27. Each thought.
正直、何が起こってるのか、何が起こったのか…何もかもがわからなかった。
いつの間にかシロを捜しにソラは飛び出しているし…と思ったら今度はシロが真っ青になって部屋に飛び込んでくるし、そのシロについて行くとソラが道端で倒れてるし……
…もう意味がわかんないっ!
しかも、いつも怒りのはけ口だったソラがぶっ倒れてる…つまり、ストレス解消ができない!
みるみるうちにストレスとか怒りとか頭の中に詰まってきて気が狂いそう…。
「はああぁぁっ……もう!」
大きめのため息をつくが、当然誰も反応しない。
部屋には意識のないソラとアタシだけ…つまり事実上一人。
反応を期待するだけ無駄ってものだ。しかし、反応がなくても愚痴はこぼれる。
「……アタシ、こういう考え込むこととかが一番嫌いなのに…」
なんでこんなことに…?
訊きたくても訊けない…
最近はそんな疑問ばかりが頭をかすめる。
船長にソラたちについていけと言われた時も、森に入った時も、砂漠を歩いてる時も、バジリスクと戦うことになった時も、その神殿が目的の場所じゃなかった時も、ミユキがいないってわかった時も、ソラが倒れているのを見つけた時も、今でさえ…!
…アタシはただ……早く生き返りたいだけなのに…。
何もかもがうまくいかなくて、思いもしないことばかりで、いやになる。
「はぁ…」
今度は自然とため息がこぼれ出た。
まったく、アタシは何やってるんだろうな…
ちらりと寝息をたてるソラの顔を見る。苦しいのか、額にはうっすらと汗が滲んでいる。
「…………」
ふと、まるで連動するようにミユキの顔が浮かぶ…。
いつも変わらない笑顔…。
みんなで笑う楽しかった旅…。
「……なんなのよ…」
旅することで生まれた感情、思い。
今までのアタシにはなかった…今までのアタシが知らなかったこと。
──仲間の大切さ
アタシは知ってしまった。だからこそ、体が震える。
ソラが目を開けなかったらどうしよう…。
だからこそ、考えてしまう。
ミユキにももう会えないのかな…?
大切さを知ったから、その分それを失った時を考えると怖い…。
「なんでみんな…アタシから離れていくの…?」
拒絶ハ怖イ…
過去の記憶が脳裏に映し出される。
友だちの顔…周りの大人の顔…妹の顔
……父の顔…
……みんなアタシを拒んだ…いやな記憶…
──いっそ忘れてしまえれば、どれだけ楽だろう…
「………こ…は……?」
「…!」
はっとしてアタシは顔を上げる。
今、声がした…。
「……ここ…は?」
「ソラッ!?」
嬉しくて、嬉しくてアタシは思わずイスから立ち上がった。
相変わらず顔色は最悪だが、その二つの瞳は薄くだが、しっかりと開かれている。
目を覚ましてくれた…!
安堵と嬉しさにまた涙が溢れ出すが、アタシはなんとかそれをせき止める。みっともない姿をこいつなんかに見せたくない。
「……ようやくお目覚め?」
嫌味を込めて、いつもみたいに人をなめ切ったような態度で言う。
ここでソラからの呆れたようなため息が……
「……あんた…誰?」
「え」
…一方、その頃。
「それで…なぜ君がここにいるんだい?」
私は普段出さないような低い響き声で少女に問いかけた。
──事の発端は、ソラがシロを捜しに出て、私が引き続き町長の治療を受けていた時のこと…。
突然、シロが駆け込んで来たと思ったら真っ青な顔で叫んだ。
「ソラがっ…!ソラが!」
私はそんなシロの行動にただならぬものを感じ、話を聞く前にシロと外に飛び出した。後にセイナくんも続いた。
町長が静止の声をあげるが、聞いてもいられなかった。
シロに案内され、私たちがとある町の路地へ到着すると…まず飛び込んで来たのはソラくん。
青でもない赤でもない、真っ白い顔をしてなぜか地面に倒れており、状況判断にしばし時間を要した。
そして、次に目に入ったのは…涙や鼻水やらで顔を悔しそうにぐしゃぐしゃに歪めていた赤髪の少女…ミカくんだった。
なぜ彼女がこれほどまでに泣いているのか気になった。
「…そ、ソラ!?」
「これは……どういう…?」
ソラくんの方はセイナくんに任せて、私はミカくんに向き直る。
「……わ…ワタシが………私…守るって…」
彼女も異常事態のようだった。うまく言葉が紡げていない。
…私は考えた挙句、二人をひとまず町長の家へと連れ帰ることにした。
まずは彼らに起きた出来事について聞き出さなければなにも始まらない。
──そして現在、
ソラくんが別室で意識を取り戻すまでの間、だいぶ落ち着きを取り戻したミカくんにゆっくりと、始めから質問を重ねていた。
「ワタシは調査が終わったので、休息を取るためにこの町にやって来ました。…あなたたちがいるなんて知りもしませんでしたが……」
「で、なぜあの場所に?」
「…ソラ…に偶然出会い、人探しをしていると聞いたので何か手伝えないかと…」
「そうやってついて行くとあの路地についた、と?」
ゆっくりとミカくんは首を縦に振る。コーヒーカップを握る手が白く変色している…。
…一応、筋は通ってる……が、
「それで、結局そこで何があったんだ?」
「それは…………っ…」
まただ。
この質問になると必ず彼女は口をつぐむ。
なぜ?
…彼女は不可解な点が多すぎる。
あの神殿で、突然…それもソラくんが危機に瀕したときを狙ったかのように現れた。
それに、なにより…ミカくんはあまりにも……「あの子」に雰囲気が似すぎている。
「…どうかしましたか?」
私の意識がその声で現実へと引き戻される。
私はごまかすようにテーブルのカップへと手を伸ばす。
「いや、なんでもないよ」
「そうですか」
「……やっぱり、答えてくれないのかい?」
「……………」
また無言。
私はおもわずため息をつく。
ここまで黙秘されては話が進まない…。
困り果て、どうしたものかと首を捻る。
すると、ミカくんはおかしな行動を取り始めた。
周りの様子を伺うようにキョロキョロと目をせわしなく動かし、ある一点になると突如目を伏せ、薄く唇を噛んだ。
彼女視線が途絶えた場所…。
私は何と無くそこにある…正しくは「いる」存在に見当がついていた。
「……シロくん、君はソラくんを見つけた時、なにか見なかったか?」
自然に問いかけるとともに私は振り向いた。
…間違いなく、純白に染まる小さな猫…シロくんがそこにいた。
「今はその人の尋問中じゃないのぉ?」
「見ての通り埒が明かないからね、君の話も聞いておきたくて…」
シロくんは少し間をおいて、肩をすくめて見せた。
「…誰かがいたのは確かだよぉ、でも、詳しくは見てないやぁ」
「そう…か。」
それも仕方ない。仲間が倒れていたらまずそちらに目が行ってしまうものだ。
私は、念のため、言葉を続けた。
「…ああ、そうだ、シロくん、ついでにちょっとソラくんの様子を見て来てくれないかい?」
「いいよぉ。ちょうど気になってところだしねぇ」
刹那、シロくんは人の姿に変化すると、足早に部屋を去っていった。
「……これでいいんだろう?さ、安心して話してみなさい」
少女の口がゆっくり、だがしっかりと言葉を紡ぎ出した。
****************
淡い光を頼りになんとか砂で薄汚れた手紙を読み終える。
「『──…このことは他の誰にも知られるな』…か……なるほど…んで、後は俺に任せた、ってことか」
もう用がなくなった手紙をビリビリと破くと、ロウソクの火で一気に燃やす。
…めんどくさいが、仮にも命の恩人の頼み。断れるわけがない。
それを知っていて、あの人はこんな手紙をわざわざ送ってきたのだろう。
「にしても、一気にいろんなこと起こりすぎだろ……仲間の失踪とか記憶喪失とか…そりゃあ少しくらい混乱するわ」
先のことを考えると陰鬱になって仕方が無い。
ここはもう…これ以上詮索するのはやめた方が良さそうだな。
そうやって俺はスッパリと思考を切り捨てると、さっそく支度を開始した。
これから長い旅になる。必要なものはとにかく持っていこう。
俺はギシギシと軋むイスから立ち上がると、奥の通路を通って自室へと向かう。
「とは言っても、もう準備万端なんだけどな」
綺麗に片付いた部屋。そんな中で唯一存在感を誇る、壁に掛けられた大剣に手を伸ばす。
まさか本当にこれを使う時が来るとは思ってもいなかった…。
続いて、机の上にポツンと寂しく置いてあるバッグに手を伸ばす。
数十日も帰りがなかったため一応、心配なので準備をしておいたが……これまた、本当に必要になるとは思ってもいなかった。
荷物はこれで揃った。あとは…
「店じまいか……」
俺が出れば、しばらくの間は誰もここには残らない。故に、一旦ではあるが営業を停止しておかなければならない。
「…………」
少し感傷的になった。
長い間、ずっとこの店の中で生きてきて、いつの間にかここが我が家みたいなものになっていた。
ただただ感謝の言葉しかでない…。
…見納めだな。
「…よしっ!」
やる気十分。
準備万端。
思い残しもなし。
「行くか!」
薄暗い店の中を飛び出し、俺はスポットライトのように眩しく輝く光の中へ足を踏み込んだ…。
───それぞれの思いは交差し、物語を紡ぐ
世界を繰り返す者
孤独にもがき苦しむ者
優しすぎる故に絶望する者
物語に足を踏み入れる者
物語は転機を迎え、新たな幕開けを告げる…
ここで第一章「死者は生を求めた」は終了です!
感想や質問、アドバイス、評価、誤字指摘などお待ちしております(´・_・`)




