29. Connection of the heart.
照りつける太陽が眩しくて僕は額に手で影を作るように当てる。しかし、暑さは相変わらずで僕はもう倒れてしまいたいくらいだ…
それができないのは…
「ほら、これあんたが持って!」
わがまま女王様によって荷物持ちという使命を背負わされているからである……。
「お前…どんだけ買う気だよ……」
ちょっと引き気味に訊くと女王様はツンとそっぽ向きながら
「しかたないじゃない!バールさんがいるって言ってるんだから!」
「いや…だとしても、なんで僕ばっか…?」
「黙って歩く」
「はい」
なぜか彼女には逆らってはいけない気がして、僕は大人しくその半歩後ろを続くようにして歩いた。
──あれから…僕が目覚めてからしばらくが経った。
バールの意見でこの町、マリターボにしばらく滞在することになり、休養の合間に街の復旧の手伝いなどをして過ごしていた。
初めの頃と比べるとなかなかに復旧は進み、町も活気づいてきていた。
それもこれも全てバールと町長の指揮のおかげだ。
ふと、目の前の少女が不意に立ち止まり、僕も立ち止まる。
どうしたのだろう?
そんな風に首を傾げていると、小さな声が聞こえてきた。
「……ねぇ、あんたさ…名前……なんだったっけ?」
「は?忘れたのか?…ソラだよ、ソラ!」
「………ソラ…か……そうだったね」
「なんで忘れるんだよ。昨日も聞いてきたくせに…」
「ああ…ごめん……」
セイナはちょっと…いや、かなりおかしい奴だ。
ただのわがままなやつかと思えば、僕の名前をいつも聞いてくるほどバカだし、しかもその時だけいつも別人みたいにテンションが下がる。
情緒不安定なのか…?
それとも僕と同じで…
……記憶がないのか。
僕は今までの…バールさやセイナ、シロ、ミカとの出会いのことを知らない。僕自身のことも知らない。
……ミユキという人のことも知らない。
なにも…知らないのだ。
僕は少しでも思い出せないかと彼らに過去の話を聞いたが、どうにもハッキリとは思い出せずにいた。
特にミユキのことは全くと言っていいほど思い出せなかった。
話で聞くには、彼女は僕といつも一緒にいて、僕も彼女に心を許していた…そういう存在だったらしい。
正直なところ、どんな人だろうという興味はあった。でも、今は行方不明中で顔も見れないし、もちろん会うこともできない。
だから、僕はミユキという人のことをあまり考えないようにした。考えても無駄だとわかっているし、バールも「きっといつか会えるよ」と言っていたから、僕はとりあえずこのことは考えないようにしていた。
今は僕のそばにいてくれる仲間たちのことさえ分かっていればいいのだ。
そう考えていると、なぜか心の奥がスッキリして落ち着いた。
悩みが一つ消えて僕の心が安心したのだろう。バールはそう言って笑っていた。
あまりの暑さにフラフラと足取りがおぼつかなくなってきた…これは流石にまずいのではないでしょうか、セイナさんやい?
「せ…セイナ……休みたいんだけど…?」
「男なら我慢しろ」
有無を言わさず突っぱねられてしまった。
「…このままでは本気で熱中症とかになって倒れそうなんだけど?責任とってくれんの?」
「知らない、アタシのせいじゃない」
「外道!鬼!」
ありったけの恨みを込めて叫ぶが、セイナは聞く耳持たずさっさと歩を進める。
僕は置いてかれまいと必死に後を追うが、その分、周りへの注意力がおろそかになり、結果として…
「あ…」
石につまずいた。
最悪の状況だ。大量の荷物のせいで両手は塞がれているし…このままでは…顔面から地面にスライドしていくことになる…!
あ、もうダメだ…。
そう悟って目をつぶる。
…が、思ったほどの衝撃は無かった。
「大丈夫?」
頭上から声がかかる。
ああ…この声……
「ミカ…か」
真っ赤な髪に隠れた鋭い瞳が僕を心配そうに見ている。
バール以外の僕の知る中で一番まともな奴。
みんなから聞くところによると、もとはあまり僕たちに対して友好的ではなかったらしい。ただ…皮肉なことに僕が記憶を失う現場に彼女は居合わせ、ひどく大きな罪悪感を抱えてしまったらしい。
そのせいか、なにが起こったのかは一切話そうともしない。
「顔色悪い。大丈夫?」
「ああ…大丈夫」
ともあれ罪悪感からとはいえ、ミカは僕を気にかけてくれる。セイナも見習って欲しいものだ。
「ちょっと、何してんの?」
話をすれば…セイナが不機嫌さ丸出しの表情でやってきた。
が、ミカを見ると一変。
表情から感情が消え去った。
「何してんの?あんた」
「…手助け」
「必要ない。邪魔だからあっち行って」
「ソラの顔色が悪い、休ませて」
「 どうでもいいから、早くあっち行って!」
ミカはセイナをじっと見据えると
「……わかった」
と言い、さっさと背を向けて去って行ってしまった。その背中はとても寂しそうに見えて胸が苦しくなった。
ミカがいなくなって、僕は口を開いた。
「…セイナ、今のはちょっと言いすぎだと思うぞ?」
「うるさい」
セイナはそれだけ言うと、ミカとは正反対のほうへと歩を進めた。
──平穏なようでつぎはぎだらけ…それが僕らの現状。
僕はふぅ、と息を吐くと空を見上げた。空には相変わらず変わらぬ場所で太陽が輝き続けている。
もし…ミユキという人がいたならば、この重苦しい状況もなんとかなったのかな…?
そんなくだらない妄想に頼りたくなるほどに僕らの心はバラバラだった。
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