38. Peace or ruin.
今回はソラくん視点から外れて、三人称で!
「……ソラ…っ!」
ミカの叫びが轟き、ビーチの賑やかさは一瞬にして静寂へと変わった。あまりにも唐突すぎる出来事に皆、体が固まってしまっていた。
初めに動いたのは……シロだった。
すぐ後ろを泳いでいたシロはソラの異変に気づくや否や急いで沈み始めたその体を引き上げ、これ以上水を飲んでしまわないようにした。
「ソラ!ソラ!!」
声をかけても反応はなかった。
「ワタシが連れて行く!」
少し遅れてやって来たミカはいつものポーカーフェイスを崩し、必死の形相で手を伸ばした。体力に自信のある自分が運んだ方がいいと思ったのだ。
──しかし、シロはその手を拒絶した。
「触んないでよぉ!気持ち悪い!」
「……っ!?」
…シロはミカに以前のセイナ以上に不信感を抱いていた。
彼女の真っ赤な髪にはシロのよく知る最も嫌いな匂いがこびりついている。
"あいつ"の匂い……。
匂いを嗅ぐだけでも嫌気が差す。
それに、彼女の黄金の瞳は消えた仲間の姿を思わせる…。
だからシロはできるだけミカを避けた。ソラたちがミカを気に入って信頼しているから、誰にも気づかれないように彼女を避けていた。
ミカは表情を歪ませるがシロはそれを無視し、海岸へソラを抱えて泳いだ。
非力ながらに努力したシロが海から出る頃にはいつの間にやら隣にはトウヤが立っていた。
「おい、何があった?」
そのぶっきらぼうな口調から焦りが垣間見えた。
「ソラが溺れたぁ」
「怪我は?」
「特にないけど…意識がない」
「そうか…」
トウヤは少し安心したのか、強張っていた表情がわずかに緩んだ。
「とりあえず海の家に連れて行って、店員の人に協力してもらえ。こういうのはプロが対処するべきだ」
「わかったぁ!」
「ワタシも行く」
トウヤの指示を受けているとミカが申し出て、シロは思いっきり顔をしかめて嫌悪を表したが、今のミカの目にはソラしか映っておらず、気づけなかった。
…そんなミカにシロは「彼女」の面影を感じたが、そんなわけがないと思考をやめた。
「じゃあ、頼んだ。セイナにはちょっと話があるから残ってくれ」
「えっ…?!」
「はぁーい」
不満ながらもシロは渋々頷き、ミカとともに海の家へ急いだ。
「セイナちゃん、ミカの正体…聞いた?」
「へっ!?」
どんな話をされるかと身構えていたが、予想外の質問にセイナはついたじろいだ。
このことはミカとセイナの秘密だ…と強く約束しあったので、いくらトウヤといえど教えられない。
「あ…アタシは知らない……」
「おお、そうか聞いたか。…助言しといてよかった」
「え?」
「実は俺も知ってるんだけどよ…」
「ちょ…ちょちょっ、ちょっと待って!どういうこと!?なんで知ってんのよ!」
嘘をあっさりと見破られた上、突然の衝撃発言にセイナの思考はピタリと活動停止した。…理解が追いつかない。
トウヤは「えっと…」と髪を乱暴に乱しながら簡単な説明をした。
自分はバールから皆の状況を知らされており、最悪のケースにならないようにするため仲間になったのだ…と。
「………そういうことだったの…」
丁寧な説明でようやくセイナも理解した。
「まぁ、いつかセイナちゃんにも伝えなきゃとは思ってたんだけど、時間がなくてね」
「べつにあんたに興味はないから話さなくてよかったけどね」
「今の発言、すっごく心に刺さるんだけど?!」
「知らないわよ」
ふん、とセイナはそっぽ向く。
本心ではもっと早くに話して欲しかった…。
そうすれば、ミユキに辛い思いをさせずにすんだのに、冷たい態度を取らずにすんだのに…。
…後悔ばかりが広がる。
……ふと、頭に手を置かれた。
セイナは驚いて顔を上げるとトウヤが海の家での時と同じように自分を撫でてくれていることを理解した。
「後悔なんてすんなよ。セイナちゃんは前だけ向いてりゃあいい」
「……………」
セイナにとってその優しさは長く焦がれたもの…。
ずっと、生きてきて一度も向けられたことのなかったもの…。
セイナは純粋に嬉しかった。
「…どうした?そんな固まって」
トウヤがセイナの顔を覗き込もうと首を伸ばすと、セイナは今の顔を必死に見せまいと覆い隠した。
「そ…そういえば、ミカがミユキならソラにも教えてやればいいじゃない。なんで教えてやらないの?」
言葉でも覆い隠す。
…すると、トウヤは途端に沈黙した。
どうしたのかと今度はセイナがトウヤの顔を覗き込む。
「ソラには伝えないんじゃない……伝えられないんだ…」
その顔には表情がなかった。全くの無…
「な…なんで……?」
セイナの問いにトウヤは沈黙を返した。
まだセイナに話すには早い、そう判断したのだ。
トウヤはしばしの沈黙を持続した後にはぐらかすように「俺たちも海の家に行こう」と言ってセイナの意識をそらした…。
…ソラは神に見張られている。
しかも、その神はもしかしたら……
…シロかもしれない…
最大の問題。トウヤたちがこうして時のない世界に閉じ込められることとなった元凶。
それが仲間のシロだ…なんて、とてもじゃないがセイナには言えない。
……これ以上、彼らを苦しめたくない。
だからこそトウヤは「いつも通り」を装いながらシロを見張ることで仲間という関係に亀裂が入ることを阻止している。
それが今の彼らにとっての幸せなのだ。
セイナはそんなトウヤの思惑など知るはずもなく、大人しくトウヤの言う通り海の家へと歩を進めた。
──その頃、ほくそ笑みながら新たな計画の準備をちゃくちゃくと進める「誰か」にトウヤは気づくことができなかった…。




