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ヘッドホン・エスケープ  作者: リル
第二話『忘却はいつも優しい顔をしている』
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Scene 3|深夜の声

夜。ロロの部屋は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

机の上のノートは閉じたままだったが、彼の頭の中は、あの“住吉”のことでいっぱいだった。


「……なんで、あいつだけ……」


無意識のうちに、口をついて出た言葉。


ロロは窓の外を見た。街灯がぼんやりと照らす夜道。けれどその光も、今日はやけに頼りなく思えた。


寝ようとベッドに入って目を閉じた瞬間、


──カタッ。


机のほうから、音がした。


誰もいないはずの部屋。 音の正体を確かめようと、ゆっくりと体を起こす。


そのとき──耳元に、誰かの“声”が届いた。


「きみは、物語を壊した」


ロロの身体が一瞬で硬直する。


振り向いても、誰もいない。部屋の空気は動いていないのに、確かに“風”を感じた。


「……誰……?」


答えはなかった。 だが、視界の端に、なにかが揺らめいた。


目を凝らすと、机の上に置かれていたノートのページが、ひとりでに開いていた。


そこに、見覚えのない図形と、黒インクで記された文章が浮かんでいた。


『“彼”はまだ目を閉じている』 『世界は眠りながら君を待っている』


その下に、またしても現れた記号──目のマーク。


ロロは息を呑んだ。


現実と夢の境界が、ゆっくりと溶け始めている。


ふと、机の引き出しから“カード”が滑り落ちる。


あの夢の中で渡された、小さなカード。


裏には、また違う文字が浮かび上がっていた。


『闇に触れる者は、灯りを忘れてはならない』


──■■■■■。


その名を、ロロはまたしても読めなかった。 でも、どこかで“約束”を交わした気がする。


それは、まだ目覚めぬ物語との、最初の契約だった。


ベッドに戻っても、ロロはまったく眠れなかった。 目を閉じるたびに浮かんでくる、あの声。


「きみは、物語を壊した」


まるで、呪いのように脳裏を巡るその言葉は、 彼が何か“取り返しのつかないこと”をした証のようだった。


(でも俺は──願っただけなのに)


アヤを戻したい、それだけだった。 それなのに、なぜこんなにも苦しくなるのだろう。


再びノートを開く。 そこには、新たな文字が浮かび上がっていた。


『代償はまだ終わっていない』


思わずページを閉じる手が震えた。 心の奥に、小さな亀裂が走る音がした気がした。

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