12. Identity of the white cat.
「何この子!すっごい可愛いい!」
「でしょでしょ?」
「…………」
うかつだった…。つい、急いでミユキのもとに帰ることに頭がいっぱいで猫のことを忘れていた…。
おかげでセイナは動物厳禁な病院にまでこっそり猫を連れてくる始末……。
「あのなぁ…病院に動物は……」
「そう言わず、ソラもほら!」
ミユキが猫を持ち上げ、僕の方へと差し出す。
「……………」
「可愛いよね?」
「……………………」
クリクリと大きく潤んだ瞳が目の前で僕を見つめ、「にゃあ~」と鳴き声をあげる。
……我慢の限界…。
「ぁ……………かぁ…………か……可愛いいいいいいぃぃぃぃっ!!」
僕は耐えきれず、猫を抱き上げた。
せっかくいままでセイナに知られぬようにずっと我慢してたというのに……だがまあ…いっか。モフモフできたし。
「ああ、くそう!可愛い!目とか潤ませやがって、可愛い声上げやがって!僕を殺す気かっ!でも可愛いから許すぞ、猫よ!」
「……え、ちょ…あんたどうし……」
「黙れ外道。こんな可愛い猫をリュックに詰め込むとかバカすぎるだろ!いっぺん死ね!」
「ええっ……」
セイナがオロオロと情けなくミユキを見る。ミユキは楽しげに笑って「動物とかに対してはいつもこうなの」と簡単に説明した。
いつもはキャラを守るために隠しているが、僕は動物がだああぁい好きだ。もふもふとかもう悩殺レベルに好き。動物たちに埋もれて死ねるなら喜んでなんでもする。
「ああぁぁ!毛並みもいいし肉球も柔らかい!最高じゃねぇか!!」
僕は猫をなでまくっては感動していた。島を出て以来、しばらく動物をさわってなかったからその反動だろう。
セイナも「ここまで変わるか…?」とあきれたように見てくるが、そんなのかまわない。
だってこの猫、それほどまでに可愛いんだ!可愛くて可愛くて……
「フシャアアアアァッ!!」
……可愛くて…痛い……
…結果として僕は猫に引っかかれた。そりゃあしつこいくらいに撫でまわしたら怒る。今になってようやくそんな当たり前のことに気がついた。
時すでに遅く、猫は逃げるように僕の手をすり抜けていき、ミユキの陰に隠れていた。
「あぁ……ねこぉ………」
「……あんた、ホントにソラ?」
猫かぶりのセイナには言われたくない……。
ともあれ、ようやく理性を取り戻した僕は今までの自分の行いを振り返ってみた。
…………うむ…一瞬で死にたくなった…。
「……………見なかったことにしとくわ…」
そんな気持ちを察してか、セイナはそう言ってくれた。あきらかに僕を見ないように目をそらしている件についてはつっこまないでおく。
「それよりさ、この子どうする?」
タイミングを見計らってか、ミユキが猫を抱き上げ言った。
「どうするって……そりゃあ危ないからこの町に置いていくしか……」
「え? 連れていかないの?」
どうやら連れていくことは前提のようだ…。
しかたなく僕は説得を始めた。
「いやいやいや!ダメだろ!もしかしたらこの先どこかで危険な目に遭うかも知れないんだぞ?」
「……うっ…たしかに……」
「大丈夫!」
顔が曇るセイナとは裏腹にミユキはやけに自信ありげだ。
「何を根拠に…」
僕が言うとミユキは勝利に満ちた表情を浮かべた。
「この子、ふつうの猫じゃないもん」
フツウノネコジャナイ?
………は?何が言いたいのかさっぱりだ。
「どういうこと?」
セイナも首を傾げる。
そんな僕らを見てミユキはますます嬉しそうに笑みを増し、説明を始めた。
「この子は人間で言うハーフみたいなもので、名前を「化け猫」。猫と魔物の混血で、姿は普通の猫だけどいろんなものに化けられる能力を持ってるの。特徴は真っ白な毛とこの長いしっぽ。だから見たときすぐにわかった」
…言われてみればしっぽが普通の猫より長い…ような……。
「…へー、すごい!詳しいのね」
感服したようにセイナが声を上げる。
僕も正直驚いた。確かに前々から魔物好きではあったが、ここまでとは…。
「まあね」
短く答え、猫…もとい「化け猫」の頭を優しく撫でる。しかし、僕はそいつを撫でるその手をつかみ、単刀直入に訊いた。
「……てことは、そいつは魔物か?」
猫じゃないなら話は別。魔物であるならなおさらこれ以上ここに置いておくわけにはいかない。
しかし、ミユキは落ち着いた声で言った。
「この子は違う。むしろ私たちの味方になってくれるはずだよ」
「本当に?」
「うん。化ける能力以外はほとんど猫だし、そもそもこの町の膜もくぐれたんだから」
「……確かにな」
セイナが「魔物を寄せ付けない特殊な膜」と言っていた事を思い出し、僕は素直に引き下がった。
「じゃあ連れていってもいい?」
少し間をおいてミユキが恐る恐る訊いてきた。まるでペットをねだる子供のようだな、なんて思いながら「ああ」とうなずいた。
瞬間ミユキとセイナは顔を輝かせ喜んだ。
「やったあああっ!」
「すごい!ミユキすごい!」
二人は嬉しさにはしゃぎ、さっそく化け猫に名前をつけ始めた。
……僕はというと騒ぎを聞きつけやってきた看護婦たちにこっぴどく怒られてしまった。
化け猫は二人が上手く隠したので見つからなかったが、騒いだのは事実なので素直にお叱りを受けた。
……まったく…散々だ…
ひとしきり怒られ、面会時間も過ぎてしまっていたので、僕とセイナはひとまず近くの宿へ向かった。もちろん化け猫も一緒だ。名前はミユキとセイナで悩んだあげくどうやら安易に「シロ」に決まったようだ。
……ミユキのネーミングセンスを考えるとまだマシなほうだろう。
「じゃあシロは私の部屋に連れていくからね!」
「はいはい」
僕が呆れつつ了承するとセイナはわずかに嬉しそうにほほえんだ。
なんだかんだ言って結局連れていくことになってしまったが、セイナが何気に喜んでるようなので許したかいがあったと思う。
僕らはそれぞれに部屋を取ると「おやすみ」と一言だけ言葉を交わし部屋へ入っていった。
ようやく一人になれて、僕はベッドに倒れ込むとため込んでいた息を吐いた。
……ミユキといい、セイナといい、旅を甘く見てるみたいだ。そんなことではいつか絶対痛い目見るに決まっている。明日きつく言ってやらなければ…。
…ふと気づく。
──不思議な気分。
ついさっきまではミユキがちょっかいを出してくる時以外は一人でいるのが当たり前で、誰かのことで悩むことなんてもってのほかで……だからこそ今の状況が信じられなくて…
とにかく不思議な気持ちだ。人はこんなにも変わるものなのだろうか?
そうやっていろいろ考えていると、いつの間にか僕の意識は暗闇へと落ちていた……。
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