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page4

 ナギサがここに来るまでの経緯を話すと、ミアの笑顔は段々と翳っていった。話し終わる頃には、ミアはまるで自分のことのように胸を痛めた様子で泣きそうな顔になっていた。頭のネコミミもしゅんと垂れ下がってしまっている。

「……そっか。友達に、うらぎられたんだ……」

「うん、そうなるかな……」

「ナギサ……」

 ミアがあまりにも辛そうな顔をするので、ナギサはかえって申し訳無くなってしまい、無理やり笑って答えた。

「え、えっと、と言っても、僕が勝手に騙されてただけで、僕が無警戒なのが悪いっていうか、ほら、僕って間抜けでさ、あははは!」

「…………」

「はは、あはは……は……」

 ミアはやはり悲しそうな顔をしている。じっとうつむいたまま、顔を上げなくなってしまった。ナギサもとうとう笑っていられなくなる。

「……えっと、話聞いてくれて、ありがとう。ちょっとだけすっきりしたかも」

「そう……?」

「うん。なんか、救われたような気がするよ」

「そっか、良かった。にはは……」

 照れくさそうに笑うミアを見て、ナギサも今度は自然と笑えた。

「……それじゃ、僕は行くから」

「え、行くって?」

「ログアウトするよ。話、聞いてくれてありがとうね」

 ナギサは改めてメニューを呼び出す。そしてログアウトを選択しようとした。

「ま、待ってよ!」

「え?」

「行っちゃだめ! ログアウトしちゃだめだよ!」

 ミアの鬼気迫る訴えに、ナギサは慌ててメニューを消す。ミアはホッとした様子で息をついた。

「え、えっと、何かマズいことでもあるの?」

「ううん、別に。ダンジョンの中でログアウトしても、次にログインする時はダンジョンの出口にいるし……」

「じゃあ、なんで?」

「……えっと、勝手なんだけどね」

 ミアは申し訳なさそうに両手を組んでもじもじしながら、目を逸らして答えた。

「……なんか、ナギサ、今ログアウトしたら……もう二度と、ログインしなくなっちゃいそうで……」

「あ……」

「そんなの、寂しいから……」

 彼女の言うとおりかも知れなかった。もしもこのままログアウトしたら、もう二度と……。

「…………」

「…………」

 何故か気まずくなって、ミアとの間に沈黙が落ちる。どうしたものかと迷っていると、ミアがその空気を吹き飛ばすかのように音を立てて強く手を叩いた。

「よし!」

「えっと、どうしたの?」

「うん、決めたよ! ナギサ、わたしといっしょにこのダンジョンを攻略しよう!」

「え? ……ええ!?」

 ミアの提案はあまりにも唐突だった。ナギサは彼女の無茶振りとも言える言葉にわたわたと手を振って答える。

「で、でも、僕、ダンジョンなんて来たことないし、ていうかこのゲーム始めてまだ一時間くらいしか経ってないくらいだし、そもそもゲーム自体そんな事やったこと無いし……」

「だいじょーぶだいじょーぶ! わたし、ダンジョン探検が大好きだから!」

「り、理由になってないよ!」

「ほら、着いてきて!」

「わ、わわ!」

 ミアはナギサの手をぐいぐいと引っ張っていく。ネコミミが気持ちを現すようにぴょこぴょこと動いていた。

 そうしてミアに手を引かれて部屋の奥にある扉を開くと、その先には最初の部屋とは比べ物にならないほど大きな空間が広がっていた。

「うわ、なにこれ……」

 予想以上に広大な空間。ナギサの漏らした声は暗闇に飲まれていった。

 薄暗いが、かろうじて全体の姿を見て取ることができる。どうやらピラミッドをひっくり返したような形の空間らしく、数階層に分かれていて中心に向かうに連れて深くなっていく。左右と反対側にも道が続いているが、ところどころ壁で仕切られたりしていて、ぐるっと一周することはできなさそうだ。

「えっとね、このタイプだと……あそこがゴールかな」

 ミアが反対側を指さす。今いる場所よりも更に高い位置にある最上段に、いかにもといった様の大きな扉があった。

「どうやって行くの?」

「それは片っ端から調べるの。だいじょーぶ、どんなタイプの仕掛けがあるかとか、わたし色々知ってるし!」

「来たことあるの?」

「ないよ。経験だよ、け・い・け・ん!」

 ミアはウキウキと楽しげに語る。どうやら心底ダンジョンが好きらしい。早速、左右に続く狭い通路を壁づたいに歩き始めた。

「で、でも、僕なんかが着いて行って本当に役に立つのかな。レベル1だし、戦闘とか無理じゃ……」

「だいじょーぶだよ、ナギサに戦わせたりしないって。大体、このあたりの適正レベル60くらいだよ?」

「それって、やっぱり大変なことなの?」

「大変だよ! レベルが60も離れてたらありんことゾウさんくらいの差だよ!」

「あ、ありんことゾウさん……」

 「そんな大げさなと」思わないでもないナギサだったが、さっきの出来事を考えると、どうやら大げさなたとえでもないらしい。

「うう……。つまりちっとも役に立たないんじゃ……」

「だいじょうぶだよ。ダンジョンは力だけじゃなくて、ここが大事なの」

 途方に暮れるナギサに笑いかけながら、ミアはとんとんと自身の頭を叩いてみせた。なるほど、確かに知識ならレベルは関係ないだろう。……それさえも、彼女の経験からくる知識があれば自分の出る幕など無さそうなものだが。

「それにほら、この松明」

 やっぱり役立たずなんじゃ……と落ち込みそうになっていると、ミアは松明を掲げた。先ほどナギサが火を点けたものだ。

「本当なら火種を探すか、アイテム使って点けなきゃいけないんだけど、今はナギサの魔法でどこでも使える! 松明のストック自体はそこら中にあるしね」

「そ、そうなんだ」

「だから、ナギサはちゃんと役に立ってるよ」

 そう言ってミアはにぱっと笑った。やっぱりこの笑顔を見ていると、ナギサも救われたような気持ちになる。

「よし、まずはこの扉から調べよう!」

 ミアが早速壁に扉を見つける。そして勢い良く扉を引くと……、

「にゃぁああああ!?」

「うわあああああ!?」

 中からどばーっと大量の水が流れ出てきた。

 ダメージはない。しかし二人ともずぶ濡れになってしまい、互いに顔を見合わせた。

「に、にはは、失敗失敗♪」

「あ、あはは」

 ……意外と、自分の意見というのも役に立つ可能性があるかもしれなかった。

 ダメになってしまった松明の代わりを探し、火を灯す。ミア曰く、このトラップの厄介なところは松明を消されたり、魔法を打ち消されたりしてしまうことらしかった。

 隣の扉を、今度は慎重に開く。そこに下へと下る階段があった。ミアの後に続き、階段を下っていく。


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