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「それでねー、ナギサってばただの宝箱開けるときまでビクビクしちゃってさー。そんなに怖がることないのにねー」
ナギサがログアウトした後、ミアとサクラはユベリアの露店通りを歩いていた。普段ならプレイヤーの開く露店に並ぶアイテムに目を輝かせるミアだったが、今はサクラに向かってしきりにナギサのことを話してきている。その様子はとても楽しそうで、サクラとしては複雑な気持ちだった。
「それでねそれでね! ……ってサクラ、聞いてる?」
「……え? あ、ごめん」
「もー、ちゃんと聞いててよー」
「う……。わ、悪かったわよ」
さっきからナギサの話ばかりだ。思えば、ログインしていない時に彼女から送られてくるメールなんかも、ここ最近は彼の話ばかりだったように思えてくる。いつもは自分にだけベッタリだというのに、なんだかナギサに取られてしまったような気分だった。
(……いやいや、まだ取られてなんか無いわよ。ミアは私がいないとダメなんだから)
頭を振る。あんなポッと出の何処の誰とも知れない男なんかにミアを渡せるものか。
「サクラ、どしたの?」
「う、ううん、なんでもないわ。そういえばミア、さっきナギサ君と何話してたの?」
考え事の最中に声をかけられ慌てて話題を変えようとすると、ミアはにぱっと笑って答える。
「えっとね、ナギサがなんか、自分のこと仲間はずれみたいに思ってるみたいだったから、言ってあげたの」
「うん、何て?」
「ナギサもわたしの大事な友達だってね。にはは」
「うぐ」
「にゃ? どしたの?」
「な、なんでもないわよ!」
満面の笑顔と共にそんなことを言うものだから、変な声を出してしまった。やっぱり少しばかり手遅れなのかもしれない。
「はぁ……。まさかあんたに私以外の友達ができるなんてね」
「あー、またそんなこと言うー! わたしだって頑張ってるんだよ! リアルではまだ、……だけど」
「私にとってはその方が落ち着くわね」
「むー。サクラが教えてくれたのに、このゲームのこと」
ぷぅと頬をふくらませてむくれてしまう。少し意地悪かっただろうか。
(……ナギサ君が来てから、なんか変よね、私……)
今度は自分にため息をつく。今までは軽口を叩くことこそあれど、意地悪を言ってしまうことなんてあまりなかったというのに。
リアルで友達の作れない彼女が、まずは架空の世界で友達を作れるようになったら。そう思ってこのゲームのことを勧めたのは確かにサクラ自身だった。その自分が、ようやくミアに出来た新しい友達のことを快く思わなくてどうするのだろう。
(……いや)
そんな簡単な話でも無いのかもしれない。
彼が意図的であれ、非意図的であれ、ミアのことを裏切ってしまわないか。それが不安なのだろう。「大事な友達」なんて滅多に作ることの無かった彼女が一度深く関わってしまった以上、裏切られれば彼女は深く傷ついてしまうだろう。
(……なんて、本当はただ単にヤキモチ焼いてるだけなのかもしれないけれど)
そんなことをぽつりと考えると、横からミアが覗きこんできた。
「な、何よ?」
「ふぅん。やっぱりそうだったんだー」
「へ?」
ミアはにやにやといやらしい笑みを浮べている。まさか……。
「はっ!? も、もしかして私、口に出して……」
「うん、ばっちり」
「や、やめて、聞かなかったことにして!」
「やだよー、ばっちり聞いちゃったもん。そうじゃなくてもサクラ、色んな顔してて面白かったけど」
「な、な……!」
サクラの顔がカァッと紅潮する。それを見てミアはますます面白そうに笑った。
「にはは! じゃあ今から二人っきりでデートしてあげるよ!」
「な、よ、余計なお世話よ!」
「もー、意地はらなくてもいいのに。さ、いこいこ!」
「ち、ちょ、引っ張らないで!」
心底楽しそうなミアに手を引かれ、露店通りを歩く。
そんな二人きりの「デート」に、やはりサクラは少し安心してしまっているのだった。




