20. My fellow.
…少年の世界は狭い
だからこそ、その「世界」を何よりも優先し、依存する
……では、その「世界」が自分を裏切るようなことをすれば…どうなる?
きっと絶望することだろう…
その「世界」に…人間に……
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作戦のだいたいの内容を説明し終わるとバールは面食らったようにぽかんと口を開けていた。
「……今の話…本当かい?」
心底驚いたようだった。
「化け猫って……ほ…本当なのかい?」
なぜシロが化け猫ということにそこまで驚くのかイマイチ分からないが、事実は事実なのでうなずく。
するとバールは「うわあああ、しまったああぁ!」となにやら悔しそうに叫び始めた。
ちょっとキャラがぶれてるが…大丈夫なのか…?
「ちょ…バールさん!?」
「あ!す…すまない!つい……」
セイナの声で現状を思い出したようで、すぐに声のボリュームは下がった。
「…いやね、化け猫っていうのはこの世界では非常に珍しい魔物なんだよ!昔はよくペットとして飼われていたんだけど、それが原因で最近では数も減ってしまってね。いわゆる絶滅危惧種だね……私ですら一度も見たことないんだよ」
「…そんなすごい奴だったのか…あいつ…!?」
「…そんなすごい奴だったの…あいつ…!?」
僕らは思わぬことを知ることとなり、衝撃を受けた…
「なんで衝撃受けてんだよぉ!」
「うぉっ!し…シロ?!いつの間にっ?」
知らぬ間に人間バージョンのシロが背後に立っていたので、僕は思わずイスから派手な音を立てて立ち上がった。
…マジでびっくりした……!
「…人が必死になってここまで来たってのにぃ……なんだよその反応ぅ…」
「……す…すまん。……でも、お前人じゃないだろ…?」
「そこはツッコむなよぉ…」
「す…すまん…?」
「疑問系!?」
「……バールさん…化け猫ってみんなこんななんですか…?」
「…………………」
セイナの質問にバールは黙るしかなかったようだった…。
せっかくの緊張感のある空気がシロのせいであっという間に崩されたが……ひとまず、冷静になろう…。
───改めて、シロを加えた話し合いを再開した。
「というわけで、これがそのシロです」
「「これ」ってぇ……ひどくなぁい?」
「ひどくない」
僕が簡単に紹介すると、バールは待ちきれんとばかりに目を輝かせた。
「君がシロくん!!本当に化け猫なのかい…?!」
「えぇ…まぁ……そうですけどぉ……?」
好奇の視線を気持ち悪いとばかりに顔をしかめるが、バールはものともせず実に嬉しそうに微笑んだ。
「ふむ、なるほどね……人にも化けれるのか……」
「はぁ?……何なのこの人…」
だんだんとシロの顔が曇り始めたので、僕は仕方なく話題を変えることにした。
…それは、もっとも気になっていたこと……。
「話を逸らして悪いが…シロ、ミユキと会わなかったか?」
シロは無事に帰ってきたものの、ミユキの姿だけが見あたらない……それがどうしても気になってしまっていたのだ。
すると、質問に対するシロの反応は…
「み……ミユキ…は……えっとぉ………」
……明らかに変だった。
「会ったんだな?」
「それは…そのぉ……」
「何があったんだ?」
「えっとぉ……」
「ちょっと、ソラ?」
「ソラくん…っ!」
「正直に答えろっ!!」
煮えきらない態度に、怒りが抑えきれないほどに膨れ上がり、ついに爆発した。セイナの声もバールの声も届かない、目の前が真っ赤に染まり出す…。
顔を真っ青にして震えるシロはひどく邪魔な存在に見えて、苛立たせてくる……。
──なんでミユキじゃなくてお前がいる?
ミユキハドコダ…?!
…しかし、返ってきたのは予想だにしない答えだった。
「ミユキはぁ……ば…バジリスクとどっかに行ったんだよぉ…」
……は…?
「どういうことだよ……それ…」
「わかんないよぉ…怖くて近づけなかったんだからぁ……」
…ミユキが連れて行かれた……?
なんで?
どうして?
「ソラくん、落ち着きなさい!下手に勘ぐれば深みにはまるぞ!」
バールが何か叫んでいる。
…落ち着く?…そっか、落ち着かなきゃ…。
今、僕にできる精一杯のことをするんだ…
…ナンノタメ?
ミユキを…守れるようになるため……
「……行こう…」
「? ソラくん?」
「ソラ…?」
振り返らない。
前だけを見つめる。
扉の方を向き、僕は踏み出す。
「バジリスクのもとへ…行こう…!」
僕が考えてた作戦に必要なシロもいる。待つ必要もない。
ならば、先へ進むまでだ…!
しかし、そんな僕の一歩はすぐに遮られた。目の前に立ちはだかるバールを僕は睨みつける。
「待ちなさい。君は、まだ彼に作戦を伝えてないのに行くというのかい?」
「行きながら伝えればいい」
「それに、君はまだ冷静になれていないだろう!?」
「十分に冷静だよ」
「………馬鹿じゃないの…?」
「…は?」
そんな呟きがバールではない者の口から発せられた。
その声の主は…セイナだった。
今まで成り行きをただ見守るばかりだったのに、なんで今になって口を挟むのだ…?黙ってろよ…!
「…馬鹿?僕が?なんで?」
ぐちゃぐちゃと胸に渦巻く「気持ち」につき動かされ、考えるより先に言葉を繰り返し訊いていた。
セイナはまるでそんな僕を見下しているような冷笑を浮かべ、
「馬鹿でしょ?そんな風に一人で突っ走って、何になるっていうのよ?」
「何って…お前だってミユキを早く助けたいだろ!?」
「ええ、そりゃあもちろん。…でも、少なくともあんたみたいにミユキに縛られてない」
セイナの言うことがだんだんと理解しがたくなってくる…。「何が言いたいんだ?」と次の言葉を待つことしかできない自分が情けない…。
「…アンタ、アタシたちのことちゃんと見てる?」
「………………」
突然のわけの分からない質問。
…見ているだろ。今話してんだから…
そう答えたかった……答えるはずだった。
でも、不思議と口は開けなかった。
セイナは大きなため息をつくと、わずかに怒りを含ませた声を放った。
「もっと周りを見ろっ!!アタシたちは一応、アンタの仲間なのよ!?」
…仲間。
仲間…?
『お前は仲間に入れてやんねぇよ!』
ふと脳裏に蘇る言葉に胸が締め付けられる。
───これは、昔の記憶…?
…そうだ…僕はいつもそうだった。
仲間に入れてもらえず、いつも一人…
仲間なんて持ったことがないし、持とうとも思わなかった。
だからだろうか…?
セイナの言葉はひどく胸に響いた。
…そっか、そうなんだ……
仲間……なのか…
黒く歪んでいた心がクリアになっていく……目の前の景色が色をつけていく…。
「……すまなかった…」
僕はセイナ、バール、シロを一人一人見つめ、頭を下げた。
とにかくみんなに申し訳なくて、ついさっきまでの自分勝手な考えをしていた自分を恥じた。
「セイナの言うとおりだ……僕は…本当に馬鹿だ!」
「……ソラくん」
「ミユキに依存して…お前たちから逃げて…」
少しずつ変わっていく、そんな決意をしたばかり。
しかし、それではダメなのだ。
変わっていくためにも「仲間」を信じなければならない。
そんなことに今更気づく。
僕は…本当にただの馬鹿じゃないか……
「…もう一度訊く……アンタ、アタシたちのことちゃんと見てる?」
セイナは静かに問いかけてきた。
…僕はゆっくりと顔を上げ、それに正直な答えをぶつける。
「いいや、見ていなかった」
「仲間」という存在がこんな近くにいるなんて…信じられなくて、そんな大事なことから目をそらしていた…。
いいかげんケジメをつけるんだ…
「…だからこそ、僕はこれからを変える」
セイナの瞳がわずかに揺れる…。
僕は、3人の仲間に向けてもう一度頭を下げた。
「だから…どうか、僕を助けてくれないか?」
───人知れず笑う者にその時の僕は気づくことができなかった……。
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