11. The most new town.
僕はじっと病室のイスに座っていた。側にはミユキが横たわるベッドがある。
「ごめんね…心配かけて……」
申し訳なさそうな声。しかし先ほどとは違って少し元気がよく聞こえる。
「もういい。とりあえず寝てろ」
そういって僕は窓の外へと視線を移す。
僕らはひとまずミユキを町の「病院」へと連れてきた。
白い壁に赤い十字が特徴の建物で、昔どこかで見たような不思議な建物だった。
どこで見たのかは未だによくわかってないが…ともあれ、最先端の医療の技術があったおかげか、今ではミユキの顔色はすっかりよくなっていた。
しかし、念には念を。
結局、ああなった原因もわからなかったこともあり、とりあえず今日いっぱいはミユキを休ませることにしたのだ。
「…ねえ、そういえばセイナちゃんは?」
今更気づいたのかきょろきょろと病室内を見回し始めた。
「セイナは神がいそうな場所の情報収集中。この町にも詳しいからって一人で行きやがった」
「じゃあ私たちも早く……」
「だから、寝てろって言ってるだろうがっ」
「いてっ…!」
軽く頭をこづいて制止する。ミユキはわずかに顔をしかめると、ふてくされたようにそっぽむいた。
「だって、人数多いほうが早く情報も集まるし…」
「原因不明の病人がいたらますます手こずると思うぞ」
「病気とかじゃなくて大丈夫だし…」
「根拠がないな」
「……とにかく大丈夫だから…!」
「お前、気づいてるか?だんだん説得力なくなってきてるぞ」
「くううぅっ……!」
一つ一つ丁寧に切り替えしてやるとミユキはついに苦悶の表情を浮かべだした。少しだけいい気味だ。
ともあれ、さすがにこれ以上すると僕の良心が痛むのでここらできりあげるとする。
「とにかく、おまえは寝てろ。いいな?」
わざと睨みをきかせて言うとミユキは弱々しく「はい…」と答えた。素直でよろしい。
僕はイスから立つと病室を出た。
セイナの様子も気になってたし…この機会にちょっと町を散策しよう……。
レイトスは、最先端の町なだけあってやたら機械やらロボットがよく目についた。タイヤがないのにスルスルと道を進む車や人と会話をするロボット、太陽の光に負けじと明るい光を放つ電光板、見上げるほど高くそびえ立つ高層ビル、不思議な靴を履いて空を飛ぶ人々、壁という壁に映し出される映像。そして、なにより目を引くのが町の中央に建てられている巨大な機械仕掛けの塔。
「すげえなぁ……」
僕は自然とそちらへ足を向けていた。
近くに行けば行くほど塔の大きさが鮮明になり、ますます感嘆の声をあげる。
塔にはいくつもの窓や時計、機械が見られ…
ん?……時計…?
「ちょっ……待って!…痛い痛い痛いっ!痛いってばぁ!!」
ふとそのとき近くから見知った声がした。
「…セイナ?」
声を頼りに角を曲がり、薄暗い路地裏をのぞき込む。
やはりそこにはセイナがいた。しかし、様子がおかしい……。
リュックの中をのぞき込み何かしている。
……怪しすぎる…。
僕は思いきって声をかけた。
「おい、セイナ」
「ひっ…!?」
まるで化け物でも見るかのような目で……っていうか、それ以前にセイナの顔の方が傷だらけでひどい…。何かに引っかかれたような細い傷跡が何本も…
「せ、セイナ!?ど、どうしたんだそれ!」
「ううっ…猫がぁ…」
まるで子どもみたいに涙を浮かべながらセイナはリュックの中を指さした。いぶかしみながら見てみると、確かにそこには真っ白な猫がいた。
不覚にも可愛いと思ってしまった…。
「この猫…魔女の館にいたのを見つけてこっそり連れてきてたんだけど……」
そういえば砂漠を歩いている時、セイナのリュックが不自然に動いた気がしたが…こいつが入ってたからだったのか。
「この町に着いてからなぜか反抗的になって…」
「で引っかかれた…と」
「そう…」
こっくりとうなずく。
…いつもこのぐらい素直だといいんだけどな……
ため息をつきつつ僕は猫の側にしゃがみ、そっとゆっくり手を差し出した。すると猫は警戒の色をみせつつも僕の手のにおいをかぐ。首元に首輪があるのでこの猫はどうやら元飼い猫のようだ。
差し出していた手で脅かさないようにゆっくりと喉元をなでてやる。猫は気持ちよさそうに目を閉じるとゴロゴロと可愛くのどを鳴らす。
もう警戒の色は消えていた。
「よしよし、いい子だ」
「…すごいわね…見直した」
横から驚いたようなセイナの声が聞こえた。
「あのな…だいたいはおまえが悪いんだぞ?」
「え?なんでよ」
すっかりセイナは元の調子に戻っていた。
「そりゃあリュックに入れて砂漠を歩く、なんてことしたら猫も怒るだろ?」
「うーん…確かにそうかもね」
いや、事実猫は怒ったから顔をひっかいたりしたんだろうけど……どうやら反省はしてるようなのでそこらへんは黙っておこう。
「じゃあ、これからはしないようにする」
「ああ」
……?…あれ?
……聞き間違いだろうか?
「…………これからは…ってどういう意味だ…?」
恐々、何となく予想がつく答えを聞く。
セイナは「当たり前」とでも言うように答えた。
「この子も旅に連れていくのよ」
…僕の周りにはどうしてこうも理解不能な事ばかりする奴しかいないんだろう…。不思議でかなわない。
「あのなぁ…」
何とか説得しようと口を開いたそのときだった。
突如町中に鐘の音が響き、空から太陽が消えた。
そして黄金に輝く月が成り代わるように空に現れ、町中は暗やみに包まれた。
…夜だ。
「あーあ、もうそんな時間か」
「な…なんで…?」
突然の夜の訪れに対する驚きと初めての星空の美しさに対する感動とでうまく言葉が出ない。
この世界には時間がない、よって夜も存在しない。それは変えようのない事実のはずだった。
…なのに今、信じられないが僕の目の前で夜が訪れた。
「……あ、そっか。この町初めてだったね」
セイナは納得したように説明を始めた。
「この町は技術の発展とともに独自に「時間」を定めてるの。人としての営みがなんちゃらとか理由があるらしいけど、アタシは知らない」
「だ、だとしても、なんで空が?!」
「えっと…この町は魔物を寄せ付けない特殊な膜……町に入るとき見たでしょ?あれにおおわれているの。でも膜は光を通さず、おかげで空が見えなくなってしまった、そこである人が「膜に空を映し出そう!」と言って………ああなった」
「最後すごい説明不足な気がするけど…とりあえずはわかった」
ようはこの町には「時間」があり、加えてこの「夜の空」は偽物だということだ。これでさきほど見た塔の時計にも説明がつく。
…にしてもすごい。
町とは言ってもかなりの大きさはあり、そのぶん膜の大きさももちろん大きい。なのにも関わらず映像は膜の隅々までしっかりと映し出されている。
さすが最先端の町……!
「ねえ、それより早くミユキのところ戻らない?」
セイナの一言ではっとなる。
無意識にだが心配に耐えられず病院を飛び出すミユキの姿が目に浮かんだ。
…やばい…早く戻らないとミユキが暴走する……
「今すぐ戻ろう」
僕は一言言うとくるっと向きを変え、病院へと走り出した。
途中何か忘れてるような気がしたが、そんなことにはかまっていられなかった。
せっかくの記憶を失って初めての夜だったのに、堪能するのはまた後でになりそうだ……。
僕は小さく肩を落とした。
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