16. Preparation start.
いろいろ買う物があるが、ぼくはまずブーツを買うことにした。
魔女の一件もあってすっかりボロくなってしまっているので早々に買い換えたいと思っていたのだ。
「そうだね、じゃあまずは靴屋に行こう」
ミユキにそのことを話すと、快く聞き入れてくれた。
靴屋の場所はミユキも知らなかったらしく、途中の店で道を教えてもらいながら向かった。
カフェからしばらく歩いた西大通りの一角に目的の靴屋はあった。
この町での一番大きい靴屋がここで、多くの人が利用しているらしい。
「いらっしゃいませ!」
店に入ると店員の元気な声が耳に響いた。さすが人気店なだけある。
「本日はどのような靴をお求めで?」
「あ、えっと……このブーツに似たものはありますか?」
店員の勢いに気圧されながらもミユキは僕のブーツを見せて訊いた。
店員はしばらく考え込むと、すぐにはっとなって「少しそちらでお待ち下さい」と言うや否や店の奥のショウウィンドウへと消えていった。僕らは店員に言われた通り、指示されたイスに座って待った。
しばらくして店員が大きな箱を持って戻ってきた。もちろん、完璧な営業スマイルも忘れずに。
「お待たせしました。こちらでよろしいでしょうか?」
僕たちに見えるように箱から取り出すと、確認をかねて訊いてきた。
店員が見せてきたのは僕の履いていた物とほぼ同じに見える型のロングブーツだった。長さは膝上辺りまであり、色も藍色というどちらかというと珍しい靴なのだが……さすが人気店、品ぞろえはばっちりというわけだ。
「こちらは魔物の皮から作られた特殊なもので、破れにくく、鎧としても使われています」
「マジか!買う!…買っていいよな!?」
金銭の管理はミユキが受け持っているので一応確認する。ミユキはもちろんと言うようにうなずく。
「ソラが欲しいならいいよ?」
「よっしゃっ!ありがと、ミユキ!!」
「…………う…うん」
赤面するミユキをよそに僕は店員に値段を聞き、意外に安かったのであっさりと購入を決めた。
支払いをするミユキの手つきがやたらぎこちないのだが……理由は不明だった。
「遅い!」
宿に着くとセイナが仁王立ちで待っていた。
「ごめんねセイナちゃん!」
「ちょっ……待って……!」
おぼつかない足取りながらミユキの後を追い、やっとのことでセイナとも合流する。
「ふーっ!つがれだぁー・・・」
長い間歩き続けたせいで、足がクタクタだ……。
荷物を置くと、倒れるようにしてその場に座り込んだ。
「どんだけハードな買い物だったのよ……」
「いやぁ、やっぱ都会はいいよね!いっぱいお店があって!」
満足げにミユキは「それ」が入った袋を抱きしめる。
「…………なんとなく察しはついたわ……お気の毒さま…」
僕に同情の眼差しを向けながらセイナは言った。
……ちくしょう!そんな目でぼくを見るなぁっ!
「……!そういえば……なぁ、見てくれよセイナ!」
だいぶ足が楽になってきた頃、僕はようやく思い出したように立ち上がった。
「ん?なによ」
嬉しそうな僕の態度にいぶかしげに顔をしかめる。僕はそれでも自慢げに新品のブーツを見せつけた。
「このブーツいいだろっ?」
「は?………ああ、買い換えたの?」
「おう!」
「……へー、前のと同じやつがあったのね」
「ああ!ミユキが買っていいって言ってくれたんだぜ!」
「へぇー、ミユキ太っ腹ね」
「まぁ安かったし、もともとソラのお金だったからね」
そう言われて、そういえば確かにそうだった、と気づく。今更だが喜んでいた自分がバカバカしくなってくる。
「それより、セイナちゃんの方はどうだった?」
「えっと…それがね…」
言いにくそうに言葉を濁す。
「? どうしたの?」
「……えっと…ね、まず砂漠を渡る方法に関しては……収穫ゼロ…」
「まじか」
「やっぱり歩くしかないかな……」
ミユキの体が心配だが、方法がないのならそうするしかないだろう。
続けてセイナは口を開く。
「んで、シロの方は……ね…」
「何買ったの?」
興味津々でミユキはセイナを見つめる。
しかし、セイナはまたしても「えーっと」や「そのー」などと言って言葉を濁すばかり。
今気づいたが、セイナの周りには買い物袋などの荷物が全く見あたらない。
以上の事からして………まさかとは思うが……いやな予感がする……。
「実は……何も買わなかった、っていうか…必要なかったっていうか……」
「んーと……つまりどういうこと?」
ミユキが首を傾げると、セイナはおもむろに髪からピンをはずすと、突然何もないところへ放った。
ピンは刹那、大きさを変え、気づいたときには…
「どぉも」
「………えっと……あれ?シロ……?」
そこには見知らぬ人間が立っていた。癖のある茶髪に猫目の背の低い少年……。
「そぉーですよぉ、あなたたちのシロでぇす!」
間延びした声。
彼はシロの変化した姿らしいが……なんか…。
「チャラいな……」
「そうよね」
「うん…否定はできないかも……」
僕たちの気持ちは一緒のようだ。
「なんだよぉ!せっかく変化したのにぃ……ひどいよぉミユキさぁん!」
「? ……なぜにミユキだけ…?」
気のせいだろうか?僕に向けられるシロの視線がやたら冷たいような気がしてならない。
「…………ああ、いたんだぁ……アンタ」
「は?」
「………萎えるわぁ……」
「は?は?」
「……し、シロちゃん?」
「なぁにぃ?ミユキさん」
僕との時とは違い、ミユキに対しては優しげな声になった。
………あきらかに僕は嫌われているようだ……。
そりゃあ前に、嫌がるくらい撫でまくって、スリスリしまくったけど…もしかしなくてもそれが原因だろうか…?
「安心して。……アタシもだから…」
やけに暗いトーンのセイナの声が横から聞こえた。
うん、励ましのつもりだろうが全然響かん。
「えっと……人間にもなれたんだね」
言葉を選ぶようにミユキは訊く。
「うん、見たことあるものならぁ大きさとか関係なく何でも化けれるからねぇ」
「!!」
「へー!すごいね!」
「まぁねぇ!」
シロは誇らしげに胸を張る。
そうか……こいつは利用できるかもな……。
「顔、怖っ…」
気づくと、セイナが横から僕の顔をのぞき込んではおびえていた。
「ん?……ああ、すまん。ちょっといいこと思いついてな」
「いいこと…?」
「まあ見てろって」
笑みを浮かべながら僕はさっそく頭に描いた言葉をそのままシロに向けて吐き出した。
「なあ、見たことあるものなら何にでも化けれるって本当か?」
「はぁ?ほんとぉに決まってんじゃん!」
「どうだかな……出任せかもしんねえし」
「なんだと……!」
シロの口調がだんだんと厳しくなってくる。
「えっと……ソラ?シロちゃん?」
「「ミユキ(さん)は黙ってて」」
「ううっ……はい…」
僕とシロに声をそろえて怒鳴られミユキはシュンと小さくなる。
おかげでシロ一人に集中できる。
「じゃあさシロ、そんなに言い切るんなら証明してくれよ」
「証明?」
「例えば…そうだな……大きな鳥とかになって僕らをマリターボまで乗せていくとかどうだ?」
「なっ!……ふ、ふざけるな!」
さすがにシロも動揺し、顔が青くなり始めた。
……ここで焦ってはだめだ。ゆっくり煽って……
「あーそう、やっぱり無理か。わかってたことだけど、出任せだもんな。仕方ねぇな……」
わざとらしく肩を落とし、シロの反応を盗み見る。
ほぉら、もう真っ赤だ。
「………ってやる…」
「ん?なんか言ったか?」
「やってやる!絶対に出任せじゃないことを証明してやる!!」
…任務完了。
予想通りシロはすっかり激昂し、「早く行くよ!」なんて言って町の外へと歩を進め始めた。
ただでさえ背の低い僕より小さい事からおそらく年下と推測したのだが・・間違い無かったようだ。証拠に気が短い。
「さぁ、行くか!」
晴れやかな笑顔を浮かべ、後ろの二人に言う。
「あんたはまじで敵にしたくないわ…」
「ソラ……怖い…」
なぜだろう…二人の僕に対する視線が妙に痛い……。
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