Scene 4|夜を照らすもの
夜の空気に、ほんのわずかな“違和感”が混じる。
ロロが眠りに落ちた後、彼の枕元に風が吹いた。
──風など、窓を閉めた部屋にあるはずがないのに。
その風は、ふわりとページをめくり、ロロのノートにひとつの言葉を書きつけた。
『選ぶということは、ひとつを手放すこと』
かすれた文字。その筆致は、ロロのものではない。
さらに一行。
『でも君は、まだ灯していない。だから、まだ壊していない』
その文字を、ロロは夢の中で読み上げる。
「誰……?」と彼が問うと、答えは風の中に溶けていった。
──カサ。
机の上に、小さな白いうさぎの人形が置かれていた。
目を開けているのか、眠っているのかさえ分からないような、無機質で、それでも温かみのあるぬいぐるみ。
ロロが目を覚ましたとき、それはもう消えていた。
けれど、ノートにはその足跡だけが、うっすらと残っていた。
それが“■■■■■”の最初の兆しだったのかもしれない。
朝になっても、ロロの身体は重く、まるで何かを引きずっているようだった。 カーテンの隙間から差し込む光さえも、どこか偽物のように感じる。
それでも学校に行かなければならなかった。 そう思わせる“なにか”が、彼の中に残っていた。
制服に着替え、鞄を持って玄関を出たとき。足元に、白い紙が落ちていた。
──また、カードだ。
拾い上げると、そこにはいつものように黒インクで短い文章が記されていた。
『今日、彼は最初の“扉”に触れる』 『忘れるな、君が選んだ光の意味を』
裏返すと、手書きのような不揃いな文字で、こう書かれていた。
──■■■■■は見ている。
その名前は、もうロロの脳では読み取れない。 けれど、確かに誰かが“灯して”くれようとしているのを感じた。
学校への道を歩きながら、ロロはポケットにカードをしまった。
まるで、それが“お守り”でもあるかのように。
この世界のどこかで、夜がひとつ、またひとつ灯っている。
そして、その光が届く先に、きっと“■■■■■”がいる。
──忘却は、静かに、優しい顔をしてやってくる。
でも。
それでも、自分は選ばなければならない。 思い出すことを。向き合うことを。
「……行こう」
ロロは歩き出した。 静かに夜が明けていく街の中を、ひとり、まっすぐに。
物語はまだ、始まったばかりだった。




