22. Form of fellow.
神殿内はしんと静まり返り、むしろ気味が悪かった。
通路の所々には大きな鏡が取り付けられており、静かすぎるのもあってそこに自分が映る度にちょっとビビってしまう。
バクバクと鼓動を刻む心臓の音が頭に響いて、吐きそうになる…。
「…バジリスクはたぶん最奥の部屋にいる。気を引き締めてね」
バールの声が神殿中に嫌に響く。
──ずいぶんと長く続いたように思えた通路も終わりが見えた。
暗い通路の先には淡い光と「シューシュー…」と空気の漏れるような不気味な音。
「……うっ…このにおい……っ!」
シロが顔をしかめ、腕で口元を押さえる。
シロの反応からしてもこの先にバジリスクがいるんだという確信がもてた。
それに伴ってか、体が妙に固くなる…。
これは…緊張……?
「……行くぞ」
わざと自分を奮い立たせ、苦悩と恐怖を振り払うように言うと「部屋」の中へと踏み込んだ。
「ヨウヤク来タカ…欲深キ人間共ヨ……」
「……っ!…バジリスク…」
揺れる炎に照らされぬらりと不気味にうごめく長い身体、僕らをじっと見据える魔物特有の鋭い眼光…。
大きな広間の中、奥の祭壇を背にしたバジリスクは、想像のものよりはるかに大きかった。怪鳥であるサーモンと同じか、それ以上はある。
「…なっ…なんでっ…?!」
「どういうことだ…!」
すると、バジリスクを見てからシロとバールの反応が明らかに変わった。どちらも同様に顔から血の気が引き、真っ青になっている。
「……?」
「ど、どうしたのよアンタたち…?」
僕の代わりにセイナが問いを口にすると、「クックックッ…」と笑い声のような声がした。……バジリスクの方からだ…。
「無知トハ愚カダナ、人間」
「…どういうことだよ」
「ソノママノ意味ダ」
「……ソラくん…」
バジリスクと代わるようにしてバールが口を開いた。その目はなぜか目の前のバジリスクより、周りを警戒しているようだった。
「私が見たことあるバジリスクは少なくともあれほどの大きさはなかった…つまり、あれはバジリスクの王的存在…そして……」
ふと多数の気配を感じ、視線を広場中に巡らせる。
「…バジリスクは……一匹ではない!」
祭壇の奥から、広場に通ずるあらゆる通路から…何百、何千という蛇の大群が現れた。大きさは様々だが、どれも目の前の「王」ほどの大きさはない。しかし、やっかいなことにそれらは皆、背に瞳を持っていた。
──バジリスクの背にある瞳と目を合わせれば、石になってしまう…。
バールのノートに書いてあったものの一つにそんなものがあった。
これは…目隠しでもしないと戦えないんじゃね…?チートどころか最強じゃないですか…?
「何よそれ!最悪!これじゃあ作戦が…!」
セイナの嘆きにしばらく考え込むが、僕はすぐにみんなに向けて口を開いた。
「とりあえず、やれるだけのことはやろう!どのみちレイトスでの情報が正しければ、僕たちの武器はシロしかないんだ」
「その通りだ。それに、無理だったときは…一応、策を練ってある」
「……ほ、本当ぉ?」
不安げな声。
バールの策が一体どんなものなのかはわからない、だが少なくともシロとセイナの不安を拭うことはできたようだ。
これで、あとはミユキを探して…
そこで、ふとバジリスク王が口を開いた。長い舌がチロチロと見え隠れする。
「貴様等ノ目的ハ何ダ?」
「……目的…?」
突然の質問に僕は言葉を繰り返すしかできなかった。
…なぜ、今そんなことを聞くんだ?
バジリスク王は続けた。
「生ヲ求メテカ?単ニ殺シノ感覚ニ囚ワレタダケカ?…ソレトモ……仲間ノ為カ?」
…静寂が広場中を支配する。
バジリスクたちは皆、僕たちの反応を見逃さぬためかじっと視線を逸らさず動かない。
…僕は、一拍置いて答えた。
「確かに、生き返るためにここに来たのも事実だ。…でも、ミユキを…仲間を助けるためにここに来たというのもまた事実だ」
バジリスク王は目を細めた。
「……ヤハリ欲深イナ、人間ハ………コレバカリハ奴ニ賛同スル」
その言葉を皮切りにか、小さなバジリスクたちが一斉に僕らめがけて動き出した。
「…っ!」
突然すぎて反応がわずかに遅れたが、すぐに銃を取り出し、近い物から順に打ち落としていった。…が、弾丸は全て弾かれ、倒すどころか傷一つつけることができない…。やはり情報通り、あらゆる攻撃を受け付けないのか……時間稼ぎがいいところだ。
セイナとバールも各自武器を取りだし、シロを守るようにして立った。
「シロ頼んだ!」
「…わ、わかったぁ!」
ぽんっ、と音をたててシロは素早く雄鶏の姿に変化した。
途端、バジリスクたちの動きが一瞬止まった。
「ホゥ……考エタナ」
感嘆の吐息を上げるが、バジリスク王の声にはまだ余裕が感じられた。
脅威であるはずの雄鶏が目の前にいるのに、どうしてそんな余裕でいられるんだ…?
そんな疑問を浮かべた瞬間、シロは声高に鳴いた。
刹那、周りを囲んでいたバジリスクたちに異変が起きた。身をくねらせ、耳をつんざくような悲鳴を上げたり、狂ったように自分の頭を地面に打ちつけたり、仲間同士牙を剥いて傷つけ合ったり……まるでそれは地獄絵図のようだった…。
「……っシロ、もうやめてっ!お願い!!」
耐えられずセイナは悲痛の叫びを上げるが、シロの耳には届かなかったようで止まることはなかった。
そうこうしている内にもバジリスクたちはもがき苦しみ、動かなくなるものが増えていった。
…そしてついにはバジリスク王を除いての全てが生き絶えた。
「……まさか、これほどまでとは…」
死体の山を見つめながら、少し掠れた声がバールの口から漏れる。…その唇はわずかながら震えているように見えた。
「……でも、あいつは…」
射抜くようにしてバジリスク王を睨む。こいつだけ…最も倒さなければならないこいつだけが苦しむこともなく、平然とそこに立っていた。
「……も…もう一度鳴いてみるぅ」
「いや、やめとけ。たぶん無駄だ」
シロの行動を手で制して僕は言った。無駄に体力を削らない方がいい。
「わかったぁ…」
なんとなくシロも察しがついていたようで、すんなりと引き下がった。
僕も口では冷静に言うが、心中では尋常じゃないくらい焦りまくっている。
…まさか、最後の頼みが効かないとは思いもしなかった。加えて、ミユキのこともあって焦っていたので他の案は何も考えていない…
……マズい…非常にマズい。
ここは一旦引かなければ…!
「…逃ガシハセンゾ」
思考をまるで読んでいたかのようにバジリスクの王は低い声が響き、背筋に嫌な汗が流れる。
……このままでは確実に殺される…!
「セイナ、バール、シロ!」
意を決して僕は叫んだ。
「各自で判断して動け!」
今の僕には、誰かを守れる自信なんてない。自分だけで精一杯だ…
僕は叫ぶと、すぐにバジリスクへ向かって駆けだした。
……せめてシロやセイナが逃げられるような時間稼ぎになればいいのだが…。
シロはもともと戦えるような力もないし、セイナはセイナで武器は毒針しかなく、バジリスクと戦えるとはとても思えなかった。
──だからせめて、逃げ延びてほしいと思ったのだ。
しかし…
「ソラくん!援護するよ!」
いつの間にか横に並ぶようにして走っていたバールが睨みつけるような真剣な目をして言った。
「え…でも、セイナたちは…?」
「彼女たちにはミユキくんを探すように言っておいたよ」
「逃がす」という考えはもとより無いように聞こえた。
僕は…思わず笑みがこぼれた。
「そうか…」
そうだ……仲間だ。
これが仲間なんだ。
「ソラくんは前だけ見て戦え!」
「ああ!」
バールの言葉で背中を押される。
僕はもう、迷いを全て消した。
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