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放火魔は我々を呼んでいる  作者: パーカー


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7/7

最終章 最後の点呼

点呼は、確認のために行われる。

 そこにいる者の数を確かめ、

 名前と返事を結びつけ、

 誰も欠けていないことを確信するために。

 だが、もし最初から

 数が合っていなかったとしたら。

 呼ばれなかった名前があり、

 鳴らなかった音があり、

 来るはずだった夜が

 途中で終わっていたとしたら。

 本書は、

 そうした「終わらなかった夜」が、

 静かに続いていた場合の物語である。

 火は、

 燃えるべきものを燃やす。

 そして、

 呼ばれるべき数が揃うまで、

 終わらない。

夜が明ける前、町は静かだった。

 詰所の前には規制線が張られ、

 焦げた匂いだけが、まだ残っている。

 半焼。

 そう記録された。

 全焼ではない。

 死者もいない。

 それで、この件は終わることになっていた。

 朝、臨時の点呼が行われた。

 詰所は使えないため、

 公民館の一室に集まる。

 蛍光灯の下、

 並ぶ椅子。

 名前が呼ばれる。

「一番、佐藤」

「はい」

 返事があり、

 次の名前が呼ばれる。

 淡々と、

 滞りなく。

 私は、名簿を見ていた。

 十三人分の名前。

 それだけだ。

 違和感は、ない。

 昨日まで感じていた

 「余り」は、どこにもない。

 点呼は、問題なく終わった。

 誰も何も言わない。

 質問も、確認もない。

 それが正しい対応だと、

 全員が理解していた。

 あの夜、

 詰所で何が起きたのか。

 誰がいなくなったのか。

 ――最初から、

 いなかったことになっている。

 帰り際、

 私は一度だけ振り返った。

 窓に映る自分の顔は、

 少しだけ老けて見えた。

 それでも、

 欠けてはいない。

 数は、揃っている。

 その夜、

 サイレンは鳴らなかった。

 翌日も、

 その次の日も。

 夜は、

 きちんと終わるようになった。

 町は、

 安心を取り戻した。

 数週間後、

 倉庫の整理中に、

 私は一枚の写真を見つけた。

 二十年以上前の、

 出初式の集合写真。

 十三人が並んでいる。

 その端に、

 誰かが立っていたような

 余白がある。

 だが、

 拡大しても、

 何も写っていない。

 私は写真を戻した。

 それでいい。

 夜、

 自宅でくつろいでいると、

 遠くで音がした。

 サイレンではない。

 ただ、

 風が鳴っただけだ。

 それでも、

 私は一瞬、耳を澄ました。

 数を、

 頭の中で数えてしまった。

 十三。

 合っている。

 火は、もう来ない。

 来るはずだった数は、

 すべて呼ばれた。

 置いていかれた夜は、

 これで終わった。

 町は、

 また眠りにつく。

 静かな夜が、

 ちゃんと続いていく。

 ――そう信じられる程度には。

この物語に、

 明確な犯人はいない。

 誰かが悪意を持って

 火をつけたわけでも、

 誰かを裁く存在が

 現れたわけでもない。

 あるのは、

 鳴らなかったサイレンと、

 来なかった一人と、

 それを「なかったこと」にした

 静かな選択だけだ。

 消防団は、

 町を守るために存在する。

 そして同時に、

 守れなかった夜を

 最も多く抱えている存在でもある。

 火は、

 それを責めない。

 正しさも問わない。

 ただ、

 置いていかれたままの夜を

 終わらせに来ただけだ。

 もしこの物語を閉じたあと、

 夜にサイレンが鳴って、

 一瞬だけ

 「全員いるだろうか」と

 思ってしまったなら――

 それでいい。

 点呼は終わった。

 だから今夜は、

 火も来ない。

 ……少なくとも、

 数が揃っている限りは。

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