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page12

「ところでナギサ君って、本当に今まで全然ゲームやったことないの?」

 フィールドの移動中、サクラが不意にそんなことを聞いてきた。

「え? まあ、そうですけど……」

「そうなの。……ふぅん」

「え、えっと、サクラさん?」

 サクラはなぜか眉をひそめて複雑そうな表情をする。何かまた機嫌を損ねるようなことを言っただろうか。

 と、どうやらサクラが何を思っているのか感づいたらしいミアが、ニヤニヤといたずらっぽく笑った。

「サクラはね、ナギサの才能に嫉妬してるんじゃないかな」

「へ、嫉妬?」

「ち、ちょっと、ミア!」

 焦った様子のサクラ。図星らしい。

「実はサクラもこのゲーム始めるまであんまりゲームとかやらなくってさ、始めたときとかひどかったんだー」

「サ、サクラさんが……?」

「そうそう。頭にずっとネームウインドウ出してたり、ショップNPCと会話を成立させようとして四苦八苦してたり!」

「ミ、ミアぁ!」

 サクラが顔を真っ赤にしていた。まさかサクラが、自分と同じような失敗をしていたとは。

「一番おかしかったのはね、にふふ……、初めてフィールドに出たときでね。《草原ウサギ》っていうモンスターがいるんだけどね」

「う、うん……」

「ま、待って、それだけはやめて!」

 なんかもう必死だった。なんだかとんでもない黒歴史らしいが、ミアは笑いをこらえながら容赦なく続ける。

「サクラ、その子をペットにしようとしたらしくてさ、手なづけようとして抱きかかえて一生懸命撫でてたんだよ。こわくないよ、こわくないよ~とかいいながら!」

「いやぁああああ!」

 耳をふさいで絶叫した。なるほど、確かに恥ずかしいエピソードだ……。

「サクラさん、意外……」

「うるさいわよぅ、いっそ殺してぇ……」

「ま、まあまあ。僕なんて最初に会ったのがレベル60の《デスハウンド》の群れで、しかも殺されかけたわけで、それに比べればまだかわいい方っていうか……」

「うるさい! うるっさいわよ!」

「ひっ!? ご、ごめんなさい……」

「あーもう、ミアー! あんたが変な話するからー!」

「にはは、サクラが怒った!」

「こんのー、おとなしくしなさい! お仕置きよ!」

「にはははっ、ほらほらこっちー」

 楽しげにぴょんぴょんと逃げまわるミアに、サクラが完全にブチ切れる。

「もう怒った! おとなしくPKモードになりなさい! いつものグリグリじゃ気がすまないわ!」

「さ、サクラさん!? そ、それはマズ……」

「いいよー。ほら、かかってきてよー」

「み、ミアまで!?」

 ミアが楽しげに《PKモード》に切り替わる。これにより、プレイヤー同士の対決が許されていないフィールドでも、プレイヤー同士の戦い、《PK》が可能になる。

「その余裕も今のうちよ、覚悟しなさい!」

「にはは、よーしこいー!」

「わわわ……っ」

 ナギサが止めるまもなく、お互いに武器を手にして決闘を始めてしまう。サクラの攻撃力は凄まじいし、シーフであるミアの装備は軽装で防御力が低い。食らったらただでは済まないだろう。

「た、助けないと……!」

 サクラは頭に血が上っている。やり過ぎないように手を貸して落ち着かせよう。そう思って杖を手にするが……。

「こら、待ちなさい! この、このっ!」

「ふふーん、こっちだよー。それっ」

「痛っ!? やったわね、もう許さな……」

「遅いよー、ほらほら~」

「あ、ちょ、いたっ! ま、待って、や、ふぁっ」

「……えっと」

 助けるって、どっちを? と、ナギサは杖を手に呆けてしまう。

 サクラの攻撃は確かに強力だ。が、如何せん大振りすぎてすばしっこいミアにはちっとも命中しない。それどころかミアに側面や背後を取られては突っつくような攻撃を繰り出され、為す術なくHPを削られている。たまに攻撃が命中しても、ミアにはほとんどダメージがないようだ。

「ああ、そういえば……《グレイズヒット》って言ったっけ……」

 このゲームには、《DEX(技量)》と《AGI(敏捷)》というパラメータが存在する。《DEX》は命中力を、《AGI》は動きの素早さを意味し、物理攻撃をした時この数値に差がありすぎると、命中しても《グレイズヒット(かすり当たり)》という判定になって、ダメージが大幅に減るとか。

 ブレイカーのサクラはそこまで《DEX》が高くなく、一方シーフであるミアの《AGI》はずば抜けているわけで……。

「はぁ……はぁ……。も、もう無理……」

「ありゃりゃ、もう降参? うりうり、つんつん」

 数分後には、大剣を振り回すのに疲れて地面にへたり込むサクラの姿があった。

「おとなしくいつものぐりぐりにしてればサクラの勝ちだったのにねー」

「はぁ……はぁ……。あ、あとで覚えてなさい……」

 どうやらゲームのルール上では、ミアのほうが格上らしかった。

「今度こそ勝てると……思ったのに……。……やっぱり、相性が悪すぎ……」

「そうじゃなくても、サクラは相手の先を読むのとか苦手だよねー。真正面からの力勝負は強いけど」

「何よ、私がパワー馬鹿だって言いたいの?」

「否定はできないよねー」

「む」

「ま、まあまあ、それがブレイカーの戦い方っていうか……」

「ナギサ君は黙ってて!」

「はひっ!」

 やはり、下手に口を出さないほうがいいらしい。

「にはは。でね、さっきの話だけど、"これ"と比べたらナギサの成長って結構早いほうだよ。もしかしてセンスあるのかもね」

「ギロリ」

「う。え、えっと……」

 サクラが動けないことを良いことに調子に乗って言いたい放題なミア。しかもサクラが睨むのは何故かナギサの方で、どうしようもない状況にナギサは冷や汗をかくことしかできなかった。

「そ、そうなのかな……? でもサクラさんだって上手いし、言い過ぎじゃ……」

「そんなことないよ。だってゲーム始めて間もない人が詠唱時間計算に入れた戦い方とか《ジャストガード》とかなんてなかなかできないよ?」

「そうね。下手に謙遜されるとイラッと来るのは事実ね」

「そ、そんなこと言われても」

 サクラがミアを怒る前にナギサを怒る。どうしろと、とナギサは冷や汗の量を増やした。

 ナギサのゲームセンスが高い、というのは事実だった。

 上位魔法には発動までの詠唱時間が存在する。それを考慮に入れるということは、一定のAIでしか動かない相手とはいえ行動を頭に入れ、その上で相手の挙動に合わせて発動させなくてはいけない。

 普通ならわかりやすい隙を見せた所や、確実に時間があると解るタイミングに確実に叩き込むというのが定石だが、ナギサの場合は違った。例えば、高速で迫ってくる相手の攻撃に合わせて魔法の詠唱を始め、最高の攻撃力を発揮するタイミングで命中させたりと、高度な技をやってのけるのだ。

 もう一方の《ジャストガード》と呼ばれる技も、相手の攻撃を受ける瞬間に合わせてガードをすることでダメージを大きく減らすという高等技術で、やはり初心者に狙ってできた芸当ではない。

「ナギサなら上位職に行っても上手く使いこなせるかもね」

「上位職って、難しいの?」

「ウィザード系は、そうらしいわね。炎と大地の《ウォーロック》、風と氷の《ソーサラー》、闇の《ファントム》に分岐するんだけど、どれも一癖あるみたいよ」

「そ、そうなのか……」

 少しばかり慄いてしまう。かといっていつまでも下級職でいるわけにもいかないだろうが……。

「ま、ナギサならできるよ、うん!」

「そうね。悔しいけどゲームセンスは無駄にあるみたいだし」

「む、無駄って……」

 確かに世の中の役に立つことではないかもしれないが。まさか同じゲームをやっている相手にそんなことを言われるとは思いもよらなかった。

(……でも、そうか。少しくらい自信を持ってもいいのかな)

 ミア達の褒め言葉を鵜呑みにする度胸はないものの、それは少し自分の自信に繋がりそうだった。二人が認めてくれていると、なんとなく実感できる。

 確実に、前進しているのだ。

「ねえ。上位職に転職できるのっていつだっけ?」

「んにゃ? えっと、レベル30だよね?」

「そうね。ナギサ君はあと10くらい」

「そっか」

 上位職になったらもっと強くなれるだろうか。そう思うと、不安に思う一方で、早く転職してみたいとも思えてくる。

 そんなことを思っていると、ミアが何故かニヤニヤして顔を覗いてくる。

「やっぱり最近のナギサは調子がいいっぽいねー」

「え?」

「そうね、ちょっと調子乗ってるんじゃないかしら」

「え、えっと……?」

 サクラにまで同調されてしまった。……確かに、目標金額の折り返し地点に来たこともあって、少しモチベーションが高まっている気はするが。

「よし、ナギサがやる気に満ちてる間に次行こー!」

「へ? ち、ちょっとまってミア、私まだ動けな……」

「タフさが売りの剣士系職が泣き事言わなーい。さ、行こ、ナギサ」

「う、うん。あの、サクラさん。僕たち二人でも平気だから無理に……」

「動けるわよ! 気遣い無用!」

「ご、ごめんなさい!」

 大声とともに立ち上がるサクラ。……やっぱりなんだか厳しい。

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