09. Out of forest.
……さっきのは聞き間違いだったことにしようと決めた僕は指に絆創膏を巻き、再び裁縫に集中する。
ついでだったので、ミユキも僕がブーツを直している間に簡単に今までの経緯を語ってくれた。
「それでね、いろいろ試しててわかったんだ。魔法は口にしないと発動しないってね!」
身振り手振りでミユキが懸命に説明する。僕は針に気を配りながら適当に聞く。
先ほど刺してしまった指は絆創膏を貼ってはいるもののまだズキズキと痛んでいる。
「すごいでしょ?私」
「ああ、そうだな」
適当にうなずく。
「で、試しに私が「舌切っちゃうぞ」って脅しをかけたら急に大人しくなったの、まるで子犬みたいに!」
「へー」
やたら話が長いので後半はほとんど裁縫のほうに意識を集中させながら聞いていた。
内容を要約すると、魔女の魔法は舌が根源だったということだ。
たったそれだけ。
それだけを伝えるためだけにミユキはかなり時間を要した。まさに時間の無駄だ。
「………だからちょうどいいし、ついでにソラの傷も治させようと思ったの」
ようやく聞きたかった情報が出てきだした。僕は縫い目を整えながらわずかに顔を上げた。
「んで、治してもらったと?」
「うん、そう」
うなずくミユキの後ろでイスに座るセイナが付け足す。
「優しいことに、アタシのかすり傷とかもそのとき一緒に治してくれたのよ」
「やさしいっ!?」
何そのサービス精神…
実は魔女って結構優しい奴だったのか…?
「……でもまあ…その後は…」
セイナはそれ以上続きは言わず、ただミユキへと目配せした。
顔がわずかに青く見えた。
「…魔女は…殺したよ」
ミユキは複雑な表情だったがはっきりと告げた。そこには後悔は無いように思えた。
脅しをかけて僕らの傷を治させ、その後隙をついて殺した…というわけか。
ミユキなりに頑張ったんだな…。
僕はわずかばかりだが感心した。
「…まあ、いい判断だろうな。殺さずにいたら今度はこっちが殺されただろうし……っと、できた」
ちょうどそのときブーツを直し終えた。我ながらうまくできたと思う。
見ていた二人も感嘆の声を上げた。
「よし、じゃあさっそく出発するか」
僕が言うとセイナが飛びつくように「そうしよう!早くしよう!」と騒ぎ始めた。
お化け嫌いのセイナにとってこの屋敷はいるだけでもかなり怖いらしい。証拠に今まで気づかなかったが、わずかに足が震えている。
僕はミユキと顔を合わせると苦笑した。
各々荷物を持つと、洋館を出て再び暗い森の中を進んだ。
………なぜか走って。
セイナがランプを持っているというのに、やっと恐怖から解放されるのがよほどうれしいかったのか、全速力で走り出したので、僕たちも走る羽目になったのだ。
「ああもう!せっかく直したのに!また穴開いたらどうすんだよ!」
走る中、襲いかかってくる残党のフードの魔物やその他のザコを撃ちながら僕は息を切らして怒鳴った。
「知らないわよ!!いいから早く来る!」
「とほほ……きついなぁ…」
セイナに急かされ僕らはあきれながらもひた走る。
まだ森はしばらく続くだろうと予想していたのだが…意外に道は短く、あっという間に暗闇の森から抜け出してしまった。
魔物や木々は進むにつれて減り、前を見ると先の方には砂漠らしき地帯が目に見えた。
「魔女の洋館は意外と森の外側らへんにあったんだね」
「ああ、ありがたいことにな」
ひとまず安心した僕らはその場に崩れ落ちた。
足が痛くてたまらない……
「もう絶対あの森には行きたくない!!……ふざけてる!!」
息も切れ切れに、誰に向かって言うでもなくセイナは怒鳴った。
ふざけてるのはどっちだよ?とツッコみたいのはやまやまだが、まだ息が整わず、そんな暇はなかった。
それに、お化け嫌いなのに僕らをここまで案内してくれたのだ。その努力には感謝をしなければならない。
「…ありがとな」
感謝の気持ちから自然と言葉がでてきた。
初めてだした素直な心…。
言った後で少し照れくさくなる。
するとセイナはピタリと動きを止めたかと思うと、顔を赤くしてうつむき、「べ、別にそんなの…船長に頼まれたからで……あんたたちのためじゃ…」とか何とかごにょごにょ呟きだした。
素直じゃないセイナの反応が理解できず、僕はミユキへと視線を向ける。
しかし、こっちもなぜか僕を見つめ不機嫌そうに頬を膨らませるという理解不能な反応を示していた。
「み、ミユキ…?」
「……ソラのバカ…」
「ええっ!?なんだよそれ!」
突然ミユキに「バカ」と言われ戸惑う。こんな事言われたのは初めてだったし、そもそもあのいつも笑顔なミユキだ。
…想像すらしたことなく、何気にショックは強かった……。
「……あ…セイナ………やっぱさっきのなしで」
「は、はあ?!何よそれ!!」
「……………」
セイナの声から逃げるように僕はそっぽ向く。それでもセイナはわけがわからないと言うように僕の耳元で叫び続ける。
横ではミユキが吹き出してはおかしそうに笑っていた。
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