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重たい瞼を開ける。
眼前には、何の面白味も無いクリーム色の天井。
ところどころにペンキが剥がれ、色あせたコンクリートがむき出しになっている。
その有様を見た高野守は、高くつくが確実な業者に頼むか、それとも自分でなんとか見栄えだけでも良くするかと、寝起きの頭をフル稼働させ考える。
ここ一週間ほど毎日のように起床の際に考えることだが、金銭面と自身の怠惰な性格もあって、結論は いつも先送りにされている。
そして、考えることを止めた高野は意識を再び眠りへと誘う。が……。
「おはよう! ございまーす!」
高野は全身をビクリと痙攣させ、その弾みでソファーから転げ落ちる。
耳元で発せられた声は、薄暗い室内に不釣り合いなほど、活気に満ち溢れていた。
恨めしそうに顔を上げた高野の前にふわふわと浮いている少女。
その少女が大きく息を吸い込むのを見た高野は、急いで耳を塞ぐ。
「おはよーございまーす!」
再び発せられたその声に、室内がビリビリと震える。
「あぁ、おはよう……」
耳から手を離した高野は、気だるそうに浮いている少女に向かって挨拶する。
それに少女は、二カッとはちきれんばかりの笑顔で応える。
「まったく、やっと起きたと思ったら二度寝しようとするなんて、高野さんはどれだけ怠け者さんなんですか?」
十畳程の室内を所狭しと言わんばかりに縦横無尽に飛び回りながら少女は言う。
高野はその光景を見て、ウロチョロ飛び回る羽虫を彷彿させたが口には出さなかった。
「休みの日くらい、自由に寝かせてくれよ」
言いながら、デジタルの置時計を手にする。
液晶のディスプレイには「AM7:00」と表示されていた。
現在時刻を確認した高野は、再びソファーに横たわり目を瞑る。
「ちょっと、高野さん!? 言ったそばから何寝ようとしてるんですか!」
「まだ五時間も寝れるじゃないか」
耳を塞ぎながら高野は言う。
「お昼まで寝るつもりですか!」
少女は高野の耳元で喚く。
しかし、視覚と聴覚を断った高野は瞬く間に意識を眠りへと落としていく。
「起きて下さい、高野さん! ほら、良いお天気ですよ。遊びに出かけましょう!」
少女は高野を揺さぶろうと手を伸ばす。
だが、少女の手は高野の体をすり抜ける。
「ああ、もう! 幽霊な私がもどかしい!」
微かに聞こえてくる少女の声に高野は思う。
こんな陽気な幽霊がいてたまるか、と。