34. Secret and anxiety.
「まあ、こんなもんか…」
情報屋から出て、裏手に繋がれていた吊り橋を上り、木のもっと上の方に出ると見える同じようなたくさんのツリーハウス。その中の一つの衣服屋に入った僕ら…トウヤ、シロ、そして僕の三人は予想以上にあっさりと衣服の買い物を済ませてしまっていた。
「存外早く終わったな」
「そうだね…」
買ってすぐ、トウヤの指示によって着ることになり、僕は適当にTシャツとジャケットにしたのだが…やはり、いつもの着慣れた服とは違っているので少し違和感がある…。
「ほら、女子が帰る前に早く店に戻るぞ!」
だぼっとしたTシャツにマフラーというなんとも首元の暑苦しい姿になったトウヤがそう言って急かす。
……つーかマフラー外せよ。
「なんでそんな早く帰んないといけないのぉ?ゆっくりしたいよぉ!」
やたら派手な色のアロハシャツ姿のシロが抗議する。
……なんというか…あらためて思うが、服選びってこんなに個性が顕著に出るんだな…。
「ゆっくりなら後で十分できるだろ?」
「えーやだぁー」
まるで子供のように駄々をこねるシロは実にうざい。さすがのトウヤもちょっとうざかったのか、目が細くなっている。
だがまあ、シロの意見も正直わかる気がしていた。せっかく早く終わったのだ。少しくらいのんびりしたい。
「それに、早くしねぇと女子が帰ってくるんだぞ?」
「だからぁ?」
トウヤは呆れたように言う。
「少しでも女子の負担を減らそうとか思わねぇのかよ、お前ら」
思わぬ紳士発言が出た…。さすが大人。
「ひゅー!大人だねぇ」
「ソラ、こいつぶん殴っていいか?」
「ダメに決まってるだろ…」
シロのバカにしたような物言いに今にも殴りかかりような様子だった。
……さすがに暴力はダメだと思うので制止しておく。
「まあでも、時間はたっぷりあるんだ。今はとりあえず店に戻ろう」
「えー!ソラまでぇ?」
悲観の声をあげるシロだが、一人で行動するのはもっと嫌なようで、渋々といったように後をついてきた。
最初からこうすればよかったのだ。
「ワガママには無視が一番だ」
「さすが、ソラは扱い慣れてるな」
……あまり褒められてる気がしなかったのは黙っておこう。
それより心配なのは、向こうの方だ…。
「セイナのやつ、ちゃんとやってるかな…」
「心配ない。きっと帰ってくるころには仲良くなってる」
トウヤは僕を安心させようとそう言ったようだが、あまりにも現実味のない考えだったので特に安心すことはなかった。
セイナとミカが仲良くなってる姿なんてとてもじゃないが、想像すらできない…。
……セイナとミカは、ちゃんとケンカせずにいるだろうか…?
唯一、いつもと変わらぬ場所にあり続ける太陽を見上げ、僕は店へと戻る道を進んで行った…。
…一方そのころ。
「……………」
「…………」
アタシとミカは重苦しい沈黙のまま黙々と目的の店を探していた。
「……あの…」
「喋らないで、うるさい」
ぶっきらぼうに答える。しかし、ミカは今度はあたしの肩を掴んできた。
何事かと振り向くと
「…お店、通り過ぎた」
「!! し、知ってるわよ!」
180度方向転換すると、トウヤからもらった地図に書かれていた目的の衣服屋に足を向けた。
こんなやつに指摘されたと思うと…超イラつく…
「…だいたい、なんであんたなんかと一緒に買い物しなきゃなんないのよ…」
口からもれる愚痴は、全てミカに向けられたもの
───アタシは、ミカが嫌い…大嫌い。
無愛想な言動が嫌い、睨むように鋭い瞳が嫌い。…そして、ソラのそばにいたにも関わらず、ソラに記憶を失わせたから嫌い。
大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い!
…せめてミユキがいれば、まだこいつのことも好きになれたのかもしれないけど、そのミユキは今、行方が知れない。
こんな状況で「仲間だ」と言われても、まるで、ミユキの代わりみたいな気がして喜べない。嬉しくない。というか、むしろ邪魔なのだ。
「ごめんね…」
突然、ミカが謝った。
その意味がよくわからず、アタシはいつもみたいに怒鳴る。
「なにが「ごめんね」よ!そんなことを思うくらいなら、早くアタシの前から消えてよ!」
「セイナちゃんが望むなら、すぐにでも消える。だけど、その前に少しでもいい…話を聞いて…!」
必死に訴えるミカ。その声にはどこかミカらしくない…感情が強く込められてる気がした。
──ふと、その声に懐かしさを感じる。
アタシは思わず足を止め、ミカへ視線を向け、初めてミカを真正面からしっかり見つめた。
…そして、ようやく自らのとんでもない勘違いに気がついた。
「……あんた…もしかして……」
アタシの言葉に「彼女」は情けない表情を浮かべる。
「黙っててごめんね。でも、あいつに私が生きてるってバレちゃダメだったから…」
アタシは、ゆっくりと問いかけた。
「…ミユキなの?」
彼女は答えた。
「…うん、私はミカじゃない。ミユキだよ」
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