Scene 1|空白のノート
朝、ロロは不思議な感覚で目を覚ました。
目を開ける前から、胸の奥に違和感があった。
起き上がり、机の上に置きっぱなしだったノートを開く。
そこには、自分の字で書かれているはずのメモがあった。だが、書かれている内容にまったく心当たりがない。
『灰色の廊下』『四番目の扉』『開けるな』
意味がわからない。まるで夢の断片のようだ。
「俺……こんなの、書いたっけ」
ページをめくるごとに、“知らない記憶”が増えていた。
黒板の図、単語のメモ、名前の走り書き──どれも、自分のものとは思えなかった。
まるで、自分以外の誰かが、自分を使ってノートを書いているような。
そのとき、スマホが震えた。
──『おはよう、ロロくん。昨日の宿題、手伝ってくれてありがとう!』
アヤからのメッセージ。
そこに書かれていた“昨日の出来事”は、ロロの記憶には存在していなかった。
──また、何かが書き換えられている。
ロロは、カーテンを開け、朝の光の中で静かに息を吐いた。
日常は続いているように見える。けれど、その足元の地面が、音もなく崩れ始めていることを、彼だけが知っていた。
──そして夜、ロロは夢を見た。
白い空間。何もない世界の中心に、誰かが立っていた。
その存在は朧げで、顔すらもよく見えなかった。だが、声だけははっきりと覚えている。
「君は、まだ灯していない」
その声は静かで、あたたかかった。
ロロが何かを言おうとした瞬間、夢は唐突に終わった。
目を覚ますと、掌の中に小さなカードがあった。
いつの間に入っていたのかは分からない。
『君が忘れたものは、灯さなければ戻らない』
──■■■■■。
その名前は、確かに“どこかで聞いたことがある気がする”。けれど、思い出せない。
だからこそ、ロロは確信していた。
忘却は、静かに、確実に進行している。
優しい顔をして、すべてを奪っていく。




