25. After the silence.
神殿から出ると、僕らは疲労のためか一言も言葉を交わすことなくまっすぐ町へ戻った。
すると…
「救世主が戻ったぞおおぉぉっ!」
突然の野太い叫び声。街な入ったと同時に弾けるような拍手と歓声が上がり始めた。
……な…なんだこれ?
わけがわからず、町の入り口でつっ立っていると、町の人々が僕らを一瞬で囲んでしまった。
「あなた方が我々の呪いを解いてくださったのですね?」
「え…?」
「あのバジリスクを倒すとは…まさにあなた方は救世主です!」
「は…はぁ…?」
「どのように倒したのですか?お聞かせください!」
「いや……ですからそれは…」
バールの説得しようとする声が聞こえてくるが、町の人々は興奮していて聞く耳を持っていない。
…というか…救世主ってなに?人の呼び方としてどうなの?
僕らが対応できず、すっかり困り果てていると…
「ええ加減にせぇよ!!まだ町の修復作業残っとるやろうが!あんたらはさっさ働きぃ!」
鼓膜を震わせるほどの大きな怒声が飛んできた。
すると町の人々はその怒声が響いた途端、ピタリと動きを止めると、わらわらと名残惜しそうに去って行った。
後に残ったのは僕らと、見知らぬ女性ただ一人。
「すまんのぉ、疲れとるところにあない騒がしゅうして」
「い…いえ、ほんま助かりました!」
関西弁が実に特徴的だ…。
特徴的すぎて、僕もつられて関西弁になってもうたやないの…。
……おっと…
…というか、それ以前にこの人、誰?
「町長!無事でしたか!」
まるで僕の疑問に応えるようにそう言って、バールが前に進み出た。
なるほど、この人は町長だったか。うん、なかなかに個性的な町長さんだな…。
「ん?…バール?!なんであんたがそこにおるん?」
「いやまぁ…いろいろありまして」
「しかもそないな怪我までして…」
町長はバールの頭から足の先までを眺め、顔をしかめた。
バールが吹っ飛ばされた時の映像が頭の中に鮮明に浮かび、罪悪感から僕は俯くことしかできなかった。
「早う手当せなあかんな…とりあえずついて来ぃ!……後ろのあんたらもや!」
突然のご指摘に僕は思わず飛び上がった。
なんだか悪い気もしたが、その有無を言わさぬ物言いに遠慮は不要だと感じ、僕やセイナたちは黙ってついて行くことにした。
町の中心付近の唯一大きな建物…町長の家らしい建物の一室に連れてこられると、「ほな、ここで待っとき」と町長は包帯を探しに出てしまった。
……重い沈黙が流れた。
「あのさ…」
意外にも、口を開いたのはセイナだった。
しかも、その内容は謝罪…。
「ごめん…ミユキ見つけられなくて」
さすがの僕も驚いて、ぽかんとだらしない表情をしてしまった。
「………なによ、その顔」
「あ…す、すまん!つい…」
あっという間にいつもの不機嫌そうなセイナに戻った。
やっぱりこいつはこうでなくては…どうも落ち着かない。
「別にお前は悪くないだろ。そもそも全ての原因は…言ってしまえば1人で行動なんかしたミユキの方だし…お前が気負うことはなにもないだろ」
「…………うん……」
セイナはそれ以降黙ってしまった。
セイナもセイナで考えることがあるのだろう。あまり口を突っ込まない方がいいか…。
思い、僕はバールへと視線を移した。
「ところで、バールさん。聞きたいことがあるんだけど…いいか?」
「うん?なんだい?」
濡れたタオルで額を拭きながらバールは顔をこちらに向けた。
僕は何気無く問いを口にした。
「逆神会の本拠地とかってどこにあるかわかるか?」
「…!!い、今なんて!?」
途端、バールはひどく取り乱し、手にしていたタオルを床に落とした。
「いや、だから逆神会の本拠地はどこにあんのかなって…」
「まさか…あそこに加わる気なのかい?」
ずいっとバールの顔が答えを急かすように迫った。その表情は化石のように青く強ばっている…。
僕は予想外の反応におずおずと
「別に加わるとかそういう気はないけど…?」
「本当かい?」
「はい。めんどくさそうだし」
「そうか…」
なにやら安心したように息を吐くと、バールはゆっくりともとの場所に戻った。
なんであんな必死だったのだろう…?
逆神会になにかあるのか?
疑問ばかりが生まれるが、こればかりはなんだか訊いてはいけないような気がして、僕はなんとか思いとどまった。
「逆神会なら神に関する有力な情報がたくさんあるかな、って思ったんだ」
念のためわけを話す。バールはこれに対しては無言だったが、なんとなく納得したようなのはわかった。
再び沈黙……。
僕はこの間に今までのことをまとめてみようと考え出した。
神のこと。
ミユキのこと。
逆神会のこと。
これからの旅、または敵のこと。
…考えなければならないことが多すぎてうまくまとめられず、僕は深く、長く息を吐いた。
それにしても、本当にミユキは一体どこへ行ってしまったのだろう…。
──思うだけで答えは返って来ないことぐらい僕でも知っていた。
****************
笑っていた。
「フフフッ・・・」
妖しく笑い、「あの時」のことを思い浮かべてはまた笑みを深くして笑った。
「もうこれで邪魔は入らない…」
手に握っていたものへと視線を落とす…。
それは、先の赤い真っ白な髪の毛。
『あなたの企みを知った以上、見逃すわけにはない…!』
正義感ぶったあの言葉も…
『あなた、可哀想なんだね…』
哀れむような目も…
『彼は……私を救ってくれたから…』
嬉しそうにはに噛む顔も…
そして…
『あなた…が…神だったの…?!』
驚きと悲しみに満ちた表情を
───全て…ワタシが消した。
つくづく思う。
人とは弱く脆いと…。
心臓を刃で貫かれた程度であっけなく死んでしまう。
可笑しなことだ。
ワタシに似せて創ったのに、こんなにもワタシとは似ても似つかぬほどに弱い。
「フフフッ…彼が「始まり」になるまでもう少し…」
つぶやき、神はひっそりと嗤った…。
物陰の気配には気付かずに、ただただ嗤った。
「そんなこと…ワタシが絶対にさせないっ…!」
声は鈴のような響きを持って、暗がりに響いた。
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