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page19

 シールブング城の転送門から倒れこむ形で飛び出し、慣れない町に迷いそうになりながらも城内の受付を通過、そして攻城戦専用のエリアに移動する頃には、イベント開始から三十分が経過していた。

「ず、随分遅くなっちゃったな……。……まだ間に合うといいけど」

 二人が来ているかどうかはわからない。フレンドリストを開いてみるものの現在地情報は非通知に設定されており、こちらからは一体今どこで何をしているのかさっぱりわからない状態だ。

 しかしここで帰るつもりもさらさら無かった。

 ナギサは自らの小指に視線を落とす。これが彼女との最後の繋がりなのである。

「……行こう。これが僕の、第一歩になる」

 そう思って、強く足を踏み出す。そこは、PvP専用フィールドの拠点となる城塞都市にある、城の大広間。

「どこにいるかもわからないけど、とにかくまずは"あれ"を使わせてもらうとして……」

「ん? おい、お前」

 ネットで事前に調べた攻略情報を思い出し、マップの中に目的の物を探していると、誰かが部屋の中に入ってきた。

「え、僕、ですか……?」

「ああ、お前だ。今来たところか」

 いかにも騎士といった風貌の、甲冑に身を包んだ男性だった。自分より少し年上くらいだろうか。

「あの、僕に何か……?」

「ああ。俺はここで、中途参加者に作戦を伝えているんだが……。……レベル42の《ウォーロック》か……ほう……」

「あ、あのぅ……」

 騎士の男は《サーチャー》でこちらを調べるなり、得心気に頷く。

「よし。君は砦の法撃部隊だ」

「はぇ?」

 突然の命令に素っ頓狂な声を上げてしまう。

「あ、あの、僕は……」

「うちのギルマスのお付き人、かの有名な《要塞騎士》が立てた作戦だ。従っていれば君も確実に勝てる。さ、ついてこい」

「わ、うわっ!」

 ぐいぐいと手を引っ張られてしまう。

 ギルマス、それに《要塞騎士》……。どうやら彼は、現在のプラネティス内でのトップでありこの戦争も仕切っている、ギルド《聖騎士団》のメンバーらしい。

 とにかくこのまま手を引かれていたら、どうやら砦の部隊とやらに入れられてしまうらしい。……それでは、彼女たちに会えない。

「え、えっと、あの、すみません!」

「なんだ? まさか作戦が聞けないってんじゃないよな?」

「う……」

 読まれた。

(いやいやいや、こんなところで押し切られちゃダメだ!)

 ナギサは頭を振って気持ちを切り替える。

「あの、知り合いが参加してるかもしれないんですけど、レベル50のブレイカーとレベル60のシーフだったらどこにいると思いますか?」

「む? レベル50から60の……。ブレイカーなら確実に最前線だろうな。シーフも戦闘に特化しているスタイルなら同じく前線だろう」

「そうですか、ありがとうございます」

「残念だが会いには行けんぞ。君が加わるのは城塞の防衛班だからな」

「うぅ……」

 居場所の見当はついたが、このままでは会いに行くどころか城を出ることすらままならないだろう。

 とにかくなんとかしよう。そう思って、考えを巡らせた。

「……あの、とりあえず手、放してください。痛いんですけど……」

「ん? おう、すまんな」

 男は思いの外あっさりと手を放してくれた。ナギサはそのままじりじりと後ずさると、ちらりとマップを確認する。それからロッドを取り出し、先ほど確認しておいたスキル一覧の中から目当てのスキルを探す。そして、

「ご、ごめんなさい!」

「は? うおおお!?」

 杖の先で地面を突くと無詠唱魔法が発動し、床から岩の壁が飛び出した。兵士が驚いたその隙に全速力で逃げ出す。

 防御系の魔法スキル《ガイアウォール》。万が一ぶつかってもダメージなどは無いはずだし、相手がいなくてもどこでも使えるスキルがこれだった。

「お、おい、待て!」

 虚を突かれて一瞬呆けていた騎士が、慌てて後を追ってくる。しかしすぐに追いつかれることは無さそうだ。

(あの装備、やっぱり《AGI》が低いっぽい……。なんとか僕でも逃げきれるかな)

 AGIの高さは、動きの俊敏さに直結する。ナギサのAGIも決して高くはないが、それでも隙をついてあの騎士から逃げ出す分には事足りるようだった。

("この体"に追いつくだけの操作力も、やっと身についたしね……!)

 それは、普通のプレイヤーであれば「慣れ」で済む問題だった。しかしナギサはわざわざ「身に付ける」必要があり……。

「おい、そこの紅魔術師を捕まえろ!」

「って、考え事してる場合じゃない!」

 いつの間にか追手の数が増えている。とにかく、まずはここを逃げ切らなくてはならない。

「えっと、確かネットで調べた情報では……」

 マップを傍に表示させたまま城内を駆けまわる。複雑に広がる城の一角に、それはあった。

「これだ! 支援魔法の結晶!」

 円形の広間に緑色の巨大なクリスタルが浮遊していた。ナギサがそれに触れると、足元から風が舞い上がり、体が軽くなるような感覚がした。

 AGが大幅に強化される。強力な《ヘイスト》の魔法をかけてくれる、戦争時専用の支援装置だ。

「よし、あとは……」

「いたぞ、緑結晶の間だ!」

「おとなしくこちらの作戦通り配置に着きたまえ!」

「命令違反は許さんぞー!」

「うわ、もう追いつかれた! しかも増えてる!」

 《聖騎士団》の騎士達に追いつかれそうになり、ナギサは慌てて駆け出す。

「うわっ、ととと……!」

 まるで自分の物ではないかのように軽い体。想像以上の速さで駆け出そうとした体に一瞬思考が追いつけなくなり、つまづきそうになる。

「すごいな、これ……」

 少しずつ体を慣らしながら、ナギサは次の場所へ向かう。

「すぐ隣、これか!」

 緑結晶の間のすぐ隣に、また同じような青いクリスタルが浮遊していた。

 さきほどと同じように触れると、今度は青い光が全身を包み込む。感覚的な変化は無いが、これで《VIT(生命力)》や《MEN(精神)》……防御力が飛躍的に向上しているはずだ。

(時間制限付きって言ってたし、早く前線に行かないと……!)

 騎士たちに追いつかれる前に、今度は城の外へ向かって駆け出す。

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