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声を置く場所

作者: ケイ
掲載日:2026/02/04

お悩み相談のような内容です。

正義の味方や悪の組織なんていません。

声を置く場所


安物のWebカメラが回る。

画角はいつもと同じ。少し低くて、少し近い。


床に座り込んだ中学生くらいの少年。

圭の鎖骨から上だけが画面に収まっている。

背後に映るカーテンの隙間から、夜の闇が覗いていた。


圭は一度、肺に溜まった冷たい空気を吐き出してから、レンズの向こう側を見つめる。


「こんばんは。……今日も、届いたお便りを読みます」


マイクがカサリと紙をめくる音を拾った。

指先がわずかに震えているのが、自分でもわかった。


―――


相談①「止められなかった」


『クラスで、いじめを見ていました。止めることもしませんでした。

正直、怖かった。次は自分かもしれないと思って。

何も言わなかった自分は、いじめた人と同じでしょうか』


圭は視線を落とし、机の角を見つめる。


「……難しいですね。僕も、いまだに答えは出てません」


沈黙が流れる。

視聴者数は、ゆっくりと増え続けていた。


「勇気って……なんか、コンビニで買えるようなもんじゃないから。

声を出すって、自分の居場所とか、明日とか、全部を賭けることになる。

それを他人が『出せよ』なんて、簡単に言えるはずがないんです」


圭は膝を抱え、自分に言い聞かせた。


「……正直に言うと。

僕も、見てしまった側だったことがあります。

その時、何もできなかった。

今でも、自分のことが嫌いになるくらいには、大人になりきれてません」


―――


圭は、湿り気を帯びた二通目の紙を取る。


「……もう一通。これで最後にします」


―――


相談②「逃げたい」


『いじめられています。学校に行くのがつらい。

でも、休んだら負けな気がして。逃げたら、全部終わる気がして。

逃げてもいいんでしょうか。消えたい』


圭は画面から目を逸らした。

レンズの向こうに、かつての自分を見た気がした。


「……いいですよ。逃げて」


絞り出すような声だった。


「逃げるのは、負けじゃないです。……壊れないための選択です。

命を削ってまで守らなきゃいけない場所って、……僕は、今は、思いつかないです」


画面の右端で、チャット欄が淡々と更新されていく。


『学校行かないと詰むぞ』

『そんな場所ない定期』

『今の言葉、刺さった』


圭はそれらの文字に一切反応しない。

視線はレンズの数センチ下、虚空を彷徨っている。


「……でも。ここまで話しておいて。

一つだけ、僕の話をさせてください。綺麗な話じゃないです」


圭は視線を外したまま、膝の上の布地を固く握りしめた。


「昔、僕もいじめられて……自分を守るために、転校しました。

でも、転校先で、クラスメートが同じ目に遭ってるのを見て……

僕は、そいつを殴りました」


喉の奥が熱い。


「その場面だけが切り取られて、SNSに動画が出ました。

ヒーローって言う人もいた。

ただの暴力だって言う人もいた」


その瞬間、チャット欄が加速する。


『はい論破w』

『どの口が言ってんの?暴力加害者の分際で』

『〇〇中の佐藤じゃね?顔似てるわ』

『特定はよ』

『投げ銭したら、その殴った時の感触もっと詳しく話す?w』


圭は、何かを言おうとして口を開けたまま固まった。


マイクが、彼の喉が「ゴクリ」と鳴る、乾いた音を鮮明に拾う。


思考が真っ白に染まっていく。

そこに、追い打ちをかけるような「善意」が流れる。


『圭くん、もうこんな暗いことやめて、もっと前向きな配信しなよ』

『殴った相手に会いに行って謝るのが、本当の勇気じゃないかな?』


「……あ」


掠れた声が漏れる。


正しい。

あまりにも正しい言葉が、圭の逃げ場を塞いでいく。


「……そう、ですね。……それが、できたら」


反射的に、リスナーを肯定する言葉を選んでしまう。

相手の機嫌を損ねないように。嫌われないように。

そんな自分自身への嫌悪感が、胃の底で渦巻いた。


ふっと、圭の肩から力が抜ける。


「……守った側も、けっこう疲れるんですよ。

強くなったわけじゃない。

ただ、ボロボロに消耗しただけ」


画面には『888888』『おつー』といった、意味を持たない記号が滝のように流れていく。

彼の告白も、絶望も、ここでは等しく「暇つぶしの材料」に過ぎない。


「……今日は、ここまでにします。

ここは、解決する場所じゃない。……ただ、声を置く場所です」


「……おやすみなさい」


手が画面の外に伸び、マウスをカチッとクリックした。


配信終了。


一瞬で静まり返る部屋。


暗転したモニターの隅に、

**『最大同時視聴者数 184』**という数字が残っていた。


さっきまで自分を嘲笑っていた数字。

けれど、それが前回の配信より増えていることに、どこか安堵している自分がいた。


傷を切り売りして、身元を特定される恐怖に怯えながら、

それでもこの数字に縋っている。


「……っ、げほっ」


圭は顔を両手で覆い、

込み上げる吐き気をこらえるように、浅い呼吸を繰り返した。


リスナーへの憎しみと、

数字に依存する自分への反吐が出るような自己嫌悪。


暗い部屋の中、パソコンの冷却ファンの音だけが、やけに現実的な音で鳴り続けていた。

一応文章の体をなしていると思います。

夜中にふと思いついてぽちぽちスマホに入力してました。初めての作品です。

なんか修正に修正を重ねてます。すみません。

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