18. The boy greets a turming point.
僕とミユキが地下室に入るとバールがすぐに扉を閉めた。
扉には緑色の石で複雑な模様が施されており、これがミユキたちの言っていた魔物避けの装飾だとすぐに分かった。
「まあ、ここでしばらく静かにしていれば大丈夫だろう」
バールはようやく安心したようにほっと息をついた。それに連動するように僕らも胸をなで下ろす。
「よかった……みんな無事で…!」
ミユキは心の底から安心したようにやわらかく微笑んだ。
……なんというか…間近で見ると照れるというか…破壊力があるというか……
……って、何を考えてんだ僕…。
脇道に逸れかかった思考を頭を強く振って引き戻す。
……が…
「…あれ……シロは…?」
唐突に空気を引き裂くようにセイナの呟き声が響いた。
はっとして僕は部屋中を見回すと、どこにも白い影すら見あたらないことに気づいた。
「……シロとは…あの小さな猫のことかい?」
「…はい」
バールも思い出したようで、申し訳なさそうに目を伏せた。
「……すまない…私が気づいていれば……」
…暗に「諦めろ」と言っている気がして、少し…ほんの少しムカついた。
「……バールさんが謝ることじゃないですよ」
「そうよ!誰が悪いとかそういう問題じゃない!」
セイナにしてはめずらしくバールを庇うように…というより、この場にいる全員に言い聞かせるように言った。
…その言葉に、わずかだが重荷が消えたように気が楽になった気がした…。
「………みんな…」
覚悟を決めたようにミユキが顔を上げた。
まさか…とミユキが言おうとしていることが頭に浮かび、警報音が鳴り響く。
───言わせたらダメだ…!
「私が探しに行ってくる」
僕がほぼ反射的に伸ばした手はわずかに遅く、ミユキは誰の言葉も待つことなく扉の向こうへと消えていってしまった…。
「待て!ミユキっ!!」
「待つのは君だ、ソラくん!」
追いかけようと扉へのばした手が寸前でバールに掴まれる。
ふりほどこうとするが思った異常に力が強く、引きはがすことはできなかった。
「何で止める?!ミユキがそのバジリスクに殺されてもいいのか!?」
ミユキが「バジリスク」の名を聞いたときの目の色でわかった。
ミユキですらも恐れる魔物なのだ。それなのに……そんなリスクの高い状況なのにミユキはすすんで行ってしまった。
──それも、仲間を助けるために…。
たったそれだけために……。
「君は賢い子だ」
バールは僕の肩に手を置き、目を見据えるようにして言った。
「…だからこそ、ミユキくんは迷うことなく君にここを任せて行けた」
「……?」
「いいかい?仲間が心配なのはよく分かる。しかし、時には冷静になることも必要なんだよ?」
やけにゆったりとした動きでバールは端に並べられていたイスを持ってきて座った。
「ミユキくんは絶対に戻ってくる。だから、私たちは私たちにできることをまずやるんだ」
「……そうね、アタシもこの人と同意見。…ガラじゃないけど、ミユキを信じるしかないわ」
セイナも同じようにイスを持ってくると、バールの近くに座った。
「言っとくけど、アタシはアンタと違って別にミユキのこと心配とかしてないからね!」
「心配してたんだね」
「うっ…うるさい!………です…」
……ああ…僕はなんてガキなんだろう…
…疎外感のような、孤独感のような複雑な気持ち…
セイナとバールはミユキのことを信頼しているからこそ自分のやるべきことがしっかり見えてる。
………それに対して、僕は何だ?
ミユキのことを心配ばかりして、そのくせいざという時は何もできない。
信頼もクソもない…僕はただミユキに依存してるだけじゃないか……。
「さあ、ソラくんも座って。一緒にバジリスクを倒す方法でも考えよう……ね?」
バールが手招きをする。
「……わかった。やる」
───いつだったか、僕は前にもこんなことを言った覚えがある。
もう思い出せないけど、その時はいったいどんな気持ちで言ったんだろう…?
…たぶんだけど、何も考えずに「なんとなく」で言ったんだと思う。
「まるで島を出るときのミユキみたいな短絡的な考え。」
…以前までの僕だったらこう言ってバカにしたと思う。
……でも今はそれでいいと思う。
ごちゃごちゃ何かを考えているよりもただミユキを信じて、今できることに全力を尽くす。
それが、今の僕にできる精一杯のこと。
…少し前までは考えること自体やめていたのに……おかしな話だ…。
でも…それでも少しずつでも変わっていくんだ……。
そしていつかは、今度こそミユキを守れるように…仲間を守れるようになるんだ…!
決意の固まった僕は二人の側へイスを持っていき、座った。
「いい顔だな」
バールはにっこりと笑顔を浮かべた。……とても優しい笑顔。
「そう?アタシには情けなくて泣きそうな顔にしか見えないんだけど?」
「……お前って空気読むとかできないのか…?」
「そりゃあそうでしょ!だってそれがアタシの個性だもん」
「はいはい、個性ね…」
「何よ、その目は!」
「ハハハッ!君たちは仲がいいんだな」
「「どこが!!?」」
声がそろってしまい、僕らはまたムッとなって睨みあうが、すぐにバカバカしくなって自然と笑顔を取り戻した。
「さて、ようやく元気を取り戻したところで、話を進めさせてもらうよ?」
「ああ」
「さっさとしましょ」
バールの一言で僕らはすぐに顔を引き締めた。
少し笑えて心の中がスッキリした。
「…おそらくだが、君たちはレイトスでこの町についての記事を読んでやって来たのだろう?」
「……! そ…そのとおりだ。何で分かった?」
「この町に来る者といったらそういう輩ばかりだったからね。…ともあれそれなら話は早い。なんとなく気がついているだろうが、その記事に記されている魔物こそあのバジリスクだ」
……やっぱりそうか。
何十人もの人が犠牲になり、なおも傷一つつけられない巨大にして強力な魔物…なんとなく予想はついていたが、その正体こそがバジリスクなのだ。
……あの石にされた人々もバジリスクの仕業なのだろう。
「はぁ…やっぱりそうなのね……」
改めて告げられ、セイナも深くため息をつく。
「でも…なんで記事には「魔物」としか書いてないんだ?バールさんはその正体がバジリスクだって分かってんだろ?……報告してないのか?」
「んー……まあ、時間がなくてね…」
情けない笑みを浮かべながら頭をかく。髪がいっそう乱れてみっともない…。
「私だって、情報屋として鮮度の高い情報を提供したいからね、できるだけ急いでレイトスに戻ろうと思ってたんだけど…どうにも町の人たちが心配で離れられなくてね」
最近になってバジリスクはつねに町を徘徊するようになり、町の人々はいつも怯え、引きこもる生活を送っていたらしい。加えて砂漠という極限の環境の中だ。逃げ出そうとするものは何人もいた。
…もちろん、犠牲者は数知れない・・・。
バールはそんな状況を放って置くことができず、町から離れられないらしい。
…わからないでもない……。
僕が同じ状況にいてもたぶん同じ。見て見ぬフリなどできない…と思う。
「でもま…結局的によかったんじゃない?こうしてアタシたちに情報提供ができるんだし」
「そうだ、その通り。おかげで十分な情報を集めることができたしね」
嬉しげに言いながらバールはジャケットの内ポケットから何かを取り出した。
「これが役に立つ日がやっと来たんだね…」
そう言って僕らの目の前に差し出されたのは、すっかり黄ばんで汚れた手のひらサイズのノートだった。
…バールは一層顔を引き締めて告げた。
「…この中にバジリスクの弱点と思われることを記してある」
まさかの発言に僕らは言葉を失った。
こんなすぐに「弱点」という大事な情報が明らかになるとは思ってもみなかった。
「そんなことまでわかってるのに…なんで実行しようとしなかったの?」
セイナの疑問はもっともだった。
「んー…それはね……」
バールは困ったように言い淀み、すぐに思い切ったように答えた。
「じつは、その弱点に問題があってね……この町ではとても実行できないようなものなんだよ」
「??」
僕は意味がよく分からず首をひねった。
バールはそんな反応を見て「読んでみれば分かるよ」と穏やかに言った。
…僕はためらいながらも恐る恐るノートを受け取ると、慎重に中を調べた。
1ページ1ページごとに走り書きが書かれ、正直見にくいが……
「……これって…!!」
その内容に僕は驚きを隠せなかった。
「なになに?」
僕の反応にセイナも首を伸ばしてのぞき込む。
「……これ、アイツがいれば…!」
「………あー…そういうことね」
読み終わるとセイナも納得したようにうなずいた。バールは何のことやらわからず「どういうことだい?」と僕らの顔を見比べていた。
僕は自信を込めて言った。
「これ、僕らならできるかもしれない…!」
バールは僕のやけに自信にあふれた言葉に目をしばたかせた
「それは…どういうことだい?」
「まあ、細かいことはまだ未定だけど…とにかく、大筋の作戦はあの「シロ」にかかっています」
シロの正体を未だに知らないバールは、イマイチよく分からないようなので、確認をかねて僕は作戦の内容を語りだした…。
……全てはミユキが無事にシロを見つけだし、無事に合流できるかどうかにかかっている…
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