Scene 3|深夜の声
夜。ロロの部屋は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
机の上のノートは閉じたままだったが、彼の頭の中は、あの“住吉”のことでいっぱいだった。
「……なんで、あいつだけ……」
無意識のうちに、口をついて出た言葉。
ロロは窓の外を見た。街灯がぼんやりと照らす夜道。けれどその光も、今日はやけに頼りなく思えた。
寝ようとベッドに入って目を閉じた瞬間、
──カタッ。
机のほうから、音がした。
誰もいないはずの部屋。 音の正体を確かめようと、ゆっくりと体を起こす。
そのとき──耳元に、誰かの“声”が届いた。
「きみは、物語を壊した」
ロロの身体が一瞬で硬直する。
振り向いても、誰もいない。部屋の空気は動いていないのに、確かに“風”を感じた。
「……誰……?」
答えはなかった。 だが、視界の端に、なにかが揺らめいた。
目を凝らすと、机の上に置かれていたノートのページが、ひとりでに開いていた。
そこに、見覚えのない図形と、黒インクで記された文章が浮かんでいた。
『“彼”はまだ目を閉じている』 『世界は眠りながら君を待っている』
その下に、またしても現れた記号──目のマーク。
ロロは息を呑んだ。
現実と夢の境界が、ゆっくりと溶け始めている。
ふと、机の引き出しから“カード”が滑り落ちる。
あの夢の中で渡された、小さなカード。
裏には、また違う文字が浮かび上がっていた。
『闇に触れる者は、灯りを忘れてはならない』
──■■■■■。
その名を、ロロはまたしても読めなかった。 でも、どこかで“約束”を交わした気がする。
それは、まだ目覚めぬ物語との、最初の契約だった。
ベッドに戻っても、ロロはまったく眠れなかった。 目を閉じるたびに浮かんでくる、あの声。
「きみは、物語を壊した」
まるで、呪いのように脳裏を巡るその言葉は、 彼が何か“取り返しのつかないこと”をした証のようだった。
(でも俺は──願っただけなのに)
アヤを戻したい、それだけだった。 それなのに、なぜこんなにも苦しくなるのだろう。
再びノートを開く。 そこには、新たな文字が浮かび上がっていた。
『代償はまだ終わっていない』
思わずページを閉じる手が震えた。 心の奥に、小さな亀裂が走る音がした気がした。




