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page13

「このダンジョンなら行けるかな……。どう、ミア?」

 荒野を歩き始めてまもなくナギサが見つけたのは、地面に開いた階段。荒野に不規則に出現し、最初に見つけた一つのパーティーだけが入ることのできる《ランダムダンジョン》だった。

「えっと、どれどれー?」

 ミアが探索エクスプロールのスキルを使い、ダンジョンの情報を調べる。

「んー……。効率は良さそうだけど、ちょっと難易度高いっぽいねー」

 ミアが思案顔で顔を上げる。

「危ないなら止した方がいいんじゃない? 下手に死んでデスペナルティーでも食らったらもったいないし」

「んー、でも楽しそうだなー、このダンジョン」

 指をくわえて物欲しそうに階段を見つめるミア。こうなると、決定はナギサに委ねられることになるが……。

「じゃあ行こうよ」

 ナギサは迷わずに答えていた。

「……本気? 難易度高いみたいよ?」

「大丈夫。レベルも上がってきて、操作も慣れてきたし、ちょっとむずかしいことも挑戦してみたいんです」

「でも……」

「いいじゃんサクラー。ナギサも乗り気だし、行ってみようよ。マズくなったら脱出アイテムで逃げればいいし」

「……ミアがそう言うなら、仕方ないわね」

 結局サクラが折れる。多数決で負けてミアにもねだられるとなると、もう逆らえないようだった。

「よーし、じゃあいこー!」

「うん、ミア!」

「あーもう、だから引っ張らないでって!」

 ミアに手を引かれてダンジョンに飛び込む。三人がダンジョンに入ると、階段は消え、元々何もなかったかのように、荒れた地面だけが残った。



 階段を降りて最初の部屋にはいると、早速扉が閉ざされ、部屋に閉じ込められる。このパターンは、今までにも何度も見たトラップの一つ……。

「おー、さっそくのモンスター部屋かなー?」

「そうみたい、だね」

 そう広くはない部屋に、いきなり五体のコボルトナイトが現れる。立ち回りづらい上にレベルも荒野にいたものより高く、早速「高難易度」の要素をつきつけられたといった具合だ。

「全く、いきなりめんどうな状況ね……」

「それだけ稼げると思えばいいんです。よし、行くぞ!」

「え……? あ、ちょっと!」

 補助スキルを使い、早速目の前の相手に攻撃する。ダメージは200を下回り、さっきほど大きなダメージは与えられない。

「ナギサ君、勝手に始めたら……」

「サクラ、わたしたちもやろう! よーし、競争だ!」

「あーもう、ミアまで……!」

 少しごたつきながらも全員が戦闘を開始する。狭い部屋にこれだけの人数がいると、混戦も必至だった。

(弱い攻撃でも、何度も撃てば……!)

 ところ狭しと動き続け、一発撃っては距離を取り、更に攻撃を重ね、隙が見えれば強力な上位魔法を使う。確実にダメージを重ね、時間をかけてようやく一体を撃破する。

「よし、一人でできた!」

 思わずガッツポーズを取る。その後ろから叫び声が響く。

「ナギサ、後ろ!」

「え……?」

 振り向くと、そこにはマーク外だったコボルトナイトが槍を振りかざしていた。

「うわ……!」

「危ない!」

 割って入ったサクラが大剣で弾き飛ばす。吹き飛ばされたコボルトナイトにミアが追撃を入れて撃破。今のが最後だったようだ。

「もう、一発食らったら死ぬレベルなんだから無茶も油断もしないで!」

「ご、ごめんなさい」

 サクラが助けに入らなければ危ないところだった。しかし、

「でも、一人で一体やれました!」

「うん! すごいよナギサ、あんなにレベル差あったのに」

「はは、やればなんとかなるね」

 一人で格上の敵を倒せたことへの達成感が、ナギサの興奮を掻き立てていた。

「二人とも、そんな危ない戦い方してたら……」

「ミア、次の部屋行こう!」

「よーし、れっつごー!」

「ち、ちょっと!」

 サクラの言葉にも耳を貸さず、二人で次の部屋へ飛び込む。

 その後、二人は次々と現れるモンスターを撃破し、宝箱があれば危険を冒してでも開きに行った。経験値も金も普段よりずっと効率よく稼ぐことができているが、その分危うい場面も多い。一歩間違えば死ぬようなトラップさえも踏んだ。

 それでもナギサはどんどん前へ進んでいく。今ならなんでもできそうな、そんな全能感さえ芽生えていた。

 ……しかしそれは、危険の兆候だったかもしれない。

「この部屋は……敵は居ないのか」

「仕掛け部屋っぽいねー」

「はあ……。少し休ませてくれない? 二人で無茶ばっかりして……」

 何もしなければ安全な部屋であるとわかるなり、サクラは壁に寄りかかって息を吐く。ナギサ達の少しばかり無謀とも言えるプレイのフォローに徹したせいで、普段以上につかれているようだった。

「もー、だらしないな、サクラは」

「じゃあ、仕掛けは僕達で調べときますね。行こう、ミア」

「うん。高いところとかは任せて!」

「勝手に動かしたりしないでよね」

 サクラに念を押され、ミアは高台や複雑な足場にある仕掛けを、ナギサは床にある仕掛けを調べ始める。部屋自体が入り組んでいて、調べるのも一苦労だ。

「踏むタイプのスイッチとかは無いっぽいかな……。……あ」

 仕掛けを探していると、部屋の隅に宝箱が置かれているのを発見する。

「……開けてみていいかな」

 どうやら鍵もついていないらしい。

 サクラは部屋の入口あたりで休んでいるし、ミアもかなり離れたところにいる。わざわざ呼んで確認することもないだろう。そう決めて、ナギサは宝箱に手をかける。

「さて、中身は……」

 宝箱を開き、そして目を疑った。

「……え、10ゴールド……?」

 場違いに小さな数値。レベル補正にしたって不審だ。こんなちっぽけな金がわざわざ宝箱に入っているものだろうか。

 言いようのない不気味さに、ナギサの胸がざわつく。普通じゃない。何かおかしい。

 ……そう思った時には、遅かった。

「っ、う、わっ!」

 床が大きく揺れる。何かが動き出していた。

「ナギサ、どうしたのー!?」

「ご、ごめん、もしかしたら……」

 言い終わるより先に、部屋は動き出していた。

「ナギサ君、勝手に動かすなって……きゃっ!?」

「サクラさん!」

 それは案の定、宝箱をトリガーとしたトラップ。駆け寄ろうとしたサクラの目の前に壁がせり上がり、彼女が隔離される。

 壁は次々とせり上がり、サクラを完全に包囲する。

 しかしナギサはその壁の為す空間の形を見て、そうでは無いということに気づく。

「……違う」

 壁の作りだした地形。それは、サクラではなくナギサを閉じ込めるものだった。

「あーもう、面倒くさい……。待ってなさい、今この壁壊すから!」

 壁の向こうから声が聞こえ、続けて壁に大剣を叩きつける音が聞こえる。しかし壁の耐久力は並ではなく、すぐには壊れそうにない。

 そうしている間に、息をつく間もなく次のトラップが襲い掛かる。

 モンスターの出現。全てが中型のゴーレムで、その数は四。

 壁により作りだされた密室に、四体のゴーレム。……レベルは、今まで戦ったコボルトナイトとも比にならない高さだった。

「嘘……」

 こんなに強い相手、倒せるはずがない。そもそもこのダンジョンのレベルと釣り合っていない。

 つまりこれは、一度足を踏み入れたら死は免れないレベルのトラップということ。

 ……死ぬしか無い。

 今死ねば、《デスペナルティー》でレベルが下がり、所持金も大きく減らされるだろう。……ここまでの努力の、決して少なくない部分が失われる。

 今までこんなことはなかった。……こんな危険があるほどの前面に自分が出るなどということ自体が、あってはならなかったのだ。危機を前にして我に返り、そんな当たり前のことを思い出す。

「に、逃げないと……」

 諦めたらダメだ。とにかく逃げよう。そう思って、無意味と悟りつつ周りに目を走らせる。やはり壁に囲まれて、逃げ場は……。

「そ、そうだ! 脱出アイテム!」

 その存在を思い出し、アイテムを取り出す。しかし、

「使用不可……脱出できない……!?」

 赤い文字の表示が残酷に告げる。発動したトラップは、脱出アイテムの使用すら制限していた。

「うわっ!?」

 その時、ゴーレムが強く地面を踏み鳴らし、床を揺らす。足元がふらつき、尻餅をついてしまう。

「しまっ……!」

 見上げると、そこには自分を見下ろす四体の巨大なゴーレム。闇の奥で不気味に光る、感情のない目がナギサを睨む。

「あ……」

 ――足が、動かなくなった。

「いやだ……」

 記憶がフラッシュバックし、目の前の光景と重なる。

 足がぴくりとも動かなくなり、力が入らなくなる。それがどうすれば動くものなのか、そんなことすらわからなくなってしまうような感覚。それは、ゲームを始めたあの日に起こしてしまったのと、全く同じ現象。

「……ミア……サクラさん……ごめん……」

 どうしてこんな目にあってしまうのだろう。ようやくゲームに慣れて、軌道に乗ってきたところなのに。

 調子に乗りすぎた罰か、それとも、……自分なんかがみんなと一緒になろうとした罰か。

(やっぱり僕なんか……どんなに努力した所で……)

 眼前で、ゴーレムが拳を振り上げる。

 ……罰だというのなら、受け入れよう。

「う……く……っ」

 更に鮮明に蘇る記憶。その恐怖こそが、何よりの罰だった。

 目をギュッと瞑る。しかしその時、

「ナギサッ!」

 声が、記憶を切り裂いた。

 続けて、何者かがナギサを横から強く突き飛ばす。

「え……?」

 閉じていた目を開く。

「……あ…………」

 そこには、壁の上から飛び降りてきたミアがいた。

 目を開いた時、彼女はゴーレムの拳に殴り飛ばされていた。小さな体はいとも簡単に吹き飛ばされ、そして壁に叩きつけられる。

 ……自分を庇ったのだと気づくまで、時間がかかった。

「ミア!」

 駆け寄りたい。しかしこんなことになってもなお、足が動かない。

 けれどそれは、いずれにせよ無駄な行為だったかもしれない。……守りの薄いミアのHPは、今の一撃で一気にゼロになっていた。

「そんな……」

 壊れた人形のように床に崩れ落ちるミア。その姿が、薄くなり、消える。

「ミア!」

 直後、向こう側から壁の一部が破壊される。飛び込んできたサクラが辺りを見回して、悔しそうに歯噛みした。

「間に合わなかった……」

「サクラさん、ミアが!」

「そんなのわかってるわよ! いいからさっさと脱出しなさい! 壁壊したら、アイテム使えるようになったみたいだから!」

「で、でも……」

「いいからさっさとしなさい!」

「は、はい!」

 サクラの怒鳴り声に、ナギサは慌てて帰還アイテムを取り出す。

「馬鹿……僕の馬鹿……クソッ!」

 自分で自分が許せないまま、ナギサは《帰還の札》を使ってダンジョンを脱出した。

 ……自分は、なんて大馬鹿者なんだろう。そんな風に自分を責め立てて。

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