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ゲームを始めて三週間ほどが経つ。今日もナギサは荒野にいる魔物と戦闘していた。
相対するは槍を持った狼男、《コボルトナイト》と呼ばれるモンスター。
「ナギサ、あんまり前に出ちゃだめだよ! もっと下がって!」
「う、うん!」
ミアの指示で大きく後ろに下がり、杖を構える。
「えっと、まずは……」
「補助スキルよ! この間習得した奴使いなさい!」
「は、はい!」
サクラが敵の攻撃を防ぎつつ指示を飛ばす。ナギサは先日習得したばかりの攻撃魔法の威力を高める補助スキル、《フレイムエンハンス》を自らに使用した。
「よし……!」
手を止めず《ファイアボール》を放つ。コボルトナイトに命中し、201のダメージを与えた。これも一週間前と比べれば確実な進歩。補助スキルを使っているとはいえ、ようやく「ダメージ」と呼べるだけのダメージ量となっていた。
コボルトナイトの意識がこちらに向く。ナギサはジッとその動きを見つめると、逃げようとするどころか、すぐさま別の魔法を発動した。
無詠唱魔法スキルとは違い、発動までのに詠唱が必要とされる詠唱魔法スキルだった。動けないまま無防備の状態のナギサに、コボルトナイトが迫る。
しかしその槍先がナギサに突き立てられようとしたその瞬間、詠唱が完成した。
「えいっ!」
掛け声とともにナギサの前に現れる魔法陣。そこから《ファイアボール》より更に大きな炎弾がほとばしり、最も効率的にダメージを与えるタイミングでコボルトナイトに直撃。600以上のダメージとともに吹き飛ばす。上位魔法、《フレアドライブ》だ。
炎に焼かれ仰け反るコボルトナイト。その目の前に、ミアとサクラが立ちはだかる。
「OKね。後は任せなさい!」
「よーし、とどめー!」
ミアがナイフを放ちコボルトをひるませ、その隙に力を溜めていたサクラが大剣を全力で叩き込む。6000を超えるというとんでもない量のダメージを与え、コボルトナイトを一撃で粉砕した。レベル50半ばのサクラに対し敵は40程度というレベル差があるとはいえ、さすがは《ブレイカー》の全力攻撃といったところか。
「……ま、こんなもんよね」
「おしまーい! ナギサ、サマになってきたよー!」
「はは、ありがとう」
金稼ぎと並行して、ナギサは二人から戦い方の指南を受けていた。ウィザードのような魔法使い職の基本と、強敵との差を少しでも埋める戦い方が主なものだ。
「まあ頑張ってるわよね。ゲームに関してズブのド素人な割には飲み込みも早いし、何よりレベルもちゃんと上がってきてるし」
「もう20超えたもんねー。これなら攻城戦イベントなんてよゆーで出られるね!」
「あはは、間に合えばいいけど……」
「世界樹のための聖戦」。《フォルトレシア》のPvPイベントは、もう二週間後にまで迫っていた。対戦相手の国家も決定し、双方の首都にはイベント参加希望者が集まり始めているらしい。
「対戦相手は、《平原と渓谷の国 プラネティス》……。僕達はこっちに参加するんだよね?」
「うん! こっちのトップギルドにすっごく強い騎士さんがいて、ここ数回の戦争では負け知らずなんだ。わたしたちもあんまりPvPは慣れてないし、どうせなら勝ちやすそうな国家に出ようってねー」
「ギルド《聖騎士団》の《要塞騎士》さんね。まあ、実力はあるんだけどちょっとお堅い人だって噂で、すごくかっちりと作戦立ててその方針で動かすってタイプらしいから、堅苦しい戦いにはなりそうだけど」
一方の《フォルトレシア》は割りと自由な気風のギルドがトップにいるらしい。PvPイベントでは対戦国に所属するギルドの中で一番ランクの高いものがトップに立つため、戦争の参加者は必然的にトップギルドの影響を受けるわけだ。
「……て、ナギサ君はそれよりもレベルとお金のことでしょ? 今いくらになってるの?」
「ご、ごめんなさい。えっと……」
メニューを開く。ここ数日、レベル補正と経験値やお金の本来の取得量のバランスなどを考えてユベリア周囲を転々としていたが、ここ数日は比較的効率よく稼げていたように思える。つまり、レベルだけでなくお金も……。
「あ、今ので五万超えました!」
さきほど倒したコボルトナイトから手に入れたお金で、ちょうど五万ゴールドを超えたところだった。
「おおー、ついに折り返し地点だね、ナギサ!」
「うん!」
なんだかいい調子だ。めげずに努力を続けてきてよかった。
イベントまではあと二週間。このまま順調に行けば、レベルもお金も間に合いそうだ。
最初にこんなエリアに放り出された時はどうなることかと途方に暮れていたナギサだったが、この二週間の努力が着実に実を結びつつあることに達成感を覚える。……やはりこの世界でなら、諦めずに努力を続ければ報われるのだ。
「……よし。さ、次に行こうよ!」
「にはは、今日のナギサはやる気満々だねー」
「全く。キリがいいところで終わりにしようとか、そういう発想はないわけ?」
「もー、ノリが悪いよサクラ。嫌ならわたしとナギサの二人だけでもいいよー?」
「だ、誰も行かないとは言ってないでしょ!?」
「えっと、サクラさん、迷惑なら別に……」
「誰もあなたのために行くとは言ってないわよ! ミアが行くから行くの!」
「うう……。なんか日を重ねるごとにサクラさんの言葉が辛辣になっていくような……」
賑やかに騒ぎ立てながら、ナギサは二人と共に次の標的を探しに歩き出した。




