24. Crimson and white.
剣の柄を握るのは…真っ白なマントを羽織り、これまた真っ赤な髪をなびかせる少女だった。
赤と白の二色はミユキを連想させるが…彼女はミユキじゃない……となると、誰だ?
すると視線に気づいたのか、少女は僕を見るとじっと見返してきた。
…少女の黄金に輝く瞳はミユキのものと似ているが、明らかにそれは違うと感じた。…何よりその目はどこか魔物の眼のような鋭さを持っていた。
「あんたは…」
情けないことだが、そのあまりの眼光の鋭さに射すくめられ、少し上ずった口から声がこぼれ出した。
「あんたは誰だ…?」
少女はすうっと目を細めた。
「…名乗る義理がない」
「は?」
なんなんだこいつ…めっちゃ生意気なんだけど…?
冷ややかでまるで僕に興味がないかのような声に少しばかり苛立ちを覚える。初対面でこれはない、本気で…。
そんな眉を顰める僕をよそに、少女はちらりと僕の背後へと視線を移していた。
…そこには確か……バールがいた場所だ。
「ワタシのことよりあれを助けるのが先じゃない?」
「……!」
はっとした僕は…少女に言われて気づくなんてなんだか癪だが…ともあれ、バールを助けに駆け寄った。…念のため銃は手放さず、少女への警戒心は忘れない。
にしても…バールを「あれ」扱いするとか…失礼すぎるにもほどがある。恥をしれ!
「バールさん、大丈夫?」
「まあ……少々無理をしすぎたみたいだが、一応は大丈夫だ」
額から流れる血や青黒く変色している腕が見え、とても痛々しいがバールの笑顔は変わらず元気そうだった。
だからといって安心するにはまだ早いので、僕はとりあえず救い出そうと瓦礫を掻き分け、バールの体を自由にする。
「いやー、助かった!ありがとう、ソラくん」
「い、いえ…」
…あの少女に言われるまですっかり忘れていた、なんて…口が裂けても言えない…。
兎にも角にも、バールは無事だったのだ。そればかりは喜ぶべきことだ。
僕ひとまず安堵のため息をつく。…が、すぐに気を引き締めた。
──まだ問題が残っている。
再び少女へと視線を戻す。
少女はバジリスクに突き刺していた剣を抜き取ると、血を払いながらその背を降りてきていた。
本当にわずかだが、僕たちとの距離が縮まり、僕は緊張を強くした。
…問題なのは、この子が敵かどうか。
バジリスクから助けてもらったのは事実だが、さすがに名も知らぬ人間となると信用しきれない…。
「で、話は戻るが…あんたは誰だ?」
僕の質問に彼女は鼻で笑った。
「だから、話す義理がない」
……いちいちの行動がイラつく…!
…っと、いけない。冷静に対処しなければ。
「えー…っと、僕はソラ。君は?」
少しニュアンスを変えて再度問うてみた。すると、今度は驚くほどあっさりと答えた。
「ワタシは……ミカ」
ミカ…ということはやっぱりミユキではないか…
少しだけ、ほんの少しだけミユキと雰囲気が似ている気がしたのだが…やっぱりただの勘違いだったようだ。
僕が疑問が一つ減り、少しスッキリした気分でいると、バールがミカの姿を見て訊いた。
「そのマント……君はクリミナルの者なのか?」
…くりみなる?…KURIMINARU?
……なんだそれ?
聞きなれない言葉に僕は首を傾げた。
「…まあ、そう」
妙な間が気になるが、ともあれこいつはその「くりみなる」ってとこの人らしい。
「…すまん、話を遮って悪いが…くりみなるって何だ?」
聞かずにはいられず、バールに助けを求めるように尋ねた。
バールは苦笑しながらも丁寧に説明してくれた。
くりみなる…正しくは「逆神会」。
これは簡単に言ってしまうと反乱軍のようなものらしい。死を迎えた人間をこの世界へ連れ込むような神の身勝手な行動により悲しみや苦しみを味わった…そんな人たちが集まり作られたとのことだ。
「でも、なんでその逆神会の人がこんなところに?」
「神の捜索のため。…当ては外れたけど」
それは、ここには神はいないということ……つまり、僕らはまだ戦わなくてはならないということ…。
なんだよ…それ。
唇を強く噛む。…そんな時、まるで見計らったかのようなタイミングで
「ソラ、バールさん!」
と、青い顔をしたセイナが広間に入ってきた。後ろには人の姿になったシロが続く。
セイナは入ってきた途端、バジリスクの死体を見て唖然とし、ますます顔を青白くして僕らのそばへ寄ってきた。
「あ、あれ…あんたが殺ったの…?」
「いや、こいつが」
ミカの方を指差し、言うと、セイナは目を丸くした。
「……この人、誰?」
「名前はミカ。逆神会のやつらしい」
「……へ、へー…!くりみなるねぇ…」
反応からして「逆神会」を知らないようだ。…面倒だが、後で教えてやるとしよう。それより今は…
「それで、ミユキはどうだった?」
ミユキの安否が先だ。
すると、セイナは困ったように顔を歪め、口ごもった。
……いなかった…のか。
きっとそうなのだろう…。セイナの顔色からなんとなく察しはついた。
僕の顔がよほど暗かったのか、バールが明るくつとめて僕の肩を叩いた。
「もう一度皆で探してみよう。きっと見つかるよ、ね?」
「……………」
「…君は、見なかったかい?」
質問は、ミカに向けたものだった。
…しかし、ミカは静かに首を振って答えた。
「ここで人を見たのはお前たちだけ」
「そうか…」
明らかにバールの声が暗さを帯びた。バールも本当は心配でたまらないのだろう…。
…きっと、ミユキはここにはいない。それはたぶん確実だと思う。
だとしたら、だ。
──ミユキは一体どこへ行ってしまったのだろう…?
たしかにシロはミユキがバジリスクとここへ来るのを見て…
ふと、思考を止める。
いや…実際は「ミユキがバジリスクと何処かへ行く」のを見たと言っていた。
要するに…
「たぶん、ここにはミユキはいない…だから一先ず街に戻ろう」
僕の言葉にバールたちは騒然とした。
「なぜ?」
バールが端的に訊いてきた。が、僕にはあいにく、皆を納得させられるような回答は持ち合わせていない。
だから僕は
「…えっと……なんとなく」
と答えるしかなかった。
「はぁ?あんたバカにしてんの?」
「いや、してねーよ!でも…何と言えばいいのか…」
「あんたねぇ…!」
「まぁ、でも、傷の治療も早くしておきたいし、ここは一度ソラ君の言うことを聞こうじゃないか」
ありがたいことにバールが説得をしてくれ、セイナもあからさまに不満気だが反論はしてこなくなった。
まあ、主に怪我してるのはバールだけなので、セイナも聞かざるをえないのだろう。
「さて、じゃあ僕たちは行くけど…あんたはどうするんだ?」
ひとまず神殿を出ることになり、僕はミカに問いかけた。
ついてくるならそれはそれで、まあ、構わないが…
「まだ調べたいことがある」
いやぁ〜、まさかの即答とは、恐れ入ったよ。しかもぶっきらぼうな物言い。
…大丈夫、僕はいたって冷静だ。怒ったりなんてしないぜ!
「あっそ」
なので、こちらもぶっきらぼうに返し、僕はさっさと神殿の出口への通路へ歩いて行った。
うん、いたって冷静。
…僕はそんな子供染みたことをしているうちに見逃していた。
ミカが、僕らに憎しみがこもった視線を向けていたことに……。
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