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1-3

 事件現場である北町の住宅地は、高野探偵事務所がある西町から電車で10分、さらに徒歩で20分のところにあった。

 

 現場には立ち入り禁止のテープが張り巡らせてあり、数人の警官が右往左往している。

 

 それを囲む野次馬や報道関係の人々に紛れて、高野も遠目に眺めていた。

 

 被害者の物と思われる、チャックの開ききった紺色の手提げ鞄。それから溢れたのであろう、ノート類や筆記具が散らばっており、周りを白いテープで囲ってあった。

 

 「被害者はA高校の女子学生か……」

 

 高野は独りでにそう呟いた。

 

 「なぜ、そんなことが分かるんですか?」

 

 高野の背後で少女が尋ねた。

 

 少女は両足をたたみ、正座のような格好でふわふわと浮遊していた。


 「現場に落ちている鞄に紋章が入っているだろ? あれはA高校の校章だ。女子学生ってのは偏見だが、散らばっている筆記具を見ると、ファンシーなデザインのものが多い」

 

 高野の言うとおり、筆記具やノート類は可愛らしいキャラクターものが大半であった。

 

 「あとは、名前さえ分かればな……」

 

 高野は、ちらりと少女の方を見た。

 

 視線に気づいた少女は、きょとんと高野を見返した。

 

 やがて、何かに気付いた顔に移り変わった。

 

 「まかして下さい! 私、見てきます」

 

 胸に手をあて、少女は意気込んだ。


 

 少女は凄まじいスピードで人ごみを『すり抜けて』、事件現場のど真ん中に到達した。

 

 

 しかし、周囲の人々はこの異様な光景が見えていないかのようだった。

 

 現場の警察官も少女に目もくれず、作業に没頭している。

 

 いや、実際に少女のことが見えていないのだろう。

 

 高野はそう思った。

 

 少女と何度か外出した際、誰一人として騒ぐことがなかった。

 

 現代の日本において、予期せぬものを目の当たりにされても知らないふりをするのが美徳なのかと高野は考えた。

 

 それでも、こうしてマスメディアに晒すような真似をしても、何の騒動にもならないということは、やはりこの少女は幽霊なのだろうと実感した。


 やがて、事件現場をぐるぐると見渡していた少女が高野のもとに戻ってきた。

 

 「判明しました。被害者の名前は、皆本麻衣子さんです」

 

 少女は嬉々とした表情で報告し、「さらに」と付け加える。

 

 「ノートから学年とクラスも分かりました。2年1組とのことです」

 

 「A高校・・・・・・2年1組・・・・・・皆本麻衣子・・・・・・と」

 

 メモ帳に入手した情報を書き出していく。

 

 「また、若い子が被害に遭ったのか」

 

 ペラペラとページをめくりながら言う。

 

 「一週間で三人。それもみんな、十代の女性の方ですね」

 

 少女が手帳を覗きながら言う。

 

 高野の手帳には、ここ一週間に起きた、連続して少女が行方不明になった事件について記されていた。

 

 

 最初の被害者は、S高校、1年3組の女子生徒だった。


 事件現場は、S高校から程近い市民公園。そこのベンチの前に無造作に置かれた生徒の鞄が見つかった。

 

 鞄の中身は乱雑に放り出されたように散りばめられ、鑑識官たちが必死に捜索しているのが高野にとって印象的であった。

 

 この出来事は、テレビでも報道されたが、あまり大々的ではなかった。

 

 あまり真面目な生徒ではなかったようで、家出も頻繁にしていたことから、ふらっと遊びに出たのであろうとマスメディアは判断した、と高野は考えた。


 

 しかし、二つ目の事件が起きて、状況は一変した。

 

 二つ目の事件の被害者は、N女子大の生徒であり、大学前のコンビニエンスストアが事件現場となった。

 

 被害者の友人の証言では、トイレに入った被害者を店外で待っていたものの、一向に出てくる気配がなかった。

 

 携帯電話に掛けてみるも反応はない。

 

 心配になった友人はドア越しに声を掛けるが、やはり反応がない。

 

 被害者に何かあったと思った友人は、店員に事情を話し、ドアをこじ開けてもらう。

 

 中に被害者の姿はなく、彼女の持っていた鞄と、その中身が床に散らばっていた。


 さらに不可解なことに、被害者は一度トイレに入ってから一度も外に出ていないことが監視カメラの記録から分かった。

 

 トイレの個室内には人が出入りできるような窓もなく、完全な密室である。


 これが各メディアに火をつけ、『謎の誘拐事件』や『神隠し』などと揶揄されるようになった。


 

 そして、今回の事件。

 

 「また、メディアが騒がしくなるだろうな」

 

 高野は手帳を閉じながら、静かに呟いた。

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