17. King of desert is creeing.
───ミゲン大陸北部、マリターボ。
砂漠の中にひっそりと存在する小さな町。先ほどまでの近代的な町並みとは裏腹に石壁の家々や枯れた草木など…寂れた町並みが続いていた。
「ここがマリターボ……」
「ボロっちい場所ね」
「セイナちゃん、そこは言わないいであげよう…?」
新たな町にやって来たものの、そんな町の寂れ具合に、僕らは町の入り口で立ち止まったまま、どうしても中に入る気にはなれなかった。
だって…想像以上に……その…寂れてたんだよ……。
「はあぁ……マジでぇ疲れたぁ……」
憔悴しきった声。
シロは僕らの横ですっかり座り込んでしまっていた。
あの後、サーモンの時と同じことにならぬよう用心しながらシロはサーモンほどではないが本当に大きい鳥に変化してくれた。
それはそれは大きい………スズメだった…。
いつもは小さくて愛らしいのだが、大きくなると……もはや恐怖でしかなかった…。
改めて、既定のサイズだからこその良さがしみじみとわかった。
……ともあれ僕らを背に乗せ、ここまで連れてきてくれたのは事実で、感謝しなければならない。
「いやー本当に鳥になって僕らを運んでくれるとは思わなかった。さすが化け猫だなー」
完全な棒読み。
「バカにしてるよねぇ……絶対」
「とーんでもない!本当にすごいと思うぞ。…なぁ、セイナ」
突然話を振られて不意をつかれたセイナはびくっと肩を飛び上がらせた。
「ななななっ!なんでアタシぃ?!」
「え、だってシロに乗ってる間、一番テンション高かったじゃんか」
「……いやだって、空飛んだんだから普通テンションあがるでしょ」
同意を求められるが、残念ながら僕とミユキはすでにサーモンで経験済みなので今更テンションがあがることはない。
「いいから早くお前の感想言えよ。減るもんじゃないし」
ともあれ、早くしてくれないとこれ以上シロからの敵意がたっぷりこもった視線に耐えられる自信がない。一刻の猶予も許されないぞ…セイナ…。
少し間をおくと、やっとセイナは口を開いた。
「………しょ…正直、あんなの初めてだったし……楽しかったって言うか…その……」
「……なんで照れてんのぉ?」
「う…うるさい!」
セイナはいつも変なところで照れたりする…。まあ子供らしくていいと思う。ミユキもそういうところが可愛いとはしゃいでいたし。
「ねぇ、ソラ」
ふと、そのミユキがセイナの様子を伺いながら、小声で話しかけてきた。セイナたちは言い争いをするばかりで気づいている様子はない。
…というか、なにを心配してるんだ?
「どうした?」
疑問を抑えつつミユキの言葉を待つ。
「……ソラ、セイナと仲良いよね」
「は?」
実に変な質問だった。
「いや、だって……いつもセイナと楽しそうだし………」
言われて、僕はちょっと想像してみた。
僕とセイナが…二人で子どもみたいに楽しそうにはしゃぐすが…た………
…背筋に寒気が……!
「やめろよ気持ち悪い…っ!セイナと仲いいとか…想像するだけで寒気がする…」
「え……?」
「セイナってどちらかというと苦手なタイプだし…マジで無理!仲良くするならミユキの方が断然いい!」
対応するのはミユキの方がなれているのでまだマシだ。
そういう意味を込めて言うと
「………………」
ミユキは、なぜか目を見開いたまま沈黙してしまった。
レイトスで体調を崩したこともあり、ミユキの変な反応にさすがに僕も心配になる。…直射日光浴びすぎたのだろうか。
「……ミユキ?」
「はっ!……ご、ごめん!ぼーっとしてた。」
「………?」
「そそそ、それよりもうそろそろ日差しが暑くなってきたし町に入ろう!!」
暑さのせいかフードの下のミユキの顔も赤くなってきてるし、確かにそうした方がいいようだ。
僕はセイナたちを止めるために二人に割って入った。
「…………ソラってホント怖い………」
ミユキのつぶやきは喧噪に巻き込まれ、僕の耳までは届かなかった。
すぐにセイナたちもなんとか引き連れ町の中に入ったものの、人が全く見あたらない状況が続いた。
「……もしかして、もう魔物が…?」
「どうだろう……もしかしたらどこかに避難してるのかもしれないね」
「…………そうだな……」
「ってかぁ、この町嫌なにおいがするんだけどぉ……正直、くさい…」
「お前は黙ってろ」
シロを黙らせつつ、内心は心配になりながら歩いていると、目の前に宿屋らしき建物を見つけた。
「おぉっ!やぁっと休めるぅ!」
シロはとたんに元気を取り戻し、宿へとあっという間に入っていった。
疲れた、と言ってた割にはずいぶん元気だな……。だがまあ、さっきまでの心配も取り越し苦労だったようでよかった…。
安堵しつつ、僕らも続くようにして中へ入った。
「おいおい………何だよ……これ……」
宿の中には人がいた。
……しかし、それらは皆、人と言うのが正しいのか…不思議なことに全てが「石」になった状態だった。
恐怖に顔を歪める者、驚きに目を見開く者…あらゆる者が皆、僕たちの立つ店の入り口を見つめ動きを止めていた。
そのせいか、彼らの悲痛の叫びが僕たちに向けられているみたいに思えて、不気味だった…。
「これってぇ……」
先に入ったシロもこの光景には呆気にとられていた。
「もしかして…これも魔物の仕業……とか?」
「かもね………人を石にするのなら…メデューサとかかも」
「魔女の次はメデューサとか……勘弁してよ……」
セイナはふらふらとヘたり込むと深くため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだってのに……。
「あのなぁ…そういうのを覚悟したからここにいるんだろうが」
「わかってるわよ!!…けど………生き返る前に死んじゃ意味ないじゃん……」
「ん?なんだって?」
「なんでもないっ!!」
最後の方がよく聞こえなかったが、とりあえずそれなりの覚悟はあるみたいで安心した。
「………うぅっ……」
店内を警戒しつつ見回していると、うめき声が聞こえた気がした。
「ひいぃっ!」
「後はよろしくぅっ!!」
シロはわずかに裏返った声でそう言うと、猫に変化し、逃げるように同じく怯えているセイナの背に隠れた。
……頼りにならない二人だ…
「私が見てくるよ」
一方、ミユキはそんな二人に薄く笑いながら前へ進み出た。相変わらず迷いがない。シロよりよっぽど男らしい。
……いやまぁ…正直なところ、シロの性別はよくわかってないが…
「ソラはセイナちゃんたちの側にいて?」
「……はいはい…」
面倒だが、もしもの時のため僕は仕方なく言うことを聞いた。世話がかかるったらありゃしない。
ミユキは短剣を片手に素早くうめき声のした場所に近づくと、石になった人の陰に隠れ、ゆっくりと様子をうかがうように首を伸ばした。
すると……
「…バールさん!?」
ミユキは予想外にはずんだ声をあげた。
それに、聞いたこともない名前……バールって誰だ?
知らない人の名がミユキの口から出て、なぜか胸の奥がむかむかした。
「……ん?…おお!おお!ミユキくんじゃないか!」
これまた聞き覚えのない声が店の奥から聞こえる。
…低い男の声だ。
ますます胸の奥が騒がしくなる。
「元気にしてたか?」
「もちろん!バールさんも……相変わらずみたいね…」
「…まあな」
よく通る野太い笑い声が木霊す…。ちょうど影に隠れているのでバールとやらの姿がよく見えない。
……やばい…僕たち、完全に置いてけぼりにされてる…
僕がそんな危機感を覚えていると、バールは話題を変えるように質問した。
「……それにしても、ミユキくんはこんなところで何してるんだ?」
「それは……って…ああっ!!そうだった!…バールさん、来て!」
「どうしたんだ?一体……?」
木張りの床の軋む音と共にミユキがその人を連れて現れた。
ようやくご対〜面。
白髪交じりの髪をボサボサと乱した短身の男。彼がバールのようだ。
「ん?君たちは?」
眠たそうに半開きの目をこすりながらバールは訊いてきた。
「えっと…僕らは……」
「私の仲間!」
僕も言いかけたが、それを遮ってミユキが胸を張って紹介する。
…いつも僕の言葉を遮って…そんなに楽しいか、この野郎。
「片目隠した黒髪がソラで、怖がってる金髪がセイナ、それでその後ろに隠れてる白い猫がシロ!」
「へぇー!それはまた……」
感心したように声を漏らすと、バールは僕らの側にやって来て、丁寧に頭を下げた。
「初めまして。レイトスで情報屋というものを営んでいるバールです。以後お見知り置きを」
「あ、はい…こちらこそ初めまして…」
なんだか改まって挨拶をされると逆に緊張してしまい、僕はぎこちなく頭を下げた。
「は…初めまして……」
「…にゃあ~」
僕に続いてセイナたちまで頭を下げる。
バールは朗らかな笑みを浮かべながら二人にもちゃんと顔を向けて「初めまして」と改めて言った。
実に律儀な人である。
「いやー、それにしてもミユキくんがこんなに仲間を持ったとは…嬉しい限りだ」
「まるで私は友達のいない可哀想な子みたいな言い方だね…」
「それで?君たちから見てミユキくんはどうだい?」
バールは自然に話を逸らすように僕らに再度顔を向けた。
「どう……って?」
「やさしいとか面倒とか…なんかあるでしょう?」
「えっと…」
ずいずいとバールは顔を近づけてくる。
そんなに期待されても、むしろ言いにくいんだけど……?
…ただ…本心を言うと、ミユキは超めんどくさいです。
「えっと…ミユキは……」
なんと応えるべきか悩み、言葉を濁す。
───その瞬間だった。
「フシャアアァッ!!」
シロが突然、宿の外を警戒するように毛を逆立て始めた。
「どうしたのシロ!?」
セイナが落ち着かせようと手を伸ばすが、シロはそれを避けて宿の奥へと駆けていってしまった。
「……どうしたんだろう、シロ…」
「………まさか…っ!」
バールは顔を真っ青にすると慌てて立ち上がり、宿の窓から外へと耳を傾けた。
その行動の意味がわからず、僕らはその様子を黙って見つめた。
すると、しばらくして「シューシュー」という不気味な音が聞こえてきた。
「何?…この音……」
セイナの声は不安げに響いた。
僕は嫌な予感を感じ、バールへ視線を向けて次の言葉を待った。
…バールは青白くなった顔を歪め、言った。
「バジリスクだっ…………!!」
「……っ!!」
その名を聞いた途端、ミユキの目つきが変わった。その目には警戒の色が濃く見られた。
「……どこかに安全な場所とか、隠れられる場所とかってある?」
「ここの地下室は扉に魔物避けの装飾がされているから、そこなら少しはマシだろう」
「わかった!」
たんたんと話が進んでいく。
僕が状況が上手く飲め込めずたじろいでいると、ミユキは急かすように僕の手を引いてきた。
「…ソラたち行こう!」
……状況は全くと言っていいほど理解できていないが、とにかくヤバい状況なのは空気で分かった。
「セイナちゃんも早く!」
「う、うん…!」
ミユキの勢いに気圧されてセイナはうなずくと、慌てて立ち上がった。
僕もミユキに手を引かれ、そのまま宿の地下室へと向かう。
───背後からは何かが這うような不気味な音が絶えず聞こえていた。
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