26. Words end.
人は容易く正義を語る
人は容易く平和を語る
しかし
それはただの言葉でしかなく拘束力など皆無
だから人は人を殺す
邪魔だから
必要ないから
****************
長い沈黙の中、町長がようやく戻り、手早くバールの怪我を治療し始める。
「傷は少ない…ただ、問題は内側やな」
「そうですか…」
町長が青黒くなった腕を触る度、バールは顔を歪めた。
「あんた確か、レイトスに住んどるんやろ?せやったら早う医者に見てもらい?」
「そうですね。そうします」
手早く処置を済ませる村長をぼーっと見つめる。
すると、そんな僕の様子に気づいたバールは優しい声で話しかけて来た。
「どうかしたの?」
「…あ、いえ!なんでも…」
疲労のせいだろうか…なんだかぼんやりしてしまう。僕は軽く頬を叩いて意識を明確にした。
…と、バールはふと何かを思い出したように辺りを見回していた。
「どうしたんですか?」
「いや…そういえば、シロくんはどこに行ったのかな、って?」
「言われてみれば…そうだな」
僕は、後ろのセイナに顔を向けた。
壁にうっかかったまま何かを考え込むように腕を組んでいる。
さっきからずっとこの体制でいる。
「なあ、セイナ。シロのやつがどこに行ったか知らないか?」
「………知らない。外にでもいるんじゃない?」
ぶっきらぼうにそう答えると、再び険しい顔に戻る。
セイナの態度が気に食わないが…まあ、まずはシロを探さなくては。
僕は暇だったし、仕方なく1人でシロを探しに行くことにした。
…とは言ってみたものの、シロの居場所なんて知りもしないので、聞き込みをしながら探して行くことにした。
幸い、町の人たちは僕たちを「救世主」と呼ぶほどに感謝しているようなので、簡単に協力してくれた。
が…実のところ、バジリスクを倒したのは僕らではなく、正しくはあの逆神会の少女…ミカなので、そう呼ばれることにはあまり気が進まない。
…にしても「救世主」って………ちょっとなぁ…
もしこれが、僕個人に向けての言葉だったなら、あまりの恥ずかしさで確実に悶絶していた自信がある。
べったりとする汗を拭いながら僕は何か知ってそうな人を探して道を曲がった。
…が、すぐになにかと僕の頭が衝突し、足がもつれ、倒れそうになった。
「……ってぇっ…!」
なんとか無様に倒れるのだけは防ぎ、頭をさする。
「…す、すみません……って、あなたは…」
こんなに暑いってのにやたら冷めた声がして、僕は顔を上げた。
紅が揺れる…。
「えっと…たしかミカ…だったっけ?」
「…そうです」
鋭い目が僕をジロリと見つめる。
…すっごく怖いんですケド…?
「えー…調べ物とやらは終わったのか?」
ミカとの沈黙は流石に耐えられそうにないので自分から話を振ることにした。
「まあ、一応」
「ふーん…で、この町には何のようだ?」
「…理由って必要?」
正直なところ、めんどくせぇ!こいつ!…と、思った。
屁理屈ばっか言いやがって、本当にめんどくさい!
「…はいはい、すみませんでした」
これ以上面倒なことにならないうちにここは素直に謝っておく。
そして、もう特に用もないので、僕は「じゃあ」と、ミカと別れようとした。
が…予想以上にミカはめんどくさかった…。
「……なんでついてくんの?」
なぜか、ミカは僕の横をピッタリとついて来た。
「ワタシ、今、暇」
「なぜにカタコト?!…って、そうじゃなくて……だからってなんでついてくるんだ?」
「…?…暇だから?」
「僕に聞くなよ」
他愛ないやりとり。
ミカみたいなやつでもこういうのにはのってくるんだな…。
意外に思い、バカみたいに拍子抜けした表情になってしまう。
…って、それよりシロ!シロを探さなきゃ!
ようやく本題を思い出した僕は、ミカには無視を決め込み、早速道を歩く町の人々に話を訊いていった。
「あの…すみません。白い猫か、茶髪の癖っ毛の少年見ませんでしたか?」
そうやって同じ質問を繰り返し訊いてまわっていると、
「ああ、それならあの路地の方に行くのを見たよ」
と、すぐにそんな言葉が返って来た。
「本当ですか?ありがとうごさいます!」
僕は小さく礼をして、急いで話の路地へ向かった。
「行方不明?」
未だについてくるミカは表情をわずかに暗くした。
「ああ。でもあいつの場合、いつものことだ」
短い会話を挟みつつ、僕らは速度を落としていく…。
路地は、そんなに狭いわけでもないので道の先の方までよく見通せた。
やっと、シロ見つけて休めるな…
そう顔に虚脱したような安堵の色を浮かべた時……
──停止した。
思考も…
動きも…
表情も…
言葉も…
全てが停止し、時間すら止まってしまったかのような感覚に陥る。
路地の中央…見知った顔が一つ……。
「………み…ミユキ……?」
白と赤のグラデーションが特徴的な髪と、黄金に揺れる瞳…。
「やっと会えた……ソラっ…!」
優しげな表情。
泣きそうに震える声。
全てが、僕の頭の中でピタリと当てはまる。
…ミユキだ。間違えようがない。ミユキがすぐそこにいる。
僕は考える間も無く駆けだしていた。
「なんでここに…?バジリスクに何処かに連れて行かれてたんだろ?今までどこに?」
疑問が質問となり、口から溢れ出る。
ミユキは言う。
「心配かけてごめんね?…でも、私がそんな簡単に捕まると思う?」
「思わない」
「清々しいほど即答だね。…ソラらしいや」
ああ…ミユキだ。
これがミユキだ。
改めて感じて、思った。そして、その言葉の響きがゆっくりと、僕の心を落ち着かせた。
「……よかった…」
心からの安堵を漏らす。
「………なんっ……で……?」
不意に背後のつぶやきが耳に届いた。
「なんで…?!わ…ワタシ……っ!」
ミカは、暗く濁った瞳を真っ直ぐミユキに向け、分からないという風に首を何度も小刻みに振っていた。
僕にはその反応が、どうにも理解することができなかった。
恐る恐る声をかけようと口を開こうとするが、すぐにミユキによってそれは制された。
「…私、ソラたちにどうしても早く伝えたいことがあるの」
小さな声だったが、ミユキの顔はただ真剣そのもの…。
だが同時に、まるで意図的にミカへ向いていた意識をねじ曲げたようにも感じた。
しかし…思惑通りか、そう思ったときにはすでに僕の意識はどうにもならず、ミカの異常な反応よりミユキの言う「伝えたいこと」に向いていた。
「伝えたいことって…?」
突然、胸の奥がざわめきだす。
なぜだろう……嫌な予感がした。
その予感は…当たった……当たってしまった…
「私ね、これからは1人で旅して行こうと思ってるの」
「は…?」
「止めたって無駄だよ?もう決めたんだ」
「なんで?」
「理由?…そうだなぁ……」
「それ」は信じられない言葉を口にした。
「…みんな邪魔なんだもん」
「それ」は…ミユキじゃない……。頭が拒絶しようとする。
「違う…」
仲間思いのミユキじゃない。
優しいミユキじゃない。
僕の知ってるミユキじゃない。
……ミユキじゃない…っ!
「違う…ちがうっ……!」
「違わないよ」
「違うっ!!」
耳を塞ぐ。聞きたくない。
「それ」は悲しげに目を細める。
桃色に染まる口がゆっくりと開く。
否定。
──裏切り…。
「違わない。…これが、人間なの」
───音もなく、頭の中の何かにスイッチが入った。
まるで錨をくくりつけられ、海に沈むような感覚と共に…僕の中の全てが黒一色に塗りつぶされていった……。
僕の「世界」が全てを拒絶した…。
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