36. The sea clears up.
キラキラと日差しを浴びて輝く水面は波をうち、深い青が無限の広がりを見せている。
「やっほぉぉおおお!海だああぁ!」
…と、いうわけで海である。
片付けも無事に終了し、ご褒美のような形でこうして海にやってくることになったわけだが…
「暑い…死ぬ……」
むしろ僕にとっては地獄だった。
まだ砂漠での暑さに比べれば対したことないが、あの時はほとんど日陰にいた。しかし、今回は日陰がない。
…つまり、直射日光がモロに当たるのだ。水着姿ということもあり、肌全体がジリジリと焼けて痛い…。
加えて人が予想外に多いときたものだ。
「ソラ、大丈夫?」
「あ、ああ…大丈夫…」
ミカには強がって見せるものの、本心ではもう今にも死にそうなくらいだ…。
だが、僕とは正反対のやつもいるわけで……
「おいおい、情けねぇな!お前、それでもオトコかよ?」
と、トウヤはケラケラと笑う。
まさか水着の時までマフラーをつけるのかと心配していたが、杞憂に終わり、代わりに首を大きく隠すようにチョーカーが付けられていた。……なんでそこまで首を隠すのか疑問で仕方がないが、ともあれ今のトウヤの言うオトコとは絶対「漢」と書いて「おとこ」と呼ぶ類のことに決まってる。
もし、そうだとしたら、全くもってその通りである。僕は漢になる気なんてない。
「これじゃあ、まだセイナちゃんの方が漢じゃねぇか」
海を見てはシロと興奮気味に話をしているセイナをまるで親のような目で見つめながら呆れた声を上げる。
呆れたいのはこっちだ。
「はぁ……」
…あらためて思う。
トウヤはすごいやつなのだろうが、どうにもうまく接することができない…。
何と言うか……トウヤがグイグイ話をしてくるのが、正直、少し困る。
話す時は、僕のペースで話がしたい。
それに、そもそも…僕はこいつを「仲間」と考えてもいいのだろうか…?
バールの知り合いとはいえ、僕らはまだトウヤのことをよく知らない。信用しきれない心がまだしこりのように残っているのだ。
……怖い。
「ソラ?」
「…っ!な、なんだよ」
不意にミカの声がかかり、意識が引き戻される。
僕は…こんな時に何を考えているのだろう。
「ソラ、休む?海の家に行く?」
ミカはトウヤとは違い、真剣に心配してくれた。
「いや、大丈夫。気にするな」
「なら、海入ろう?冷たいから」
「だな。人混みにいるよりはマシだ」
ミカと共にセイナたちを追って海へ歩を進めた。が、すぐに異変に気付き、立ち止まった。ミカが不思議そうに首を傾げて同じく立ち止まる。
「どうかした?」
僕は黙って目の前の状況を見つめていた。
さっきまでの仲の良さはどこへやら、セイナとシロが喧嘩していた。
…何があった?
ミカもそれに気がついたようで、慌てて二人の元へと駆けていった。僕もめんどくさそうだなと思いつつも後に続いた。
「どうしたの?」
「あ、ミカちゃん!聞いてよ!シロが…」
「へー、逃げるんだぁ」
「逃げてない!」
「とりあえず落ち着いて…」
「どうしたんだよお前ら。早く泳ぎに行けよ」
僕が言うと、なぜかセイナがギラリと睨んできた。
「な、何?」
「セイナ、実は泳げないんだってぇ」
「は?そうなのか?」
「バカにすんな!泳げるっ!!」
「???」
どういうことなのか、さっぱりわからない…話についていけないんですが?
えーっと、つまり…セイナが泳げるか泳げないかで喧嘩してるってことか?
……なんだそれ
「そこまで言うならぁ沖の方まで競争してみようよぉ!」
「わ、わかったわよ!やってやるわよ!」
ちょっと上ずった声でセイナは頷いた。
なんだかうまく口車に乗せられているような気がするが…まあ、泳げるなら心配ないだろう。
そう思って感心をなくしていると、
「……まずいかも…」
と、ミカのつぶやき声が聞こえた。
「まずいって、なにが?」
「たぶん、セイナちゃんは…」
続きの言葉は聞かずともわかった。
僕が目を離している間に競争を始めたセイナは、あっという間にブクブクと転覆していた。
あの「泳げるっ!」は、ただの見栄っ張りだったのだ。
「せ、セイナ?!」
「助けなきゃ…!」
たじろぐ僕の代わりにミカが助けに行こうと走り出した瞬間、その脇をするりと抜けて駆けていく影が現れた。
「待ってろ!」
……トウヤだった。
トウヤは勢いよく海に飛び込み、セイナを助けるとそのまま連れて海上に出てきた。
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「ここの海は、浅瀬が突然途切れて深くなるから、気をつけなきゃダメなんだ」
ひとまず近くの海の家に避難し、セイナを休ませていた。
思ったより中には人が少なく、僕も助かる。
「それに、俺が戻るまでまだ海に入るなって言ってたはずだろ?」
「ううっ…」
セイナは申し訳なさそうに首を垂れている。
「つーか、なんで泳げないのに海見てはしゃいでたんだよ。普通テンション下がるだろ?」
僕が言うと、またしてもセイナは僕を睨みつけてきた。
だからなんなんだ、それは!
「……海に…来たことなかったから…」
「…は?何だって?」
「だから!海に来たことがなかったの!」
セイナが顔を真っ赤にして声を張り上げるが、僕はその言葉に違和感を感じた。
セイナはたしか元海賊だったのでは…?
なら、海など見飽きてるはずだが…。
「……あれ?セイナって元海賊だったんだろ?海が初めてっておかしくないか?」
思ったままを指摘すると、セイナは表情を曇らせた。
「確かに海なんて散々見てきたわよ…。でも、海賊ってのは言わば悪党でしょ?だから、堂々と浜辺に船をつけることなんてなかったし……もちろん、こうやって遊ぶために海に来るとかもってのほかだったし…そういう意味では初めてなのよ…っ!」
「生きてた時にも行ったことないのか?」
海賊なりの複雑な事情を知り、トウヤが問うと、セイナは無言で頷いた。
意外な返答に僕は驚かざるを得なかった。
家族と一度くらい行くだろ、普通。
…まぁ、僕にはその記憶自体がないので僕も海に来たのは初めての気分だったが…
「…だから……海で泳いだことなかったし…もしかしたら泳げるかもって…思って……」
セイナはしょんぼりと肩を落とす。
なんだか怒るのも気が引けて来た。
まぁ、もともとシロがあんな焚きつけるようなことするから悪いんだろうし…仕方ない……のか…?
ついでに現在シロは、セイナが溺れていたことも知らず、沖まで行ってしまったので一応ミカに見張っててもらってるが、基本そのまま放置してある。
「てか、お前はどこ行ってたんだよ」
言葉が途切れたのを見計らい、トウヤに訊くと、「セイナちゃんのために浮き輪もらいに行ってたんだよ」とのことだった。
海に近づくに連れてわずかだが顔が引きつってきていたのでなんとなくわかったのだと言う。
…よくそこまで見てたな、と僕は感服する他なかった。
こういう点では、やはりトウヤは仲間としていいやつな気がするが…やっぱり相性がなぁ…あと、怖いし……
「じゃあ俺、ちょっとシロたちの方を見てくる」
「あ、わかった」
言うと、トウヤは立ち上がったが、すぐに思い出したようにセイナの頭に手を伸ばした。
「まぁ、とりあえず無事なんだ。感謝しろよ?」
トウヤは最後にそう言って、セイナを撫でるとさっさと海の家から出ていった。
「……………っ!」
セイナの顔ははすっかり赤くなり、トウヤに撫でられた頭を抑えてはますます頬の色を濃くしていた。
………トウヤ…お前、カッコよすぎるだろ…。
とりあえず、僕はトウヤに男として負けているような気がしてならなかった。
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