23. Fight against terror.
今度こそ意志を固めた僕は「捨て身」をやめ、進路を少し右へずらした。
銃での近距離戦は圧倒的に不利。よって、僕は遠距離からの射撃へ移行することにしたのだ。
…これでは僕が援護するような形になってしまうが……そんなこと言ってられない。
バールも僕の意志を察してくれたらしく、わざとバジリスクの意識を自分に向けるようにそのまままっすぐ走った。
僕はある程度距離をとると、一旦足を止めて照準をバジリスクに合わせた。
小さなバジリスクには銃や剣による攻撃は効かなかったが…
試しにバジリスクの眉間や腹部、尾などを撃ってみる。
…が、やはり弾丸は一切の傷も負わせることができなかった。
僕はわずかに舌打ちを漏らす。
バールも大剣を振るい、斬撃を繰り返すが、どれも皮膚の上を滑るばかり。
「無駄ナ足掻キダナ…」
落胆したような低い唸り声が響き、バジリスクの尾がゆらりと動く。
……と共にさっきまで視界にいたはずのバールの姿が突然消え、代わりに向かいの方の瓦礫が崩れた。
瞬時に視線を向ける。
──粉々になった瓦礫の中に…赤い血の塊を吐き出すバールの姿があった…。
「マタシテモ「石眼」ヲ使ワズ終ワリソウダナ…」
「………っ!!?」
バールは瓦礫が邪魔をして動きがとれなくなっているようだった。
僕は引き金を引き続け、バジリスクの動きを封じている間にバールの元へ駆けようと足を動かした。
…が、
「君は……っ…前だけ……見て、戦ぇ………っ!!」
苦しそうだが、強い意思のこもった声に、僕はぴたりと動きを止めた。
…その言葉は…とても重く感じた。
僕はしばし逡巡したが、バールの言葉に従い、できるだけバールへ攻撃の手が及ばぬように意識を再びバジリスクへと向けた。
「愚カダナ」
バジリスクは言う。
「死ノ恐怖ヲ知リナガラ、死ヲ望ムトハ…」
「死ぬかどうかはやってみないと分からないだろ?」
「…ソレハ、ドウダロウナ」
──瞬間、バジリスクの尾が目前まで迫ってきた。
僕はかろうじて反応すると、近くにあった柱を盾にするように後ろへ、後ろへと飛びのき、紙一重で何とか逃れることができた。
顔を上げると、今まで僕が立っていた地面は抉れ、柱は粉塵をまいて崩れさっていた。
……危なかった…まさか、島に住んでいたときにミユキと積んだ戦闘経験がここで役に立とうとは…
思って、ふと思い出した。
そういえば、セイナたちの方は大丈夫なのだろうか…?
他人の心配をしている暇なんて無いのは百も承知なのだが…どうにも気になってしまった。
もしミユキを無事見つけられていたならば安心なのだが……とりあえず、この広場にはいないのでまだマシか…。
簡単にそう結論づけて頭から離し、改めてバジリスクへと思考を切り替える。
魔女との戦いの時も…まあ、その時は僕は気を失っていたが、なんとかミユキが弱点を見つけだし倒した。
今回だってきっと…!
引き金を引く手は休めることなく、必死に考えを巡らせる。
……考えろ…弱点は必ずあるはずだ!きっと何か…
思慮に思慮を重ねる…そんな時、不意に先ほどのバジリスクの言葉が頭に蘇る。
『マタシテモ「石眼」ヲ使ワズ終ワリソウダナ・・・』
…石眼とは、おそらく背にある瞳のことだろうが…それよりも気になることがあった。
………「またしても」……?
僕らの前にここに来た者たちは全て瞳を使わず殺したってことか?
どうやって…?
……いや、正確にはそこは問題じゃない…問題なのは…
なんで自分を殺そうとする者たちには瞳は使わないのに、罪のない町の人々にはあんな数を石にするほど瞳を使っているのかということ…。
使いたくない理由でもあるのだろうか…?
…そこまで思考したところで、尾が再び伸びてきたので後方に大きく飛び、逃れる。
すると、バジリスクは煽るように「クックック」と笑い
「逃ゲテバカリデハ、ツマランゾ」
「………………」
確かにバジリスクの言う通り、このまま逃げ続けるばかりではただ体力を消耗するだけだ。
…………やるしかないか……
僕は一か八か賭に出てみることにした。
「なら、僕を石にでもして動きを封じればいいじゃないか」
…バールが息をのむ声が聞こえた。
僕は生唾を飲み込みながら、バジリスクの反応を伺った。
…すると、バジリスクの動きが一瞬やんだ。
そして落ち着き払った、それでいてどこか楽しんでいるような声で呟きを漏らした。
「ナルホド、ナカナカ二聡明ナ奴ダ」
「やっぱり…」
推測は正しかったようだ。
バジリスクの一連の反応でそれは確信に変わった。
なぜ、戦いに「瞳」を使わなかったのか。
その問いの答え。それは…
「……その「石眼」が弱点だな」
…バジリスクの眼がギラリと妖しい光を帯びた。
「…ソウダ」
バジリスクは驚くほどあっさりと認めた。が、その眼からは未だ自信のようなものが感じ取れる。
「シカシ、ダカラドウシタ?」
「……!?」
「弱点ナド大シタ問題デハナイ。…知ラレタノナラバ殺セバイイダケダ」
ぞっ…と背筋に冷たいものが走る。
──殺す。
それをこうも簡単に口にし、しかもそれを実行することに対する自信と迷いの無さ。
…恐怖。
その一言を理解すると共に身体が震えを帯び始めた。
…怖い。
でも、戦わなきゃ…みんなのために……せめてミユキがここに来るまでは…!
唇をかみしめて恐怖を押し込み、僕はリロードして構えた。
「………やってみろ」
せめてもの虚勢。
勇気を振り絞るための強い一言。
バジリスクはわずかに笑みを浮かべた。
「…ナルホド……確カニ面白イ奴ダ」
バジリスクは言うと同時に、今度は首をもたげて牙を剥きだした。
バジリスクの牙の先は毒々しい紫に染まり、一目でそれに毒があるのだとわかった。
…ここに来て毒牙かよ……
あくまでも石眼を使う気はないらしい。まあ、その方が弱点を突かれる可能性も低くなるので当たり前か…。
ともあれ、またマズい状況になったのに変わりはない。
どうしようか…再び思考をフル回転させようとした
……その時…
「………グッ…」
突如、バジリスクは苦痛に顔をゆがめたかと思うと、もたげた首を下ろし、強い衝撃音とともにぐったりと地に伏した。
「……こ、これは…」
どういうことだ?と目を疑う思いでバジリスクを見つめる。
…その眼は白く濁り、生気を感じなくなっていた。
死んだ…のか…?
なんで…?
疑問に思って、すぐに思い当たることがあるのに気づいた。
「ミユキ…?」
僕は急いでバジリスクの背へと視線を移した。
──血が吹き出す石眼の中心に突き刺さる細く美しい剣。
そして、その柄を握る……
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