30. Five travelers.
結局、休む間も無く僕らは拠点である町長の家へ帰還した。
部屋に入るや否や疲労困憊の僕はその場にへたり込んだ。足はとうに限界を超え、棒のようになっている…。
「ただいまー!バールさんいる?」
「ちょっ…まっ……!少しは休ませろ!」
僕の叫びは当然届かず、セイナはさっさと二階へと登っていく。バールの部屋は二階の最奥にあるのだ。
僕はため息を漏らすと、ひとまず買ってきた荷物を一箇所にまとめて置き、近くのイスを引き寄せて座り込んだ。今のうちに一休み、一休み…っと。
何もせずただ座っていることがこんなに楽なことだとは…と改めて実感する。
…すると、だんだんと意識がぼんやりと淀みだす。
疲れてもう動く気力も出てこない。
瞼が重い………
…………。
『……ソラ…』
知らない声…。
誰だろう…なんで僕の名前を知ってるんだ…?
『…ソラ』
うるさいなぁ…今僕は眠いんだよ…
『……忘れないで…』
……………は?何を…?
──そこでぷつりと意識が途切れた…。
「…おい、生きてるか?…死んでんのか?」
不意に声がしてゆっくりとまぶたを開く。
…いつの間にか本当に寝てしまっていた。セイナが起こしに来たのだろう。
「…死んでるわけないだろ……バカか」
悪態づいて、顔を上げた。
「………あれ…?」
僕の顔に影を落とす人物はセイナではなく……目を丸くした見知らぬ青年だった。
緑色の髪を後ろに流し、前髪は端の方だけピンでとめているという変な髪型の奴…。
……誰?
てか…ちょっと待て。……さっき僕、何て言った…?
「死んでるわけないだろ…"バカか"」って…
………うわぉ…初対面の人相手に超失礼発言じゃん…。
「あ…えっと……これはその…」
弁解しようと慌てて口を開くが、すぐに青年の笑い声でそれは遮られた。
「ハハハッ、元気なようでなによりだな!」
あ、この人想像以上に爽やかだ。
青年の性格に救われ、なんとか気分を害せずに済んだようだ…。心から「ありがとう」と言いたいよ、彼の性格には。
「にしても、こんなところで寝るのはやめとけ。首とか腰が痛くなるぞ?」
「あ、はい。ご忠告どうも…」
…それにしても、だ。一つだけ言いたいことがある。
「というか…あんた誰?」
青年は呆気に取られたようにぽけーっと僕の顔を見つめ返した。
…どちらかというと僕の方が呆気に取られるべきではないか?とか考えつつも場をわきまえ、僕は青年の答えを待った。
青年は…
「ハハハハハハッ、もしかして聞いてなかったのか?バカだなぁお前」
知りもしない人に対していきなり顔を覗き込み、加えて「バカだなぁ」とか言うあなたよりはまだマシだと思いますケド?
…なんて言う勇気はもちろんないわけで……。
くそっ、これだからチキンは!と僕は後悔し、これからはちゃんと始めて話す人に対してももっと積極的になれるようにならなければ…!と決意を新たにする。
……なんの話だ…これ…。
兎にも角にも、青年は一通り笑終わると満足したのか、ようやく自己紹介を始めた。
「俺はトウヤ。これからお前らの旅のお供、及びナビゲートをさせてもらうもんだ。よろしく」
手を差し出されたので反射的に握り返し、「こちらこそ」とこうべを垂れた。
だが、すぐに僕は体を硬直させた。変な言葉が聞こえた気がしたのだ。
僕は、一言一句間違いがないか繰り返して確認する。
「旅の…お供?」
「ああ、そうだ」
「ナビゲート…?」
「これからはわからないことがたくさん出てくるだろうからな」
「…これから?」
「ああ、これからだ」
「……………」
なんで?!
申し訳ないけど、全然理解できてないんですが?!
「えっと……それはつまり、仲間…ということで間違いないか?」
青年は満面の笑みで頷いた。
「間違いない。俺も今日からお前らの仲間だ!よろしくなソラ!」
僕は思わず頭を抱えた。
……変な奴が仲間になってしまった…。
てか、なんでこいつ僕の名前知ってんだよ…
「ただいま」
…と、そこにグッドタイミングでミカの声が玄関から響いてきた。青年、もといトウヤはもちろんその声に反応する。
さすがミカ!空気の読める女!
「お!この声は…」
なぜかワクワクしているトウヤはともかくとして…ミカは警戒することもなく僕らのいる部屋へと入ってきた。
「ソラ帰って……って…え?!」
珍しくミカがいつもの真顔を崩し、驚きに目を見開いた。
「やあ、どうもミ・カ・さん」
トウヤはまるでそんなミカの反応を楽しむようになんか地味にイラッとくる呼び方をしてみせた。
「……っ……トウヤ…だったっけ」
「覚えてたか!よかったよかった。忘れられてたらどうしようと思ってたぜ」
「…初めて会った時とはずいぶんキャラが違うような気がするんだけど…気のせい?」
「それは寝ぼけてたからに決まってんだろ?てか、それを言うならあんたのほうがずいぶんとキャラが違う気がするんだけど?」
「………気のせい」
「あ、そう?」
どうやら…このトウヤはミカの知り合いのようだ。これはもう、訊くしかないよな。
「おい、ミカ。こいつ知り合い?」
訊くと、ミカは思いっきり顔をしかめ、
「……前にちょっと…」
「そ、そうか…」
知り合いとはいってもあまり仲はよろしくないようだ…
なんだかこれ以上訊いたらミカの不機嫌さが限界を超えてしまいそうだったので、訊くことは一旦中止する。
すると、その時、二階からおりて来る複数足音が怒鳴り声とともに入ってきた。
「ちょっと!さっきからうるさいんだけど!何してんのよ!」
怒鳴るセイナと、その後ろからシロが現れ、続々と仲間たちが集まり始めた。
セイナはちらりとミカを見るがすぐに視線は僕とトウヤに向けられた。
「見ればわかるだろ…?」
「……いや、正直よくわかんないんだけど」
「だよな、僕もわからん」
「てか、この人誰?」
先ほどの僕と同じ質問をセイナも繰り返す。やっぱり気になっちゃうよな…。
再びトウヤが自己紹介を始めると思われたその時、
「やっと来たのか、トウヤ」
「あ!バールさん!」
とびきりな笑顔でトウヤは今さっき現れたばかりのバールに向かって駆け寄った。もちろん、僕たちは無視の状態…つまりは置いてけぼりだ。
「無事で何より!店はちゃんと閉めて来たから、心配いらねーよ?」
「そーか、よかった。…まぁ、状況は見たとおりだから、あとはよろしく頼むよ?」
「おう!任せろ!」
会話がイマイチ聞き取れなかったが、なにやら2人はどこかの「店」の繋がりらしい。
「あれ、バールさんって何かお店してたっけ?」
ふと思い出したような僕の質問にバールは優しく微笑みながら答えてくれた。
「私と彼でいろんな確かで安心な情報を取り扱う「情報屋」という店を経営しているんだ」
「そこのミカも一度店に来たことあるんだぜ」
「本当か?」
「まぁ…本当」
曖昧な言い方だな、おい……。
「ついでに、俺をここへ呼んだのはバールさんだ」
「え…なんで?」
バールは悲しげに眉を下げた。
「流石の私も年だからねこれからの旅には私の代わりに彼を連れて行ってもらいたいんだ。きっと君たちの役に立つ」
バールがそこまで言うなら断るわけにもいかず、僕は無言で頷き、了解したことを伝えた。他も同じように「わかった」など端的に答えて了承した。
「ありがとう。このバカ息子をよろしく頼むよ」
「はい」
と、その時の僕は「仲間」の意味など知らぬため、ただ頷くことしかできなかった…。
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