の仲間らしき男たちがいた。
……それはいい、問題なのは…
「ああ…こいつお前の彼女だったなぁ、たしか。もうほとんど息ねぇけど」
前崎はそう言って俺の一番大切な人を投げ捨てた。
服は裂け、身体中の傷から血がとめどなく流れ、ぐったりと力なく横たわる彼女。
「てめぇが悪りぃんだぜ?俺に手を出した時からこの女の運命なんて決まってたんだよ!」
…そこからの記憶はもうない。
気がついたら身体中返り血を浴びて真っ赤で、人の山を前に呆然と立ちつくしていた。
俺は彼女の前で膝をつくとその体の冷たさ感じてようやく知った。
……全部俺のせいか、と。
俺が受験失敗してなければ、俺が堕ちぶれずにいたら、俺が前崎に手を出さなければ、俺が彼女に出会わなければ、俺が…生まれて来なければ……よかったんだ。そうすればみんな幸せになれたんだ。
病院にいる仲間たちにあわせる顔がない。
目の前の彼女にはもっとあわせる顔がない。
「……………ごめん…みんな……」
俺はそうやって自ら首を吊って死んだ。
しかしそれでも俺は死ねず、神の手によって半ば無理やり魔物とかいるファンタジーみたいな世界に連れてこられた。
初めはそれこそ魔物にでも喰われれば死ねるかななんて考えていたのだが、そこでバールさんと出会えたことで考えは変わった。
彼も同じように自殺してやってきた者だったのだ。しかし彼には辛そうな顔など一切なく終始笑顔だった。
俺はそれを聞いて、見て、少しだけこの世界で生きてみようと思った。バールさんのように自分が嫌いでもこうやって笑顔でいられる原因を知りたいのもあったからだ。
バールさんとともに情報屋という店ではたらき、言われたことは必ずこなし、忙しい日々だった。
そんな時に出会ったのがソラたち。
バールさんがやたらと目をかけてるミユキというやつを守るためにも俺は彼らと旅をすることとなったのだ。
正直なところ面倒だった。
しかし彼らを実際に見た時、そんな考えは消え失せた。
…仲間という形をとってはいたが、彼らの心はまるでバラバラだった。
一人は記憶喪失、一人は行方不明と偽り、一人は茫然自失としていた。
俺は無性にこいつらを助けたいと思った。
俺のせいで昔の仲間のように酷い目にあうのかもしれない…でも、それでもこのままにしておくよりまだマシだと思い俺は彼らについていくことを決めた。
……その時にはすでに昔の仲間や彼女に対しての罪悪感がすっかり薄まってきていたのにも気付かず。
「トウヤ…」
闇の中に突如淡い光とともに死んだはずの彼女…芹那が現れた。
「セリナ…なんで…?!」
「トウヤ…痛いんだ、身体中のあちこちが…あれから長い時が経ったっていうのに、まだ消えないんだ」
「セリ…ナ…?」
ふと気づけばその背後には昔の仲間たちの姿があった。
「お前らまで…なんなんだこれは…」
「トウヤさん…あんたのせいで俺たち、酷い目にあったってのに……あんたは死んで逃げてるなんてね…ガッカリっすわ」
「……っ!」
「こんな人もう仲間じゃない」
「やめろ……」
「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」「裏切り者」
「やめろおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」
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───「私たちの可愛い娘たち、愛しているわ」
私の両親はとても優しい人たちで、いつも私たち、を愛情たっぷり大切に育ててくれた。
私もその愛に応えようといつも両親のためを第一に過ごしてきた。
妹の面倒を見るように言われれば友だちとの遊ぶ約束を蹴ってその通りにし、両親が風邪をひいたときは学校にもいかずぴったりと寄り添った。
もはや依存の域に達するような執着ぶりだった。
それも、私は拾われた子であって本当の子ではないのだと知っていたから。だからこそ私はまた捨てられたくなくて、1人が嫌で必死にしがみついていた。
そんな時に事件は起きる。
久しぶりに友だちと遊ぶ予定ができた私は親にも促されて珍しく家を空けていた。
夕暮れになってようやく帰路に着くと…家は燃えていた。
周りの雑踏の会話から放火だと知り、私は真っ青になって駆け出した。
炎の中、孤独という恐怖に耐えられず家族を探すが見つからず、結局私は死んだ。
そして、同時に地獄の始まり。
神への憎しみを糧に生き、名ばかりの逆神会に所属し、神への
報復という名で罪なき人を殺し、魔物を殺し、殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し…
気が狂ってしまいそうな毎日。
でも、そんな中でも私は希望を見つけた。それがソラ。私と同じ神人。
彼のためなら命すら捨てられる…そんな家族よりも大切なもの、それがソラだった。
「可愛い私たちの娘…美雪」
闇に淡い光が現れたかと思えば、それはみるみるうちに形を取り始め、ついには懐かしい私の家族となっていた。
「これがダビくんが言ってたやつね…」
「美雪」
「おねぇちゃん」
「………っ」
偽物だとわかっていても頭が目がそれを否定しようとしてくる。…厄介だ。
「私たちにとってあなたは何より大切な子。…あなたにとっての私たちも何より大切なものよね?」
「それは……」
「父さんたちを愛してはくれないのかい?」
「そうじゃなくて…」
「ソラなんてひとよりわたしたちのほうがおねちゃんのことだーいすきだよ」
「………………」
「おねぇちゃん、ちゃんとわたしたちをみて」
声につられて顔を上げると、家族の背後にうじゃうじゃと血にまみれた人間たちが現れていた。
「!! 危ない!みんな逃げてっ!」
しかし、叫びも虚しくお母さんがクスリと笑った。
「その前に、まずはちゃんと彼らの顔を見てあげなさいよ」
「…?」
言われた通りおぞましい人々へ視線を巡らせる。…そして気づいた。
「あ……あぁ…………」
彼らは私が今までに殺してきた人たち。忘れるはずもない苦しみに歪んだ彼らの顔が今そこにあった。
「なんで……っ」
「みぃーんな、おねぇちゃんにあうためにきたんだよ」
「みんな君が憎くてたまらないらしいんだ。…もちろん、父さんたちも」
「え……お父さん…?」
「私たちは死んだのに、なんであなただけが生きてるの?」
「なんでわたしたちよりソラをたいせつにしてるの?」
「父さんたちのこと、もう忘れてしまったのか?」
「なんで…罪もない私たちを殺したのぉ!!」
な ん で ?
「ごめんなさい…ごめんな、さい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
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───「………助けて…」
うぅ…こめんよぉ…みんな。
だけどね、ごめん…正直今まで書いた中で最も筆が進んだ…(´・_・`)




